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向ヶ丘遊園の跡地利用計画は大幅縮小


小田急電鉄は2010年3月26日、向ヶ丘遊園(川崎市多摩区長尾)の跡地利用計画をまとめ、「川崎市環境影響評価に関する条例」に基づく環境評価手続(アセスメント)に着手すると発表した。向ヶ丘遊園は「ばら苑」や「ブースカランド」で有名な遊園地であったが、2002年3月に閉演した。

小田急では2007年にマンション建設主体の跡地利用計画を発表した。地下1階地上5階建てのマンションを中心とする計画戸数850戸の大型開発であった。これに対し、緑地の保全を求める住民らから多数の反対意見が寄せられた。アセスメントでは3,786通もの意見書が提出された。その後、リーマン・ショックなどの経済情勢悪化もあり、小田急は2008年12月に指定開発行為廃止届けを提出した。

今回の跡地利用計画は2007年の計画から大きく縮小した。計画では跡地を複数のゾーンに区分し、ゾーン毎に整備方針を定める。具体的な整備方針は以下の通りである。
・「ガーデンゾーン」:飲食・物販、研修施設等の多目的施設を含む庭園や広場を整備する。
・「緑地編入ゾーン」「樹林地ゾーン」:緑地を保全する。
・「事業ゾーン(レジデンスA)」:戸建てを中心とした約60戸の住宅を整備する。
・「事業ゾーン(レジデンスB)」:約160戸の低層集合住宅を整備する。

また、跡地には「藤子・F・不二雄ミュージアム」も建設される。これはドラえもんなど藤子・F・不二雄氏の作品を展示するミュージアムで、2011年9月3日にオープンする予定である。遊園地の跡地利用としては夢のある計画である。

「レジデンスA」と「レジデンスB」を合わせた計画戸数は220戸となり、2007年の計画から約4分の1の縮減になる。開発規模を縮小した点も、緑地が残された点も、魅力的な施設(藤子・F・不二雄ミュージアム)が建設される点も、好感を持てる内容である。

但し、計画には懸念も残る。事業の中心が新築住宅の分譲である点は2007年の計画から変わっていない。小田急は社会情勢の変化を踏まえて2007年の計画を廃止し、新たな計画を策定した筈である。しかし、規模を縮小したものの、新築分譲というビジネスモデルは変えていない。

日本全体で見れば住宅は余っており、少子化による人口減少でストックの一層の増大が確実視されている。2007年の計画よりは縮小しても、まだまだ大量供給と言える水準である。それだけのニーズがあるかが問題である。売れ残ればゴーストタウン化し、周辺地域に負担をかけることになる。周辺住民としても無関心ではいられない。

この懸念は住宅のコンセプトによって一層増大する。都心近くの「別荘地を思わせる緑と静寂に包まれた街」をテーマに、「上質なゆとりある居住空間」「自然を感じる生活」「安心・安全な暮らし」を実現するとする。ここからは高級志向がうかがえる。依然として景気の見通しが暗い中で、高額な住宅となると販売のハードルが一層高くなる。

また、高級志向に関連して「安心・安全」を強調している点も気になるところである。「レジデンスA」の戸建てでは「タウンセキュリティによる安心・安全な暮らしを提供」と明言する。これはゲーテッド・コミュニティを目指しているように解釈できる。ゲーテッド・コミュニティは地域社会を分断するものであり、周辺住民の重大な関心事になる。

高級住宅街のゲーテッド・コミュニティとしては、千葉市緑区あすみが丘で東急不動産が開発したワンハンドレッドヒルズ(俗称:チバリーヒルズ)が失敗事例として有名である。向ヶ丘遊園の跡地利用が同じ轍を踏むことにならないか、注視したい。

初出:林田力「向ヶ丘遊園の跡地利用計画は大幅縮小=神奈川・川崎」PJニュース2010年4月10日
http://www.pjnews.net/news/794/20100410_2
http://news.livedoor.com/article/detail/4710817/

