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経済損失としての日照権侵害

初出:林田力「経済損失としての日照権侵害」PJニュース2010年4月12日

 日照権をめぐる動きが活発化している。2010年に入り、日照の保護を積極的に認める資本や行政の判断が相次いで出された。

 神戸地裁尼崎支部は商業地域で日照権侵害を理由とする建築差し止めの仮処分を決定した(林田力「商業地域の仮処分決定に見る日照権保護の積み重ね」PJニュース2010年4月3日)。また、名古屋市建築審査会は日影規制違反を理由に建築確認を取り消すと採決した(林田力「日影規制違反を理由に建築確認取り消し=愛知・名古屋」PJニュース2010年4月11日)。

 興味深いことに、同時期に日照権の内容を具体化する新しい理論的枠組みが建築・住宅ジャーナリストの細野透氏から提示された(細野透「「日照侵害の慰謝料」高騰か。「太陽光発電」の普及で「賠償金・補償金が数百万円」に跳ね上がるケースも。建築主・近隣住民が知っておくべき「日照紛争の対処法」とは」SAFETY JAPAN 2010年3月25日)。
http://www.nikkeibp.co.jp/article/sj/20100323/217122/

 当該記事では日照権侵害を財産権侵害として検討し直すことを提言する。太陽光エネルギー発電の普及により、日照侵害で発電ができなくなった場合の損失も日照権侵害の被害額になるとする。そして現に太陽エネルギー発電設備を設置している住宅だけでなく、導入していない住宅でも将来的に導入する可能性を阻害されたとして、損害の補填を要求する可能性があると述べる。

 日照権侵害を経済損失として捉える細野氏の主張は魅力的である。既に太陽エネルギー発電は住民に金銭的利益を生み出すものとして、東京のマンションでも利用されている。世田谷区の分譲マンション「クレヴィア二子玉川」では屋上に太陽光パネルを設置する。

 ここでは発電した電気を貯蔵し、マンション共用部の夜間照明などに割り当てている。共用部の夜間照明は太陽エネルギー発電で賄える計算で、マンション1戸あたり月々約1200円の管理費負担が軽減される(内田賀子「蓄電池と太陽光パネルでマンション共用部の照明を賄う」ケンプラッツ2010年1月20日)。
http://kenplatz.nikkeibp.co.jp/article/building/news/20100118/538597/

 もともと太陽光発電の登場する以前から、日照被害は被害者に経済的な損失を与えるものであった。具体的には以下の通りである。

(1)光熱費の増大
・部屋が暗くなるために朝からで電気を点けなければなない。
・冬場は部屋が寒くなるため、暖房の稼動が増大する。
・洗濯物を外干ししても乾きが悪くなるために乾燥機の使用が増大する。

(2)日光不足による健康悪化(ビタミンD欠乏症など)に対する医療費・サプリメント代の増加

(3)不動産所有者の場合は日当たり悪化による不動産価値減少

 高層ビルを建設するということは、それによって日照が妨げられる全ての住宅から太陽エネルギー発電を享受する可能性を奪い、日照被害による無駄な出費を増大させることになる。これは社会的に大きな損失である。

 これまで日照権侵害は経済問題よりも環境問題として主張される傾向にあった。これには大きく2点の要因が考えられる。
 第1に法的要因である。人格権(環境権)は財産権の上位にあるという法的価値判断や、財産的損害では差し止めは困難という法技術的要素がある。
 第2に日本社会の偏狭な二重基準という社会的要因である。日本社会には権力者の不正には清濁併呑と寛容であるのに、告発者の動機には過大な倫理性を要求し、告発者の私的利益に異常なほど厳しいという倒錯した傾向がある。建築紛争で訴訟を起こす住民が「金目当ての訴訟」と中傷されることも少なくない。これが経済損失を主張の前面に出すことを躊躇させている。

 法的要因については経済損害を合わせて主張することの妨げにはならない。開発する利益と日照被害を比較考量する上で援軍になるものである。

 社会的要因については地域を犠牲に自社の利益を追求する開発業者に対して、住民が住民の利益を追求することは当然と開き直ることも当然である。経済損失を主張することは、金儲けという尺度しか持たないエコノミックアニマルの開発業者にも理解できる論理で開発の問題点を主張することになる。

 環境運動には金とビジネスが全ての開発業者に環境という価値を認めさせたいという思いもあるが、経済的にも負の効用をもたらすと主張することも場合によっては有効であると考える。

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