二子玉川東第二地区市街地再開発組合が二子玉川東第二地区第一種市街地再開発事業の説明会を2011年5月12日に高島屋アレーナホールで開催した。この再開発事業はオフィスなどの高層ビル建設を中心とする計画であるが、住環境の悪化を憂える住民の声が多数寄せられた。
説明会は「世田谷区環境基本条例」(開発事業等に係る環境配慮制度)、「世田谷区風景づくり条例」、「東京都中高層建築物の建設に係る紛争の予防と調整に関する条例」に基づくもので、5月15日にも開催される。計画建物高さの2倍(敷地境界線より約274メートル)の地域の住民に案内されたが、成城や尾山台など区内各地から集まり、関心の高さを示した。
説明会は川邉義高・理事長の挨拶で始まった。川邉氏は東京の西の玄関にふさわしい安心・安全の街にすると挨拶した。続いて映像による説明である。そこでは二子玉川ライズが新たな都市のスカイラインを形成すると述べる。二子玉川は景勝地、行楽地として発展してきた。かつては桃の畑で桃源郷と呼ばれてきた。この歴史を尊重し、人工地盤上の豊かな自然を配置した。高層建物を多摩川側、低層建物を国分寺崖線側に配置し、崖線のスカイラインに配慮したとする。
この説明に対しては周辺住民からは異論の出るところである。実際、世田谷区長に対しうる二子玉川ライズへの公金支出差止訴訟の控訴審の「準備書面(1)」で住民側は以下のように主張する。
「これまで風致地区に指定され、建築制限等住民の権利を規制することによって自然環境や景観を保全してきた地域に、超高層建築を乱立させるものであって、到底『水と緑の豊かな自然環境と調和し』ているなどとは言い得ない。」
また、高層建物を多摩川側に配置したことは、再開発地域と多摩川の間にある玉川1丁目の二子玉川南地区の圧迫感や風害を大きくする結果になった。この風害については説明会でも住民側から多数の問題提起が出された。
映像説明や配布資料では第二地区再開発(2期事業)が二子玉川東地区第一種市街地再開発事業(1期事業)と一体であると述べている。これは裁判での二子玉川東地区第一種市街地再開発組合(理事長は同じ川邉氏)の姿勢とは対照的である。住民側は1期事業の差し止め訴訟控訴審で2期事業の見直しも呼びかけたが、再開発組合は1期と2期は当事者が異なると形式的に拒絶した(林田力「100人以上の市民が二子玉川ライズ行政訴訟提訴(中)」PJニュース2011年1月7日)。
http://www.pjnews.net/news/794/20101230_3
続いて映像では電波障害、風害、日影被害という周辺住民の被害について触れる。
第一に電波障害である。配布資料の「テレビ電波障害予測範囲図」ではデジタル放送の電波障害発生予想地域が建設地の南西に広がっている。電波障害地域は多摩川を越え、神奈川県川崎市の二子2丁目、溝口4丁目にも及んでいる。
第二に風害である。風洞実験を行った結果、風環境評価尺度がランク1(住宅地の商店、野外レストラン)及びランク2(住宅街)に収まったとする。しかし、住民の質問によって調査の問題点が明らかになった。
第三に日影被害である。配布資料の「時刻別日影図」では日陰被害が説明会周知範囲を超えて広がっている。8時の日陰は建設地の北西に伸び、玉川3丁目の谷川緑道も日陰になる。配布資料では切れており、どこまで日陰が伸びているか不明である。16時の日陰は建設地の北東に伸び、多摩川美術大学上野毛キャンパスなど隣駅の上野毛駅最寄りの地域まで含まれる。この日陰も、どこまで伸びているかは配布資料では不明である。
最後に質疑応答である。住民からは再開発による住環境の悪化について切実な声が寄せられた。当初の都市計画では二子玉川駅前が公園予定地であった。これが実現したならば、ゆったりした住みよい街であった。ところが二子玉川再開発では公園は駅から離れた場所に移動させられた。
説明会では再開発の内容ばかりで、周辺住民の環境がどうなるかということが脇に追いやられている。現在も渋滞が起きているが、再開発の竣工後は悪化するのではないか。自動車の排気ガスによる大気汚染の懸念がある。空が見えなくなった。国分寺崖線が見えなくなった。富士山が見えなくなった。圧迫感も説明していないと指摘された。