開発審査会のあり方を考えるシンポジウム

開発審査会のあり方を考える会がシンポジウム「開発審査会・建築審査会のあり方を考える−委員選任・会の役割を中心に−」を2010年1月11日に東京都港区の建築会館で開催した。開発審査会のあり方を考える会は東京都開発審査会の委員不再任問題を契機に結成された。委員不再任問題は東京都開発審査会委員であった稲垣道子氏が1期のみで再任されず、不再任の理由も説明されなかった問題である。

シンポジウムでは最初に稲垣氏が「東京都開発審査会における委員不再任問題の報告」と題して経緯を説明した。稲垣氏は東京都の担当者に不再任理由を尋ねたが、「任命権者(都知事)の問題である」との回答のみであった。そのために石原慎太郎・都知事に要望書を送付したが、回答はなされていない。

猪瀬直樹副知事への面談などから浮かび上がった理由は「2回に渡って一度決まったことを覆す発言をした」であった。稲垣氏は1回については思い当たる点があるとする。その時は委員会で納得の上、審理し直した。これを不再任理由とすることは審査会運営への干渉であると批判した。

続いて水口俊典・芝浦工業大学名誉教授が開発審査会・建築審査会の問題点と論点を整理した。審査会では合法であるか違法であるかを判断するだけでなく、社会的公正や地域環境保護の観点から不当性がないかも審理する努力をすべきなどと指摘した。

パネルディスカッションでは柳沢厚・C-まち研究室代表、浅野聰・三重大学大学院助教授、日置雅晴弁護士、稲垣氏がパネリストとして開発審査会や建築審査会の問題点を発言した。

柳沢氏は事前明示基準の功罪として、基準が杓子定規に適用され、現地の具体的な状況を斟酌していない実態を問題視した。

浅野氏は地方都市の状況を説明し、審査請求の件数が少ない地方都市では事前予防が重要と主張した。

日置氏は浅草の高層マンション建設問題など様々な問題を紹介した。裁決が審査請求人の問題意識(高層マンションによる住環境破壊)に応えられていないケースも多い。
稲垣氏は自治体には人口増・税収増をもたらす開発を歓迎する傾向があり、その自治体が乱開発を抑制する責務を負っているところに難しさがあるとした。

コメンテーターの福川裕一・千葉大学大学院教授は審査会委員を専門家とする前提を疑問視した。外国では事務局がバックアップするものの、必ずしも専門家が判断していないという。この指摘に対しては水口氏から密室で運営されている審査会の運営のままで、市民が参加しても市民的常識が反映されるとは限らないとの意見が出された。一方で司会の内田雄造・東洋大学教授は専門家よりも市民の方が不当な計画に声を挙げるため、市民がいる方がいいと主張した。

このシンポジウムでは近隣住民の立場で建築紛争に取り組む参加者も多く、会場からは大船観音前マンションや地下室マンション、二子玉川東地区再開発など実際の紛争を踏まえた生々しい話も登場した。多くの近隣住民は近隣対策業者への住民対応丸投げに象徴される不動産業者の不誠実な姿勢に憤りを抱いているが、それを糾弾する場が現行制度には欠けている。「違法でないから問題ない」という現状を肯定しない審査委員がいることを心強く感じた。

地域活性化には外部の目を取り入れた柔軟な思考

鳩山由起夫首相が所信表明で「コンクリートから人へ」と演説したことが象徴するように経済成長を求めた開発優先の街づくりは行き詰っている。東京都心部でやりつくした開発の真似をするのではなく、地域独自の魅力を活かした街づくりが求められている。

地域独自の魅力を活かした街並みの代表例は埼玉県川越市の蔵造りである。時の鐘を中心に蔵造り商家が点在し、ありふれた地方都市とは異質な江戸風の世界が広がっている。高度経済成長期には乱開発で取り壊しが相次いだが、市民団体などによる保全活動のお蔭で川越は「小江戸」という街の魅力を維持している。

開発を進める側からは川越の蔵造り商家には保全するほどの価値はないとの考えもあった。江戸情緒を伝える蔵造り商家であるが、大半の建造時期は江戸時代ではなく、明治以降である。川越が蔵の街になったこと自体が明治26年(1893年)の大火の後である。また、蔵造り商家は防火目的で建造された。その実用本位の重厚さは、数奇屋造りのような日本建築の美的感覚とは対照的である。

