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商業地域の仮処分決定に見る日照権保護の積み重ね

初出:林田力「商業地域の仮処分決定に見る日照権保護の積み重ね」PJニュース2010年4月3日

尼崎市の阪急塚口駅北側で建設中の14階建てマンションをめぐり、北隣の8階建てマンション住民らが日照権侵害などを理由とする建築差し止めの仮処分申し立てに対し、神戸地裁尼崎支部(工藤涼二裁判官)は10階以上の工事を差し止める仮処分決定をした。

建築地は日影による建築物の高さ規制がない都市計画法上の「近隣商業地域」に当たり、日照権を理由にした工事差し止めが認められたことは異例である。住民側弁護士は「最低限の行政基準だけ守ればいいと考える業者が多い中、日照権の存在を明示したことは意義がある」とコメントする。

日照権は海外でもローマ字の「Nisshoken」として紹介されるほど知名度が高い。太陽の光を浴びるという当たり前の状態を権利として主張しなければならないという日本の異常性は海外でもインパクトを与えた。「ウサギ小屋」と揶揄される日本の住環境の貧困は物理的スペースの狭さだけの問題ではないことを海外では見抜いていた。

言葉だけが先行する感のある環境権の中で古くから権利性が認められた日照権であったが、裁判所の適用範囲は極めて狭く、被害者救済には不十分であった。行政法規の日影規制を超えて日照権が保護されることが稀であったためである。その意味で、商業地域で日照権を理由に工事差し止めを認めた神戸地裁尼崎支部決定は画期的である。

日照権の根底には人間らしく生きていくためには日照が必要という発想がある。それならば商業地域であろうとも人が居住している以上、日照権は認められるべきである。今回の決定は、ようやく日本の司法も開発よりも人権を優先させるようになったことを示している。

司法は判例の積み重ねである。今回の決定に至るまでにも積み重ねがあった。既に東京地裁平成18年8月30日判決(平成17年(ワ)3018号)では北側隣地建て替えによる、敷地の一部が商業地域のマンション住民の日照被害を認定した。

これは新築マンション売主の東急不動産が不利益事実(隣地建て替え)を説明せずに販売したとして、マンション購入者である林田が消費者契約法に基づき、売買代金の返還を求めて提訴した裁判である。そのために日照権という言葉は使われていないが、日影規制の有無で形式的に判断せず、北向きの窓からも採光があり、それが妨げられることの被害を認めた。ここには日影被害から日照被害というパラダイムの転換がある。この東京地裁判決は神戸地裁尼崎支部決定の先駆となるものである。

基本的人権は「人類の多年にわたる自由獲得の努力の成果」である(日本国憲法第97条)。日照権も人々の裁判闘争の積み重ねが権利に実質的な内容を付与している。

日影規制違反を理由に建築確認取り消し=愛知・名古屋

初出:林田力「日影規制違反を理由に建築確認取り消し=愛知・名古屋」PJニュース2010年4月11日

 名古屋市建築審査会は2010年4月7日付で日影規制違反を理由にマンションへの建築確認を取り消すと採決した。これは日照権が住民の闘いによって勝ち取る権利であることを改めて示した。

 取り消された建築確認は名鉄不動産が建築を予定する地上8階地下1階建てのマンションに対するものである。建設地は名古屋市瑞穂区で、近くに大学もある閑静な住宅地である。民間検査機関のビュローベリタスジャパンが2009年9月に建築確認を出した。これに対し、近隣住民らが同年12月に日照権侵害などを理由に建築確認の取り消しを求めて審査請求した。

 採決では名鉄不動産の日影図(周辺建物におよぼす日影の状況を示す図)には誤りがあり、正しい日影図では日影規制(建物に生じる日影を一定時間内に定めた規制)に抵触すると指摘した。「建築基準法の日影規制に違反することは明らか」とまで断じている。

 日照権は成文法上の根拠の弱い「新しい人権」の代表選手であったが、法令で日影規制が定められることで、一定の保護が図られることになった。しかし、日影規制は日照権の衰退を招く結果にもなった。何故ならば商業地域のように日影規制の対象外とされると逆に日照権が保護されにくくなったためである(林田力「商業地域の仮処分決定に見る日照権保護の積み重ね」PJニュース2010年4月3日)。

 理論上は日影規制の対象外であっても日照権は保護される。日影規制は形式的・画一的に定めたものに過ぎず、個別具体的な日照阻害を規律したものではない。それ故に日影規制に該当しない建物でも受忍限度を超える被害を生じた場合は保護される。

 しかし、裁判の場では受忍限度を超えるかという基準のハードルは高く、現実問題として日照権が認められるケースは少なかった。そのために建築業者側は日照侵害を正当化する根拠として日影規制を悪用する。「日影規制は守っているので、マンション建設が隣地の日照を妨げても合法である」と主張する。

 ここには目的(日照権保護)と手段(日影規制)の取り違えがある。目的と手段の取り違えを押し進めると、本当は日影規制の対象になる場合でも何かと理由をつけて規制を免れようとする。これは耐震強度偽装事件と同じ建築不動産業界の病理である。構造計算書を偽装した建築士も地震に耐えられる設計ではなく、建築確認の審査を通すことを目的化していた。

 業者が規制の目的を尊重せず、規制を免れようということしか考えていないならば、住民にとっては規制があるから安心ということにはならない。業者側は都合の良い資料を持ち出して、規制をパスすることにエネルギーを注いでいる。これに対して住民側も粘り強く、様々な角度から調査して主張する必要がある。今回の採決は住民が規制に安住せず、闘って権利を勝ち取った大きな成果である。