広大な工事現場での長期に渡る工事にも不安が寄せられた。風が舞うと埃が飛んでくる。街灯が少なく、女性が一人で歩くには物騒である。そのため、地元商店に客が入ってこない。計画通りに工事が行えるのか。1期事業では騒音や振動が酷い業者がおり、家が揺れて何度も苦情を申し立てた経緯がある。
中でも風害が大きな問題として取り上げられた。既に1期事業で建設されたビルによる風害が起きている。再開発地域の南側は南風が吹くと、ビルで反射して北風が吹く。特に「二子玉川ライズ オフィス」の南側が酷い。自転車に乗れないくらい風が強い。現実に事故が起きている。女性がビル風にあおられて顔面から倒れ、肩の骨を骨折した。既に酷い状態であるが、2期事業のビルが建設されたら、生活できなくなると懸念する。
風害対策について事業者側は実態を調査中で、植栽を植えるなどの部分的な対策も取っていると回答した。但し、敷地内での対策には限界があり、道路側でも対策出来ないかと考えているとする。道路は行政の管轄であり、行政と相談していると述べた。
ここには周辺環境に対する事業者の無責任体質が現れている。高層ビルの風害が問題ならば事業者が自らの敷地内で解決することが筋である。行政に対策を求めることは筋違いである(林田力「二子玉川再開発訴訟証人尋問から見えるコンクリと人の対立(下)」PJニュース2010年4月19日)。
http://www.pjnews.net/news/794/20100417_2/
住民からの質問によって、風害のアセス方法にも疑問が付される結果になった。風洞実験のための風のデータは東京都千代田区大手町の東京管区気象台のものを利用したとする。このために多摩川沿いで風の強い玉川地域の実情を反映していないのではないかと疑問視された。
また、風環境評価尺度は強風の出現頻度でレベル付けする尺度である。レベルが低ければ強風の頻度が少ないことになるが、強風が吹かないことを意味しない。そのため、住民の立場では低レベルだからといって安心できないことになる。
ビル風で骨折した女性に見舞いにも行かない再開発組合の姿勢も批判された。「見舞いに行くつもりがありますか」との質問には回答せず、他の人の質問を進めようとした。これに対し、「答えなさい」「迷惑な質問には答えないのですか」との声があがり、事業者側は「怪我の事実は把握しているが、原因が分かっていない。」と答えた。担当者の態度は落ち着いていたが、この男の内部に秘められた虚偽が垣間見えた。会場からは「原因を調査して評価することは当然」「犠牲者が何人出れば気が済むのか」との反応が出た。
風害の他には以下のやり取りがなされた。
外環道(東京外かく環状道路)が二子玉川に向かう動きがある。これへの対応を問う質問に対し、事業者側は「把握していない」と回答した。
東日本大震災を踏まえてマグニチュード9.0への対応を問う質問には、免震構造を採用し、耐震基準の1.25倍の強度があるとの回答であった。これに対しては会場から「足りない」「時代遅れ」「こんなレベルなんだよ」との声が出た。
1期事業ではビルのエレベータや階段などに税金が使われている。2期事業にも使われるのかとの質問には、約70億円の補助金が出ると回答した。再開発地域には区民会館や図書館などの公共施設がないとの指摘には、公開空地があると回答した。
最後に再開発事業の必要性を問う根本的な質問が出された。この再開発は商業施設やオフィスなど事業中心である。事業者は自然や空き地をメリットに挙げるが、元々が公園であり、公園のままならば緑地も空地も十分にあった。東日本大震災後に不要不急の再開発事業を行う必要があるのかと尋ねた。
これに対して再開発組合の事務局からは、広域生活拠点などと定めた上位計画に基づくものと回答した。その上で個人的見解として、郊外にサブ的なオフィスを提供することは都心一極集中の是正になると述べた。
この回答は質問者の問題意識に対応していないが、再開発の事業性にも不安を抱かせる。サブ的なオフィスと称することは、都心の利便性に劣ることを認めたようなものである。二子玉川はメインの事業拠点にはならないことになる。この点は二子玉川の街に高層オフィス棟は不適との反対住民の主張と符合する。
東日本大震災で東京に事業拠点を集中するリスクが認識されたことは確かであるが、都心と世田谷では災害対策として事業拠点を分散する需要に応えられない。都心に災害が起きれば二子玉川も無事では済まない。再開発に経済的基礎がないとの主張(林田力『二子玉川ライズ反対運動』マイブックル、2010年、160頁)を裏付ける回答であった。