このように蔵造り商家は歴史性でも文化面でも主流派的な価値観から必ずしも高く評価されるとは限らないものであった。しかし、蔵造り商家を保全したことで、江戸情緒を伝える貴重な観光資源となっている。学術的な価値判断では切り捨てられてしまうようなものの中にも地域の魅力は存在する。

このような地域の魅力は実は地域の中では見つけにくい面がある。地元の人には当たり前でも地元以外の人にとっては魅力に感じるものは少なくない。地元の人が見落としがちな地域の価値を発見するためには外部の目で見つめ直すことが必要である。実際、川越の街づくりに取り組むNPO法人・川越蔵の会は全会員の約2割を川越市在住在勤ではない会員、「川越ファン」とも呼ぶべき人達が占めている。

また、長野県小布施町ではアメリカ人のセーラ・マリ・カミングス氏が地域活性化の立役者となっている。ステンレスやホーロー製の桶が当たり前となっていた酒造で、木桶仕込みを再興させた。

また、過疎の町の成功例として、徳島県上勝町の「葉っぱビジネス」がある。正式名称は「彩事業」で、山に落ちている葉っぱを集めて高級料亭に卸すという事業である。この「葉っぱビジネス」の発案者の横石知二氏も余所者扱いされている部外者であった。

これらの事例からは外部の目を取り入れた柔軟な思考が地域活性化につながることを示している。

住民発意で区画整理・再開発の法改正を考えるシンポ

シンポジウム「ここが変だ! 区画整理、再開発 ―住民発意で「法改正」を考える―」第1弾が2010年8月22日、東京都千代田区の専修大学神田キャンパス7号館3階731教室で開催された。主催は熊さんハッつぁん法律問題研究会、専修大学行政法研究室、NPO法人区画整理・再開発対策全国連絡会議である。東北地方なども含め、全国から約80名が参加した。
シンポジウムは堀達雄・連絡会議代表世話人の開会挨拶で始まった。堀氏は書籍『熊さん&八ッつあんが読む!土地区画整理法』の記述を引用した。土地区画整理法は「健全な市街地の造成」を目的と掲げるが、何が健全な市街地であるのか定義されていない。これは欠陥法律である、と。
基調報告は岩見良太郎氏(「区画・再開発通信」編集委員、埼玉大学経済学部教授)の「土地区画整理法・都市再開発法改正を議論するにあたって」である。岩見氏は約40年の連絡会議の歴史を振り返り、土地区画整理法・都市再開発法等の改正論議を起こす意義について述べた。
岩見氏は住民運動が法改正を課題として議論すべき段階に入ったと述べ、これは避けて通れないと主張した。これまで連絡会議は地域における運動こそが住民要求実現の要とのスタンスであった。それ故に国への要求は邪道であり、訴訟さえも住民運動の一つの手段との位置付けに過ぎなかった。過去には区画整理法は憲法違反であり、法改正を目指せと提起されたこともあった。しかし、連絡会議は連絡機関との位置付けを貫いた。
それでは何故、今になって法改正を目指すのか。各地で発生している同じ苦しみの反復を避けるためには法改正が必要である。規制緩和や新自由主義的な構造改革によって、企業の権限を強める方向で改悪がなされてきた。
一方で人口減少による縮み社会の到来で、不動産価格は低迷している。右肩上がりを前提にした従来型の開発は行き詰まり、制度改革は避けられない。政治の流動化によって制度改革のチャンスは高まっている。しかし、改悪の危険もある。住民主体の街づくりを進めるための法改正が必要である。住民のための法を今から準備しておかなければならない。
このように法改正が必要であることは導き出せるが、具体的な改正内容は詰めるべき点が多い。一例として公平や公共性の考え方を挙げる。機械的平等が公平であるのか、大土地所有者と零細所有者の間に差別を設けることこそ公平ではないか、などである。岩見氏が提起した公共性の具体的内容については、後述の二子玉川ライズ問題でも論点となった。
