二子玉川ライズに共同利益は成り立つか

林田力

任修廷「建築紛争における周辺住民とデベロッパーの『共同利益』の成立可能性 世田谷区二子玉川再開発反対運動を事例にして」地域社会学会年報26集(2014年)は東京都世田谷区玉川の再開発・二子玉川ライズの問題を取り上げた論文である。

二子玉川ライズは東急電鉄・東急不動産中心の再開発であるが、超高層ビル中心の計画が住環境を破壊するとして住民から反対運動が起きている(林田力『二子玉川ライズ反対運動1』Amazon Kindle)。二子玉川ライズ・オフィスのビル風で転倒者が出るなど深刻な問題が起きている。

二子玉川ライズにはショッピングセンターや分譲マンションなど営利目的ばかりで公共施設がないという批判がある。その中で東急は再開発ビルから約50平米を無償で世田谷区に提供し、世田谷区は図書の予約・貸し出し・返却サービスを提供する図書館ターミナルを提供すると発表した(85頁)。

これを本論文は「東急は、速効性のある経済的利益から「利益」の捉え方を広げ、地域貢献を通じた新たな可能性を見つけたのではないだろうか」と評価する(86頁)。これを企業と住民間の「共同利益」の達成の事例とし、「地域において、こうした小さな協議成果が積み重なることによって今日の土地所有権の絶対性と排他性が崩れていく可能性が生まれるのではないだろうか」と展望する(87頁)。

本論文の特徴は東急側の無償提供という譲歩を企業と住民の共同利益と見ていることである。そして、そこに土地所有権の絶対性と排他性を崩す可能性を見ている。但し、その共同利益は、本論文のタイトルに可能性とあるように、未だ可能性にとどまる。書庫も閲覧室もないカウンターだけの図書館ターミナルは住民ニーズを満たさないと住民は反発している(88頁)。図書館ターミナルは共同利益ではなく、東急と世田谷区の独善的一方的な行為で終わる可能性もある。

このように事実として二子玉川ライズで共同利益が成り立つかという点は可能性に留まるが、共同利益というアプローチが建築紛争解決に役立つかについては肯定できる点と疑問点がある。肯定面として、共同利益という利益からアプローチすることで、所有権規制への反発を軽減できることがある。

本論文の背景には開発問題が所有権絶対に起因するという考え方がある(83頁)。この立場は所有権絶対を規制する理論構成を導き出す。本論文で紹介されている総有や専有である。これら開発問題解決のために所有権を制限する考え方に対しては、大企業の大型開発を抑制することが目的であるにも関わらず、全ての土地所有権を一律に規制するようなことには反発がある。

マンション建設反対運動には一丸となって取り組んでも、地区計画策定はうまくいかない地域もある。中国で共産党が地主の土地を小作人に配分していた頃は絶大な支持を得られたが、人民公社化する際は権力による弾圧が必要になった。ジョン・ロックが所有権を自然権として構成したように、個人レベルの所有権は人間として自然なものであり、それを否定するアプローチには不自然さが生じる。

それ故に本論文が総有よりも相対的に所有権否定の度合いの小さい専有を評価する姿勢は支持できるが、依然として所有権規制への不満は残る。共同利益というアプローチは発想の転換であり、受け入れられる可能性は高まる。

疑問点は、住民と企業のWin-Winの合意の範囲で開発抑制につながるかという問題がある。二子玉川ライズ反対運動の出発点は超高層ビルの高さを低くすることにある。ビル風などは超高層ビルから派生した問題である。高さを低くすることが根本的な要求であるが、東急の営利主義と鋭く対立する問題でもある。

これは二子玉川ライズに限らず、開発問題に共通する。東急不動産の新築分譲マンション・ブランズ市川真間とブランズ市川真間IIの反対運動でも回数を減らすことが根本的な要求である(林田力『東急不動産だまし売り裁判26ブランズ市川真間』Amazon Kindle)。住民と企業のWin-Winの合意の範囲を追求するだけでは今回のように公共施設を増やすことはできても、低層化など開発抑制にはつながらないのではないか。

本論文は、図書館ターミナルについて保坂世田谷区長の影響が大きいと分析する(85頁)。その分析は事実認識として支持するが、開発抑制の計画見直しではなく、公共施設設置という方向性に良くも悪くも革新らしさがある。もともと二子玉川東地区再開発計画も革新区政で生まれたものであった。

地元商店街が反対した富山駅前再開発も革新市政(改井英雄市長)の計画であった(藤井英明「1970〜80年代における富山市駅前再開発と中心商店街」立教経済学研究第66巻第3号、2013年、108頁)。保守と革新の対立軸では大企業のための開発か労働者・中小事業者のための開発かにとどまり、開発そのものの抑制にはなりにくい。

共同利益アプローチが建築紛争解決に有益なものとなるためには、超高層ビルの高さを下げることが住民と企業の共同利益になったという事例も望まれる。




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