「大型開発優先の区政から転換」を掲げて世田谷区長選挙に当選した保坂展人氏は、大型開発による環境破壊に心を痛める市民にとって大きな希望である。記者は二子玉川ライズ取消訴訟原告として再開発問題に関係してきた立場から、保坂区政に政策を提言する。これは記者個人の見解である。
第一に第1期事業(二子玉川東地区第一種市街地再開発事業)の住環境被害に対する、住民の立場に立った事業者・二子玉川東地区第一種市街地再開発組合との調整である。既に周辺地域では振動や風害、照り返し光害が大きな問題になっている。二子玉川ライズ・ショッピングセンターなどの開業による交通渋滞対策も大きな課題である。
これは本来ならば事業者が住民の声に誠実に向き合えば問題にならないが、残念ながら事業者の自発的な対応を期待することはできない。「住民の福祉の増進を図ること」が地方公共団体(地方自治体)の基本である(地方自治法第1条の2)。住民の生活を守るために行政が積極的に調整する必要がある。
これは記者の経験からも思い当たる。記者は東急不動産(販売代理:東急リバブル)から不利益事実を隠して新築マンションをだまし売りされた(林田力『東急不動産だまし売り裁判 こうして勝った』ロゴス社、2009年)。業者が話し合いに応じた時は記者が国土交通省や東京都都市整備局に申し出た後だけであった。これが日本の実態である。
第二に今後進められる第2期事業(二子玉川東第二地区第一種市街地再開発事業)に対し、住民の立場に立った事業者・二子玉川東第二地区市街地再開発組合との調整である。第2期事業は認可過程で199通もの意見書が提出され、そのうち191通が計画の見直しを求めるなど反対意見が圧倒的であった(林田力「二子玉川第二地区再開発への意見書採択結果通知」PJニュース2010年6月23日)。
http://www.pjnews.net/news/794/20100622_8/
世田谷区には住民と事業者の話し合いの場を作り、住民の意見を反映するように調整することを期待する。過去にも同趣旨の陳情「二子玉川東地区第一種市街地再開発事業第2期事業基本計画等について、住民、行政、事業者で協議する場を設ける事に関する陳情」が約1000筆の署名と共に世田谷区議会に提出されている(林田力『二子玉川ライズ反対運動』マイブックル、2010年、86頁)。
第2期事業の工事についても、事業者に工事スケジュールの事前提示を徹底させ、夜間工事をさせないなど住民の負担を少なくするような調整を期待する。これは1期事業の工事では全くできていなかった。1期事業では工事の都合で道路が突然、通行止めになり、住民は毎週のようにルートを変えなくてはならない。夜間、自転車で走っていて通行止めのバーに衝突した人が存在したほどである(『二子玉川ライズ反対運動』68頁)。
第一の点と第二の点は行政による調整という点で同じ問題であるが、事業者が東地区再開発組合と東第二地区再開発組合という別団体であるために形式的には分けた。しかし、両者は同一人(川邉義高氏)が理事長であり、ウェブサイトも共通する(林田力「100人以上の市民が二子玉川ライズ行政訴訟提訴(下)」PJニュース2011年1月8日)。
http://www.pjnews.net/news/794/20101230_4/
事業者自身も両事業が「一体となった事業」であると主張している(東第二地区再開発組合「二子玉川東第二地区第一種市街地再開発事業説明会資料」1頁)。そして東急電鉄・東急不動産が大規模地権者である点も共通である。それ故に行政が第一の点と第二の点を進めるに際しては、第1期事業の問題・第2期事業の問題と形式的な分類をせず、必要ならば再開発組合の背後にいる東急グループを住民との話し合いのテーブルにつかせることも期待する。
第三に二子玉川の都市計画の見直しである。高層ビルの建築が風致地区であった二子玉川の街に本当に相応しいか再検討する。国分寺崖線と多摩川に挟まれた緑豊かな二子玉川が景勝地・行楽地として発展してきたことは事業者も認める事実である(林田力「二子玉川再開発説明会で住民の懸念続出=東京・世田谷」PJニュース2011年5月16日)。
http://www.pjnews.net/news/794/20110513_1