続いて区画整理と再開発について現場からの報告である。最初に神屋敷和子氏(東京都羽村市羽村駅西口区画整理反対の会、連絡会議世話人)の「住民から見た区画整理事業の問題−街並みもコミュニティも破壊する住民無視のまちこわし−」である。
神屋敷氏は羽村駅西口区画整理事業の問題点と非人間性を説明した。区画整理によって、多摩川や玉川上水につながる放射線状の道路が広がる地域が、ありふれた碁盤の目の街並みになってしまう。住民の知らないうちに決められ、庭や土地が勝手に取り上げられ、碁盤の目の街区に詰め込まれてしまう。
情報は小出し後出しでしか開示されず、大切な情報が隠されている。計画案の縦覧期間が二週間では意見書提出は難しい。期間の延長が必要である。清算金額が最後に判明するならばギャンブルである。仮換地指定前に精算金の概算額を出すことは可能である。
区画整理事業は住民が疑心暗鬼となり、住民関係が破壊される。区画整理が終わっても人間関係は戻らない。住民と個別交渉で進めるのではなく、住民と共に新たな街づくりを行うべきであると主張した。
次に土井武志氏(横浜市戸塚駅西口再開発借家人勉強会、連絡会議世話人)の「知られざる真実・再開発事業にのっかったら破産する」である。戸塚駅西口第1地区第二種市街地再開発事業では東急不動産と東急コミュニティーが特定建築者となり、トツカーナが開業した。しかし、この再開発では地元の生活再建よりも再開発ビル床の売却による事業費の回収を優先していると批判されている。
この再開発の実態について話すことは色々あるが、今回は税金の問題に特化した。再開発とだきあわせの税制がいかに過酷なものか、資産が減り、法によって財産が奪われるという実態を報告した。再開発地域の地権者には再開発ビルへの入居と金銭を受け取って転出する選択肢がある。どちらを選択しても資産が収奪されることになる。
第一に転出である。ほとんどの再開発では地区内で生活再建できず、大半が転出する実態がある。第一種再開発事業では権利者の生活再建ができないことが本質的な問題である。再開発事業者から受け取る金銭には長期譲渡益税が課せられる。売却益の二割である。転出する場合、転出先の不動産を購入することになるが、不動産取得には経費がかかる。大まかに一割程度である。従って転出を選択した場合、財産が約三割減少してしまう。
第二に入居である。長期譲渡益税の課税は繰り延べになるが、ビルに対して減価償却は認められない。普通ならば払わなくて良い税金を余分に払うことになり、数十年後に破綻する可能性が高いと指摘した。
続いて遠藤哲人氏(「区画・再開発通信」編集委員)が「区画整理・再開発における秘密主義の実態と情報公開の課題」を報告した。遠藤氏は再開発について「要は地上げである」と明快に説明した。1980年代の地上げはダンプカーが突っ込むなど暴力的であった。現代では法律でもって公権力で地上げする。それが構造改革路線である。
何も知らされずに事業が進められ、換地計画や土地の減歩率も見せないという実態がある。特に権利者以外の分について隠され、住民は分断させられる。法律を変えていくことが情報公開面で重要であるとまとめた。
最後の報告は区画整理と再開発各々の裁判闘争についてである。
第一に山本志都弁護士の「区画整理訴訟の中で」である。山本氏は羽村駅西口土地区画整理事業に対する住民訴訟などの代理人である。裁判に取り組む中で感じたことを報告した。
まず住民運動にとっての裁判のデメリットである。裁判任せになると運動が停滞する。また、中心メンバーが疲弊する。さらに裁判結果を悪用した被告側の悪宣伝もある。勝訴したというだけで、判決で認定されていないにもかかわらず、事業の適法性が認められたかのように吹聴する。
次に住民運動にとってのメリットである。様々なレベルの住民が定期的に弁護士と打ち合わせすることで住民運動が活性化する。運動に参加できないが、打ち合わせで意見を述べることはできるという住民もいる。そのような住民も取り込むことができる。また、被告側提出証拠という形で隠されていた情報が出てくることもある。さらに裁判をきっかけに情報公開請求する住民が増えた。羽村市の対応も少しは変化した。