既に超高層マンション「二子玉川ライズ タワー&レジデンス」など第1期事業の建物は竣工している。しかし、これは再開発問題が過去の問題になったことを意味しない。現状の都市計画では二子玉川に超高層ビルを建築することは許容されている。それ故に「二子玉川ライズ
タワー&レジデンス」などが建設できた訳である。この高層ビル建築を許容する都市計画が適切であるのか検討し、不適切ならば改めることは現在及び将来の世田谷区政の問題である。
第四に都市計画公園・二子玉川公園の見直しである。元々の計画では公園は駅から近い場所に世田谷区と東急グループの間の協定に沿った形で駅から離れた場所に移動された。これによって周辺住民や遠方からの訪問者が利用しにくい場所になってしまった。さらに新たに立ち退かなければならない住民も生じている。
さらに現行計画は約10メートルもの盛り土をするため、街を分断し、近隣住民に圧迫感を与える。これは災害対策の点で問題である。盛り土が水の流れを塞き止め、洪水被害を激化させる危険がある。また、盛り土が絶壁となってパレスチナの分離壁のように周辺地域から隔絶された公園は災害時の避難所としても不適当である。
故に住民に役立ち、自然災害を減少し、災害時に住民の役に立つ公園に改めることを期待する。これは「災害対策の総点検」を掲げた保坂区長の公約にも合致する。
第五に玉川地域の洪水対策の見直しである。玉川地域は世田谷区のハザードマップで洪水被害の危険性の高い地域とされている。そのような地域の中心部にあった広大な緑地が再開発によってコンクリートで覆われた。約7メートルの人工地盤でかさあげされ、超高層ビルが建設された。玉川地域の環境が激変した以上、シミュレーションをし直し、必要な対策を講じることが期待される。再開発地域が原因ならば、事業者に対処させるべきである。これも「災害対策の総点検」を掲げた保坂区長の公約に合致する。
第六に超高層ビルの震災対策である。三陸沖を震源地として2011年3月11日14時46分に発生した東北地方太平洋沖地震(東日本大震災)はマグニチュード9という巨大地震であった。この規模は従来の想定を不十分とさせるものであった。震源から遠く離れた東京でも震度5強を観測し、超高層ビルにとって大地震の初経験となった。長周期地震動による長時間の揺れやエレベータ停止による高層難民化など以前から指摘されていた超高層ビルの弱点が机上の空論でないことが確認された。
ビルのオーナーやマンションの区分所有者は資産価値低下を恐れて隠す傾向があるが、損壊状況は安全性を検証する上で貴重なデータになる。行政が積極的に調査し、対策に役立てることを期待する。特に多摩川の川べりに位置する二子玉川ライズは超高層ビルの地盤としては懸念があり、入念な検証が求められる。これも「災害対策の総点検」を掲げた保坂区長の公約に合致する。
第七に二子玉川東地区再開発の認可過程の精査である。再開発の目的は「公共の福祉に寄与する」ことである(都市再開発法第1条)。世田谷区の全ての情報を開示して、二子玉川東地区再開発が公共の福祉に寄与することを目的として進められてきたのか検証する。
二子玉川東地区再開発は多数の住民の反対意見がありながらも進められてきた。これを反対住民はマンション分譲やオフィス賃貸など東急電鉄・東急不動産の営利事業のための再開発であると批判する。何のための再開発であったかを検証することは、「情報公開」を掲げる保坂区長の公約に合致するものである。
住民団体・二子玉川の環境を守る会のメンバーらが2011年6月6日、世田谷区役所・第一庁舎で世田谷区長と面会した。環境を守る会は二子玉川東地区再開発(街の名称:二子玉川ライズ)が住環境を破壊する企業利益優先の事業であるとして見直しを求めている住民団体である。
二子玉川再開発の反対運動は前世紀から続いている息の長い運動である。住民らは大場啓二氏、熊本哲之氏の歴代区長に面談を求めたが、拒否され続けた。そのため、保坂区長が面談に応じた意義は大きい。「大型開発優先の区政から転換」を公約に掲げた保坂区長の姿勢を示している。
約15人の住民らは二子玉川再開発の切実な問題を次々に保坂区長に訴えた。高層ビル「二子玉川ライズ オフィス」などのビル風によって安全・安心な街とは程遠い状態である。屋根を抑えている鉄板が飛ばされた。女性がビル風にあおられて顔面から倒れ、肩の骨を骨折した。保護者が子どもに雨の日でも傘をさしてはダメと指導するような危険地帯になっている。
再開発組合に風速計の設置を求め、ようやく設置させたが、ビル寄りの場所に設置したために計測値が小さい値になり、実態と乖離している。二子玉川東第二地区市街地再開発組合の説明会では風害のアセスに現地のデータではなく、東京都千代田区大手町のデータを利用していることが判明した(林田力「二子玉川再開発説明会で住民の懸念続出=東京・世田谷」PJニュース2011年5月16日)。
http://www.pjnews.net/news/794/20110513_1
その上で区長に、風害など第一期事業の被害を根絶するまでは第二期事業の工事を認めないように求めた。また、実際の被害の確認してもらうために現地視察を要望した。
立ち退きを迫られる二子玉川公園予定地の住民は「何の説明もなく道路建設が進められている」と訴えた。まるで包囲されているようで、住民が心理的に圧迫されている。現在居住している人々を犠牲にして、これから来る人達のためだけに開発が進められていると主張した。
また、税金の使い方も問題視された。住民は高層マンション「二子玉川ライズ
タワー&レジデンス」のパンフレットを提示しながら、東急電鉄や東急不動産の分譲マンションに税金が使われることの不合理を説いた。その上で、これまで再開発に投入された税金の金額の開示を求めた。
短い面談時間の中で住民側の抱える全ての問題を説明することはできなかったが、保坂区長は住民が触れていない水害の懸念に言及するなど二子玉川問題への意識の高さを示した。再開発に投入された税金の金額の開示について、保坂区長は税金の使途を知ることは納税者の権利であると述べて、応じる意向を示した。また、街並みは住民や訪問者の共有財産との考えを披露した上で、住民との話し合いを続けていきたいとまとめた。
二子玉川の環境を守る会と二子玉川再開発裁判原告団が2011年5月7日に学習決起集会「わたしたちは裁判に何を問いかけているのか―大震災 いま、いのち・くらし、環境を守ることこそ公共性」を東京都世田谷区等々力の玉川区民会館で開催した。東日本大震災や福島第一原発事故、大型開発優先の区政からの転換を公約に掲げる保坂展人区長の誕生など世の中が激動している中で再開発反対運動の正しさを再確認した。
東京都世田谷区玉川では超高層ビル主体の二子玉川ライズ(二子玉川東地区再開発)が進行中であるが、住環境の破壊や洪水被害の増大などを理由に住民らから反対運動が起きている。反対運動の中心的な住民団体が二子玉川の環境を守る会である(林田力「二子玉川ライズ反対住民運動が団体名変更=東京・世田谷(1)」PJニュース2011年2月1日)。
http://www.pjnews.net/news/794/20110131_3/
また、二子玉川ライズに対しては3つの裁判が係属中である。二子玉川東地区市街地再開発組合に対する事業差止訴訟(民事訴訟)、世田谷区に対する公金支出差止訴訟(住民訴訟)、東京都に対する再開発組合設立認可取消訴訟(行政訴訟)である。記者も取り消し訴訟の原告である。これら3つの訴訟を束ねる原告団が二子玉川再開発裁判原告団である。
最初に3つの裁判の住民側訴訟代理人の淵脇みどり弁護士が「弁護団報告」と題して話をした。これまで日本社会は経済効率優先で走ってきたが、東日本大震災や福島第一原発事故によって経済優先の問題点に気付き、人命重視に変わりつつある。ようやく当たり前のことが認められるようになった。二子玉川ライズに対する訴訟は当たり前のことを言い続けていた裁判である。これからも自信をもって言い続ける。
二子玉川ライズでは東急グループが主体の再開発組合、まちづくりを担う世田谷区、再開発事業を認可する東京都というアクターが存在する。これらのアクターが皆、住民に対して責任を取ろうとせず、たらい回しにしている。それ故に3件も訴訟を行う形になっている。
事業差止訴訟では2月28日、最高裁に上告理由書を提出した。上告理由書は43頁にも渡る長大なもので、最高裁の要請により、2頁にまとめた理由要旨も追加している。
分譲マンション建設などの二子玉川ライズは公共性がない。公共性があるかないかを問う裁判であるのに、東京高裁判決は手続きを経ているからとして公共性の判断をしなかった。これは司法の責務を放棄する不当な判決である。