法改正については、時代・状況の変化に対応して引き返すための仕組みが必要と述べた。一方で法改正には困難を伴う。結局、企業の金儲けのための街づくりに悪用される危険がある。また、決まったことについては争えないとなることも危惧していると語った。
第二に渕脇みどり弁護士の「再開発訴訟の中で」である。淵脇弁護士は二子玉川東地区再開発(街の名称:二子玉川ライズ)に関する訴訟の住民側代理人である。二子玉川ライズは風致地区に超高層ビルを乱立する計画である。東急電鉄・東急不動産のビジネスのために周辺住民の生活する権利が侵害されている。
裁判は現行法の中でもがき苦しみながら、進めてきた。現行法は住民の意見反映の手続きが軽視されている。複数案を比較検討する仕組みにすべきである。再開発は安易な立ち退き手段として悪用され、街壊しや独占を可能にしてしまう。公共性の意味を具体化する必要がある。当事者が法律を変えていく時代の流れにあるとした。
後半は討論である。再開発や区画整理に苦しめられている人々から切実な意見が相次いだ。例えば埼玉県の再開発地域の住民は「裁判官は、公共性について、どのように考えているのか」との辛辣な疑問が提起された。商業ビルを建設するような明らかな営利開発事業が公共性ある再開発とされ、個人を住居から追い出すことを正当化する。これについて裁判官は疑問に思わないのか、と。
これに対し、淵脇弁護士は「二子玉川ライズが同じ」と応じた。再開発には厳しい規制がかけられなければならないのに、逆に緩和されている。残念ながら裁判官には未だ認識が十分ではない。
これに岩見氏が補足した。二子玉川東地区再開発は再開発地域の85パーセントが東急グループの所有地である。東急グループの利益のための再開発に過ぎない。その公共性の説明は抽象的であった。世田谷区が東急グループと再開発地域の方向性を決定した。行政が悪いと住民は大変なことになる。何の説明もないまま、再開発地域の容積率が緩和されてしまった。
また、組合施行と自治体施行の区画整理の相違について質問が出された。羽村駅西口区画整理事業は自治体施行であるが、組合施行ならば地権者が組合員となるため、民主的になるのではないかとの問題意識からであった。
これに対し、神屋敷氏は組合施行では組合と自治体の間でたらい回しにされる危険があると指摘した。自治体施行では行政に回答を求めることができるとする。
その他にも様々な意見が出された。基本構想の段階から住民参加で進めるべきである。初めから全て情報を開示すべきである。住民が嫌だと言えば止めればいい。
現行制度では事業計画縦覧時には全部決まっており、手遅れである。意見書は無視されている。全部が反対意見でも計画が進められる。複数案の検討の義務化と住民投票的なものを検討すべきである。
日本には街づくりの哲学がない。江戸川区のスーパー堤防予定地は先行買収が行われ、地域外の人から戦争で空爆を受けた跡みたいと言われたとする。戸塚駅西口再開発では生活再建、営業再建が無視された。
各地の区画整理組合は破綻寸前の危機的状況にある。行政は住民に負担させようとしている。直接施行(強制執行)を早い時期に行うことが望ましいとの方針も出している。これには会場から悲鳴が生じた。
地方分権が進められ、首長の権限が強まったが、住民自治に結びついていない。中央省庁ならばマスメディアなどの監視があったが、地方の役所に対する監視は弱いため、裁量権の名の下で勝手がまかり通っている。
最後に白藤博行・専修大学法学部教授がコメントした。法律の世界では結果オーライの発想から手続き重視に変わっている。1993年に制定された行政手続法が一例である。しかし、区画整理や再開発で問題になる行政計画の分野では未だ手続き重視の思想が反映されていない。この点で住民発意の法改正を検討する意義は大きいと締め括った。