この種の裁判では証拠は圧倒的に事業者側が持っている。住民が一定のラインを立証したならば、反証がない限り、住民の主張を認める立証責任の転換を認めるべきである。住民側に過酷な立証責任を負わせるならば差し止め請求権を否定するに等しい。これら東京高裁判決の問題点を上告理由要旨に沿って説明した。
次に二子玉川の環境を守る会の新井英明会長からの挨拶がなされた。東日本大震災は第二の戦後の始まりである。第一の戦後は神風神話から目を覚ますことになった。第二の戦後は原発の安全神話から目を覚ますことになった。次は公共性の神話から目を覚ますことである。政府・行政の進めることは何でも正しいと思考停止せずに自分の頭で考える。既に保坂展人氏に会った。第一期工事は完成しているが、超高層ビルが建設されたからこそ風害などの被害が明確になり、住民運動が広がっている。
続いて参加者の討議に移った。再開発地域の近接住民からは風害について報告された。再開発地域の南側では南からの風が再開発ビルにぶつかり、強風となってはね返っている。そのビル風にあおられて骨折し、入院して手術した女性がいる。ひっくり返って、頭を打ったという。世田谷区に事実関係を調べるように申し入れた。近所の家の庇の一部が風で吹き飛ばされた。家の周りが折れ傘の捨て場になっている。風については住民皆が不満を持っている。世田谷区が東急電鉄・東急不動産に弱腰過ぎると憤りを顕わにした。
他の住民からも、親が傘を閉じて道路を渡りなさいと指導しているとの深刻な事態が報告された。二子玉川ライズによって危険だらけの街になった。地元では風害が大問題になっている。二子玉川の環境を守る会でも地元住民の抱える問題を積極的に取り上げるべきとの提言がなされた。
また、裁判の意義についても意見が出された。事業差し止め訴訟の上告は、再開発を正当化する論理が承服できないという立場を明確にしたという意味がある。これは第二期事業を問題にする上でも意味がある。原発事故の例を出すまでもなく、司法の判断の誤りは歴史が証明する。
最後に行動提起として5月9日に最高裁判所に要請書を提出することが確認された。要請書では再開発事業を「不動産建築、販売、賃貸事業」にであって、公共事業ではないと断じている。特定企業と行政の癒着による乱開発であって、都市再開発法の目的に反すると主張する。
その上で東日本大震災・原発事故から政治の転換の必要性を述べ、国民の命、安全、生活、環境を守るという行政の本来的な公共的役割の発揮を求める。巨大なビルを多摩川に並べて自然環境や住環境を破壊する二子玉川ライズは即刻中止し、見直しを提言する。最後に憲法第13条の生命・自由・幸福追求権や第25条の生存権を基礎とする良好な環境の下に生活し続ける権利、環境権、まちづくり参画権の公正な判断を求めて締めている。
これまで日本の立法も司法も行政も幸福追求権や生存権を単なる政治的宣言と位置付け、その内容を具体的に考えなかった傾向がある。その貧困が様々な問題を引き起こしてきたが、特に東日本大震災で大きく露呈した。東京新聞の2010年5月3日付社説「憲法記念日に考える 試される民主主義」は以下のように記している。
「第一三条、第二五条第一項と第二項は、廃墟(はいきょ)に立つ日本人にとって希望の灯となりました。……生活再建のめどが立たない被災者、避難者らには、六十五年前の日本人が頼りにした光が果たして見えているでしょうか。」
住民の生活や住環境を破壊する再開発が進められるという現実も、幸福追求権や生存権が空虚なことに起因する問題である。その意味でも最高裁の判断が注目される。
東京都世田谷区の二子玉川ライズ(二子玉川東地区再開発)の見直しを訴える住民団体「にこたまの環境を守る会」が2011年1月30日に世田谷区等々力の尾山台地区会館で総会を開催した。団体名を「二子玉川の環境を守る会」に変更し、住民運動の深化・拡大を確認した。
総会では最初に新井英明・会長代行から挨拶がなされた。運動の出発点は二子玉川ライズに対する共通の怒りである。緑豊かな風致地区に超高層マンションを建設して住環境を破壊する。しかも、そこに税金を投入する。事業が進むにつれ、工事被害など具体的な被害が増大した。
特に高齢者にとっては重大問題である。住み慣れた土地から転居を余儀なくされた人や健康を悪化させて亡くなった人も一人二人ではない。醜い現実を不愉快な形で見せつけられた住民に同情するあまり、胸が痛む。権利変換でマンション「二子玉川ライズ タワー&レジデンス」の住戸を受け取った地権者も管理費などの支払いで悲鳴の声が出ていると述べた。