区画整理・再開発反対運動の脆さと方向性

シンポジウム「ここが変だ! 区画整理、再開発 ―住民発意で「法改正」を考える―」第1弾(2010年8月22日)は土地区画整理・再開発の問題の深刻さを改めて印象付けた(林田力「住民発意で区画整理・再開発の法改正を考えるシンポ(上)」PJニュース2010年8月25日)。
http://news.livedoor.com/article/detail/4965860/
区画整理では所有地が減歩される。減歩率25%ならば自分の土地が区画整理の対象地にあるということだけで、4分の1も減少させられてしまう。また、再開発では土地がビル床に変換されてしまう。土地は時間が経過しても変わらないが、建物は老朽化し、維持管理に負担がかかる。しかも区画整理や再開発に苦しむ人々は自発的に参加したわけではない。ある日突然、居住している地域が区画整理や再開発の対象地域に指定され、巻き込まれてしまった。
住民には区画整理や再開発を進めるメリットもない。東京都羽村市の羽村駅西口区画整理では住民が慣れ親しんだ路地や町並みを壊し、ありふれた碁盤の目の道路にしてしまう。広い道路で喜ぶのは住民ではない。他所から来て通り抜けするドライバーと固定資産税を値上げできる自治体、マンションが建設しやすくなる不動産業者などである。
東京都世田谷区の二子玉川東地区再開発(二子玉川ライズ)では都市計画公園予定地であった場所を含む風致地区に東急電鉄・東急不動産が営利目的で高層マンションやオフィスビルを建設する。風致地区の住環境は破壊され、儲かるのは大企業という構図である。
多くの地権者が区画整理・再開発に巻き込まれた結果、生活再建・営業再建できずに苦しんでいる。このような不合理な悲劇が全国各地で繰り広げられている。それにもかかわらず、大問題として社会に広く認知されていないことは驚きである。
狭い島国で農耕民族として暮らしてきた日本人は土地へのコダワリが強いと一般に考えられている。一生懸命という言葉も一所懸命が由来で、武士が先祖伝来の所領を命懸けで守ったことを表していた。このような点を踏まえると、自分の土地が収奪される区画整理や再開発に大きな反発が起きても不思議ではない。しかし、区画整理も再開発も相変わらず全国各地で繰り返されている。
そこには区画整理や再開発を進める側(行政や不動産業者)の巧妙な分断工作がある。地権者は区画整理や再開発自体には異を唱えず、他の地権者よりも少しでも美味しい思いをしようと個別取引に乗っかってしまう。そして自分よりも悲惨な境遇の人を下方比較することで満足する。この種のメンタリティが日本のプチ・ブルには少なくない。そこに行政や企業が付け入る隙が生まれる。
直感的には財産を持つ人が財産を奪われる場合の反発力は強大なる筈である。フランス大革命も発端は特権身分への課税への反発であった。しかし、日本のプチ・ブルには不正に直面した場合に不正そのものと戦うことよりも、不正を前提として、その中で上手く泳ごうとするメンタリティが強い。これが日本ではブルジョア革命が起こらず、焼け野原から経済大国にするような前に進むことしかできない社会となる要因である。
この傾向は耐震強度偽装事件でも見られた。耐震強度偽装事件は大きな反響をもたらした事件である。インターネットなどでは耐震偽装マンションには関係した一級建築士らはスケープゴートであり、もっと大きな問題が隠されているのではないかと指摘された。たとえばヒューザーの小嶋進社長(当時)が安倍晋三首相(当時)の後援会・安晋会のメンバーであったとして、両者の関係が大きく取り上げられた。
興味深いことに耐震偽装事件にまつわる疑惑を熱心に追及した人々は必ずしも分譲マンションを購入する層ではなかった。たとえば耐震強度偽装事件を追及したブログ「きっこの日記」で垣間見ることができる作者きっこ氏の生活は、住宅ローンで分譲マンションを購入するような小市民とは対極的である。きっこ氏が実際にブログに書かれた通りの人物か否かは議論があるが、ここでは分譲マンション購入者層とは乖離した存在として自己を描いていることが重要である。
そして「きっこの日記」などでの事件追及の盛り上がりとは対照的に、耐震偽装マンションの購入被害者の声は目立たなかった。その後、姉歯物件以外にも耐震強度不足のマンションが次々と発覚していったが、耐震強度偽装事件はマスメディアの扱いが小さくなり、急速に風化していった。ここから権力者による隠蔽という陰謀論的な説明をしたくなるが、マンション購入被害者の怒りが見えにくかったことも一因であった。
私自身の経験でも思い当たる点がある。私は東急不動産(販売代理:東急リバブル)から新築マンションをだまし売りされ、裁判で売買代金を取り戻した(林田力『東急不動産だまし売り裁判 こうして勝った』ロゴス社、2009年)。この私の行動が勇敢と評されることがある。もし私にマンション購入被害者とは異なる強さがあるとすれば、東急不動産のマンションには住んでいられないと考え、契約取消しを貫いたことである。問題だらけの東急不動産物件を資産とは考えなかった。財産を持つことよりも否定することが強さを発揮した一例である。
話を区画整理・再開発に戻す。結局のところ、区画整理・再開発が合法的な市民の財産収奪となる以上、区画整理・再開発に乗っかること自体が損であることをアピールすることは重要である。その意味でシンポジウムにおいて遠藤哲人氏が再開発を地上げと形容したことは明快である。また、土井武志氏が再開発ビル入居と転出の何れを選択しても、地権者の財産が目減りすることを明らかにしたことは意味がある。
一方で日本のプチ・ブルの脆さを踏まえるならば地権者の損得論だけに頼ることは危険である。現実問題として二子玉川ライズに対する強固な反対運動の担い手達は地権者よりも周辺住民である。ここに区画整理・再開発反対の住民運動の活路がある。
残念ながら区画整理・再開発に対する関心は低い。町が綺麗になる程度の印象しか抱かない人も多い。現に対象区域で生活している人々がどうなるのかという点への想像力は欠けている。一方でネガティブなイメージとして、バブル経済の遺物、環境破壊、税金の無駄遣いなどは比較的共感を得られる。これは歴史的な政権交代を果たした鳩山由紀夫政権の「コンクリートから人へ」のキャッチフレーズへの熱烈な支持が示している。
対象地域の内外を問わず、住民や生活者としてコンクリートではなく人が住み良い街づくりを追求する。これが住民運動の活路となる。

第8回東京地方自治研究集会 再開発・まちづくり分科会

第8回東京地方自治研究集会が2010年11月3日、明治大学リバティータワー(東京都千代田区)で開催された。東京自治体労働組合総連合が事務局となり、首都圏青年ユニオンなど56団体が実行委員会に参加する大規模な集会である。
午前中は全体会と称し、渡辺治・一橋大名誉教授の講演「石原都政12年間の検証と新しい都政へ向けての都政への提言」などが行われた。午後は「高齢者」「生涯福祉施策」など20のテーマに分かれた分科会である。本記事では第9分科会「再開発・まちづくり」を報告する。
第9分科会「再開発・まちづくり」では二子玉川再開発問題、環状2号線建設問題、築地市場移転問題、豊島区役所建て替え問題が報告された。
第一に世田谷区の二子玉川東地区再開発問題である。にこたまの環境を守る会の飯岡三和子氏が報告した。二子玉川再開発(街の名称:二子玉川ライズ)は多摩川と国分寺崖線に囲まれた緑豊かな世田谷区玉川に超高層ビルなどを乱立させる計画で、住環境の破壊などを理由に近隣住民らが反対している。既に1期事業がほぼ完成し、近隣住民は予想以上の被害を受けている。その中でビル風について紹介した。
強風が吹いた時は二子玉川ライズ周辺では高齢者が歩けなかったとする。近隣住民が事業者に要望したところ、風速計が設置された。しかし、それだけでは住民の生活改善にはならないため、再要求した。その結果、強風時は交通整理とは別に高齢者や障害者の歩行を助けるためのガードマンを配置するようになった。住民側は歩道に風除けの屋根などを設置することを求めている。
会場からは二子玉川再開発の問題点を指摘する補足がなされた。ある住民は「二子玉川では強盗慶太が起こした会社が行政から補助金をむしり取って再開発する」と形容した。
別の住民は中小地権者への圧力について説明した。大企業と行政が一緒になって圧力をかける。再開発に参加しなければ「いい土地をもらえなくなる」「村八分にする」と脅し、一軒一軒回って崩していく。再開発組合に参加しない地権者は補償金をもらって泣く泣く離れたという。
再開発差し止め訴訟や住民訴訟で住民側の代理人を務める渕脇みどり弁護士は「自治の本質である、まちづくりの主体は企業でも行政でもなく、住民であると訴えていく」と語った。
第二に東京都市計画道路環状2号線建設問題である。環2地上化に反対する会の中釜達徳代表が報告した。環状2号線は江東区有明から中央区、港区、千代田区を結ぶ幹線道路の計画である。大気汚染などを理由に住民の多くが反対し、2004年には「環2地上化に反対する会」が結成された。2005年には中央区議会に請願を提出した。
東京都は2006年に環状2号線の中央区勝どき地区部分を高架式に変更したため、住民の反対は一層強まった。高架で街が分断される上、窓を開けたら目の前が高架になる家も出てくる。
特に2008年竣工の新築マンションTHE TOKYO TOWERS(ザ・トーキョー・タワーズ)の購入者には衝撃であった。これはオリックス・リアルエステート、東急不動産、住友商事が2005年から青田売りしていたが、販売時は高架になるとの説明はなされなかった。ところが、計画通りになるとマンションの傍を高架が通り、環境は激変する。このため、契約をキャンセルする購入者も現れた。現在でもTHE TOKYO TOWERSでは入居者の出入りがあるとする。