続いて第一議題の審議に入った。第一議題は今日の情勢にふさわしい会の運動と会則の一部改定、財政・人事方針である。飯岡三和子・事務局長が説明した。
「にこたまの環境を守る会」は住環境を破壊する再開発は許せないという住民によって結成された団体である。二子玉川ライズの住環境破壊は道路や公園などを含む複合的な問題であったために、会員が拡大した。取消訴訟の原告は再開発地域周辺の世田谷区南部の密度が濃いことは当然だが、世田谷区内に広がっている。飯岡氏は会場に掲示された原告の分布を示す地図に基づいて説明した。
今や二子玉川は、あちこちで工事が行われ、昨日通っていた道が今日は通れないという状況である。事業者自身が事業性を疑問視して先送りした二子玉川東第二地区再開発(二期事業)も認可されてしまった。しかし、権利変換や実際の工事は遅れている。これは多数の住民や専門家が無謀な計画を止めさせるために闘ってきた成果である。その上で団体名を「にこたまの環境を守る会」から歴史的な地名を使用した「二子玉川の環境を守る会」に変更すると説明した。
会場からの意見では二子玉川ライズへの怒りの声が相次いだ。会員の一人は二子玉川が建物の集合で息苦しくなると語る。東急は何を考えて高層ビルを建てているのか。その腹立たしさが私の反対運動の原動力とする。また、第二地区の事業計画に意見陳述した住民は環境破壊が腹立たしいと述べた。
一方でシビアな視点を持つべきとの意見も出た。世田谷区などに確認したところ、第二地区は設計図を3月中にまとめる予定である。2012年3月には住民説明会を実施し、工事を着工する。遅延しているものの、東急側は計画を変更するつもりはなく、開発を諦めてもいない。住民の要望は無視されている。業者や行政のムチャクチャなやり方を許さないという実効的な運動が重要と主張した。
また、マンション「二子玉川ライズ タワー&レジデンス」が売れているというが、現在でも多くの住戸が販売されている。既に販売されたという住戸も確かに売買契約がなされたということを確認した訳ではない。そのような情報を確認する力も必要とする。
第二議題は3つの裁判の闘い方である。住民側代理人の淵脇みどり弁護士がレクチャーした。淵脇弁護士は二子玉川ライズの問題の特徴を大きく2点指摘した。
第一に周辺住民が中心となっている点である。従来型の再開発紛争は少数地権者がデベロッパーなどの多数派と争う形式であった。これまで再開発のアクターとして認識されてもいなかった住民中心で進めることに不安もあったが、強みもある。地権者は生活がかかっているため、経済的な妥協を迫られてしまいがちである。これに対して住民中心ならば、街づくりなど普遍的なテーマで運動を進められるとした。
第二に権利侵害が複合的であることである。日照、眺望、ビル風、大気汚染、洪水被害などである。それだけで一つの裁判となるような問題が二子玉川ライズでは複合的に生じている。
その上で係属中の各訴訟について解説した。
第一に再開発組合に対する事業差し止め訴訟である。これは最高裁判所に係属中である。地裁判決や高裁判決の最大の問題点は、住民の不利益を認めた点もありながらも受忍限度を理由に棄却したことである。本当に公共性のある事業ならば受忍限度論も成り立つ余地がある。しかし、二子玉川ライズは新築分譲マンションや賃貸オフィス、商業施設という東急電鉄や東急不動産の営利事業である。それに住民が我慢させられることは不当である。最高裁では二子玉川ライズが公共性ある計画であるかを争点にする。
この淵脇弁護士の説明は民法と憲法との関係という面でも興味深い。差し止め訴訟は住民と再開発組合という私人間の裁判である。人格権に基づく差し止め請求という民事紛争の枠組みの争いである。しかし、住民側は実質的には憲法13条(幸福追求権)や25条(生存権)など憲法を拠り所としている。差し止め訴訟は以下の指摘にあるように民法の価値を問い直す裁判である。
「今日、民法学が、再度、憲法との関係を意識化しようとすれば、憲法との矛盾が新たに顕在化してきたというのではなく、おそらく民法学が、社会の変化のなかで、自己の実現すべき価値を問い直す必要を感じ始めているからであろう。それが最も先鋭的に現れているのは、人格権の領域であろう。」(安西文雄他『憲法学の現代的論点』有斐閣、2006年、71頁)