第三に築地市場移転問題で、現地での再整備が主張された。移転推進側は築地市場のことを考えていない。跡地再開発の利益を狙っているだけである。移転推進側の本音は「都心の一等地で魚なんか扱って欲しくない」である。築地市場はビルに囲まれた貴重なオアシスであり、観光スポットにもなっている。現地を再整備すれば安心でき、価値のある街になる。再開発は文化や賑わいを犠牲にする。
会場からは築地市場の移転問題では中央卸売市場が何のためにあるかという議論が必要との意見が提示された。中央卸売市場は産地と商店街を守るためにあるとする。もともと卸売市場では「せり」で取引する。「せり」は品質の値段をつける。この仕組みによって産地側は1円でも高く売却でき、商店街側は少量購入でも価値のある商売ができた。
しかし、規制緩和によって相対取引が広がっていった。これは売り主と買い手が個別交渉で値段を決める。そこでは大量購入による値引き要求が横行する。この結果、産地も商店街も衰退した。築地市場を守る戦いは商店街や産地を守る戦いであると主張した。
江東区職員労働組合の組合員は移転予定地の豊洲などの歪んだ開発実態を紹介した。豊洲などの湾岸地域では再開発が急速に進み、インフラ整備が間に合わない。開発事業者に公共公益施設を提供させる仕事をしている。南北交通網が未発達で、東陽町と豊洲・東雲は別の街になっているとする。
また、豊洲の住民は既存住民を蔑ろにするマンション建設の実態を紹介した。マンション建設で日影が減ったが、一銭も補償がない。マンション建設担当者は、住民を誤魔化すことしか考えていない。住民は勉強しなければならないとする。
第四に豊島区役所建て替え問題である。豊島区は南池袋に民間業者の分譲マンションと合築で新庁舎を建設する計画を進めている。新庁舎は49階建てで11階以上を分譲マンションとする。民間マンションとの合築によって建設費を浮かせる皮算用になっている。
これに対し、豊島区の新庁舎問題を考える連絡会は区の将来に重大な禍根を残すと批判する。区分所有の建築物であるため、建物の改修や建て替えは管理組合の議決が必要になる。区民の共有財産でありながら、区の意向に沿わないケースも生じる可能性がある。
会場からは全体に共通する問題提起もなされた。住民運動の関係者は行政が企業の手下になって、住民のことを考えていないと批判する。相談に言っても、白い目で見られるばかりとする。都市計画審議会なども形式的に運営され、自治体案を早く通すことしか考えていない。再開発の尻拭いも税金が使われている。再開発マンションの売れ行きが悪いので区が購入した例があるとする。
これに対して、職員側は職員自身には色々な想いがあると主張する。但し、石原都政では人事考課が厳しくなった。トップが独裁的になって、物申すことができなくなった。部課長以下、ヒラメ人間が増えている。メンタルヘルスを理由とする休職者も増えているとする。
また、環境を悪化させる再開発を止めさせる点については、計画が立ち上がってからの反対運動は困難との意見が提示された。計画が決まるまでに動かなければならない。しかし、行政が計画確定以前に住民に知らせることは稀である。それ故に心ある職員と住民の連携が重要になるとする。