第二に世田谷区長に対する公金支出差し止めを求めた住民訴訟である。住民にとっては二子玉川ライズそのものが問題であるが、同時に世田谷区の街づくりがおかしいという思いがある。莫大な税金が補助金などの形で二子玉川ライズに投入されている。東急グループの営利事業で、住環境を悪化させるような事業に税金が使われていることは、住民にとって我慢できない。そのような住民の思いに応える訴訟である。
住民訴訟は私権ではなく、公共的利益の実現を目指す参政権の行使である。しかし、これまで住民訴訟はカラ出張のような個別的な違法支出が中心であった。再開発事業のような大きな事業の税金の使い方については特定性に欠けるとして退けられる傾向があった。これに対し、最高裁平成18年4月25日判決(民集60巻4号1841頁)は特定性の要件を緩和した。羽村駅西口土地区画整理事業に対する公金支出の差し止めなどを求める住民監査請求を請求の対象の特定に欠けるところはないとした。
この判決が出たことによって、住民訴訟の提訴を決意した。先行行為の違法性が財務会計行為の違法性に承継されるかが争点である。二子玉川ライズでは当初の世田谷区まちづくり構想を無視して、超高層ビル中心の計画に歪められた。
第三に二子玉川東第二地区市街地再開発組合設立認可申請の取り消しを求める行政訴訟である。2010年12月28日に提訴したばかりである。追加によって原告は最終的に141人になった。原告は世田谷区外にも広がっている。記者も原告の一人である。
差し止め訴訟や住民訴訟では現実化していない将来の被害を主張・立証するという難しさがあった。これに対し、行政訴訟は既に高層マンションなどの竣工後であり、被害は現実化している。ビル風などの被害は住民の想像を越えるものであった。その具体的事実に基づいて主張立証する。
淵脇弁護士は様々な分野の専門家に意見を聴いた結果として、住民の意見を無視する二子玉川ライズを時代錯誤とした。行政と事業者で決められてきた従来の公共事業の在り方は見直されている。住民の意見を活かした街づくりが時代の流れという。
また、第二地区再開発の事業審査について、最終的に認可されてしまったものの、行政手続きの改善という点では成果であると評価した。意見陳述では多数の専門家の長時間、公開による手続きを実現した。これは今後の問題で先例として利用できる。
会場からは二子玉川周辺の開発による環境悪化を懸念する声が出た。目黒通りから川崎側の宮内新横浜線の間の多摩川に橋を架橋する計画がある。また、外環道を二子玉川南地区で計画しているスーパー堤防に通すという案もある。開発が進めば、環境悪化が激化するとした。
第三議題では原告団申し合わせを確認し、原告団の役員を紹介した。最後の第四議題は区長選の取り組みである。志村徹麿氏が「新しいせたがやを目指す会」について説明した。世田谷区内の市民・住民運動を中心として「2011年世田谷区長選挙を闘う新たな会」が2010年12月から動き出している(林田力「区長選に向け新たな会が始動=東京・世田谷」PJニュース2011年1月8日)。
新たな会は1月29日に東京土建世田谷会館で発足集会を開催し、団体名を「新しいせたがやをめざす会」と決定した。「にこたまの環境を守る会」会員の多くが個人の資格で集会に参加し、志村氏が共同代表の一人に就任した。「新しいせたがやをめざす会」では市民からの政策提言を集め、2月中旬を目途に政策をまとめる。確定した政策に基づき、2月末を目途に推薦候補を決定する予定である。「にこたまの環境を守る会」は2007年の区長選挙には「市民政策・せたがや」に団体で参加した。
最後に岸武志議員(日本共産党)から世田谷区の2011年度予算案について報告がなされた。第二地区再開発の予算は僅か660万円である。もっと多額の予算となる筈であったが、スケジュールの遅れのために少額となった。これは住民運動の成果である。
予算の内訳は500万円強が一期事業の事後アセス、残額が権利変換の事務費用である。一期事業ではビル風など想像以上の被害が明らかになった。そのアセスを完了しなければ二期事業に着工させないとしていきたいと述べた。
この日は会場近くの商店街では「もちつき大会」が行われ、沿道には焼きそばやフランクフルトなどの屋台が出店し、大道芸も行われた。「もちつき大会」の後で総会に出席した人もおり、にぎわいのある総会になった。