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消費者契約法違反で耐震偽装マンション代金返還判決


耐震強度偽装マンションの購入者が分譲主の住友不動産を提訴した裁判で、札幌地裁平成22年4月22日判決は、住友不動産にマンション購入代金の全額計約3億7000万円の支払いを命じた。この判決は不動産購入トラブルの解決に消費者契約法が有効であることを改めて示した。

問題のマンションは札幌市中央区にあり、地下1階、地上15階建てである。原告らは2003〜04年に売買契約を締結したが、2006年に浅沼良一・元二級建築士による耐震偽装が発覚し、札幌市の調査で耐震強度が基準の86%とされた。購入者11世帯14人は2006年12月に購入代金(616万〜4740万円)の返還などを求めて札幌地裁に提訴した。

これに対し、原告側は「販売前のパンフレットに『新耐震基準に基づく安心設計』などと記載され、法令基準よりも余裕を持たせた耐震性能があると販売担当者から説明を受けた。消費者契約法違反(不実の告知)に当たり、契約は取り消せる」と主張した。

住友不動産側は「瑕疵は軽微で、補修が可能」と反論した。しかし、判決は「補修が小規模で足りるとしても、マンションの欠陥が重大でないとは言い難い」「強度不足が分かっていれば、購入しようと思わなかった」とし、原告らの請求を認容した。住友不動産側は控訴する方針という。

住友不動産側の主張は消費者感情を逆撫でするものであった。住友不動産はプレスリリースで、「買い取りよりもむしろ、全額当社負担で補強工事を行わせていただく方が、日常生活に支障を来たさずベターであると判断した」と主張した(住友不動産株式会社「札幌市中央区のマンション区分所有者との訴訟について」2007年2月15日)。

何が購入者にとってベターであるかは購入者自身が判断することで、不動産業者が意見する問題ではない。「折角、マンションを購入したのだから、補修で済むならば住み続けたい」というのも一つの考えである。極論すれば欠陥物件に泣き寝入りすることさえ、当人の自由である。しかし不動産業者が一方的に「補修の方がベターである」と決め付ける資格はない。問題が露見すれば補修で取り繕い、バレなれければそのままでは悪徳不動産業者のだまし得になってしまう。

そもそも原告らの主張は消費者契約法に基づく契約取り消しである。買い取りとは異なる。原告の主張も正確に理解していないことになる。

また、「当社は、居住者の皆様に一日も早く安心してお住まいいただけますよう、補強工事の早期実施を心から願っており、この訴訟提起が合意形成の支障となる事態を憂慮しております」との文言も問題である。提訴した住民と補強工事で満足する住民の間に対立を引き起こしかねないためである。このような業者の物件であるならば契約を取り消すことが正解となる。

耐震強度偽装事件は後味の悪い事件であった。マンションという一生に一度あるかないかの大きな買い物で、偽装物件を購入した被害者の多くは救済されなかった。それどころか二重ローンを組むなど被害者自身の犠牲と負担で対応を余儀なくされた。

マスメディアの報道も中途半端であった。偽装物件購入者の苦しみをクローズアップするよりも、住民が餅付き大会で親交を深めたなど無理に明るい話題を強調する傾向があった。ここには頑張らなくていい人にまで頑張らせ、失敗しても立ち直ることを美徳として強制する日本社会の醜い面が現れている。その意味で分譲主の責任を追求し、売買代金返還を求めた原告らの存在は救いである。

原告勝訴の要因として、消費者契約法に基づいたことが挙げられる。既に消費者契約法によりマンション購入代金の全額返還が認められた先例がある。東京地裁平成18年8月30日判決(平成17年(ワ)3018号)は不利益事実(隣地建て替え)などを説明せずに新築マンションを販売した東急不動産(販売代理:東急リバブル)に対し、消費者契約法違反(不利益事実不告知)を理由に売買代金の全額返還を命じた(林田力『東急不動産だまし売り裁判 こうして勝った』ロゴス社、2009年)。

消費者契約法は不実告知(事実と異なることを告げること)や不利益事実不告知(利益となる事実を告げながら、不利益事実を告げないこと)によって消費者が契約を締結した場合に契約の取り消しを認める。裏返せば不動産業者が事実を説明していれば、消費者が契約を締結しなかったと立証できれば契約を取り消せる。

これによって、不動産業者が「欠陥や虚偽説明は些細な問題であって、不動産取引において本質的・重大な問題な問題ではない」という言い訳を封じることができる。いくら不動産業者が些細なものと主張しようとも、仮に不動産全体の価値と比べれば相対的に小さな問題であっても、その問題の説明を受けていれば購入しなかったならば、消費者契約法の要件に該当する。

消費者契約法の大きな制約は取消権が不実告知や不利益事実不告知を知った時から僅か6ヶ月で消滅してしまうことにある。そのために消費者契約法違反があっても、救済されないケースも少なくない。消費者契約法による不動産売買契約取り消しの事例が集積されることで、消費者契約法が広く認知され、不動産トラブルに積極的に活用されることを期待する。

林田力「消費者契約法違反で耐震偽装マンション代金返還判決(上) 」PJニュース2010年4月23日
林田力「消費者契約法違反で耐震偽装マンション代金返還判決(下) 」PJニュース2010年4月27日

長周期地震動で超高層マンションの資産価値下落も

国土交通省は2010年12月21日に「超高層建築物等における長周期地震動への対策試案について」を発表した。超高層ビルに長周期地震動の対策を求める内容で、既存の超高層ビルの長周期地震動対策が不十分であることを公式に認めたことになり、人気があるとされる超高層マンションの資産価値下落の可能性もある。
長周期地震動とは、揺れの周期が長い波を含む地震動である。周期とは地震で建物が揺れた時、左に動いて元に戻り、右に動いて元に戻る、という一往復にかかる時間を指す。長周期とは数秒から十数秒程度のゆっくりした揺れである。超高層ビルのような巨大な建築物は長周期の地震波と共振を起こしやすい。
長周期地震動では船が揺れるような大きな揺れが長時間続き、被害が深刻化する。揺れ幅が数メートルにも及ぶ可能性のある長周期地震動が発生した場合、超高層ビルの室内ではまず立っていることは困難である。家具も大きく移動し、倒れるなどと予測される。
これまで超高層ビルは短周期の直下型大地震には強いとされていた。実際、阪神大震災では他のビルや住宅と比べて相対的に被害は小さかった。しかし、超高層ビルは長周期地震動には脆い。特に関東平野のように堆積層の厚い平野部では、地表から地下深くまでの堆積層の影響によって長周期地震動は増幅される。
長周期地震動の被害は既に現実化している。2003年9月の十勝沖地震では、震央から約250kmも離れた北海道苫小牧市の石油タンクで火災が発生した。2004年の新潟中越地震では東京都港区は震度3に過ぎなかった。しかし、六本木ヒルズ森タワーでは、エレベータ6基が損傷する事故が起きた。そのうちの1基はロープが切断された。
土木学会と日本建築学会は2006年11月20日の時点で、超高層ビルが長周期地震動で想定以上の負荷がかかるとして、耐震性向上を提言した。それから4年後に、ようやく対策試案が発表されるに至った。その間にも雨後の筍のように超高層ビルが建設されたことを考えれば恐ろしくもある。
対策私案では新たに超高層ビルを建設する場合、長周期地震動を考慮した設計用地震動による構造計算や、家具等の転倒防止対策に対する設計上の措置を必要とする。一方で既存の超高層ビルについては長周期地震動による影響が大きいものを再検証し、必要な補強を行うように要請するにとどめた。
今回の対策が実行されれば、その後に建設される超高層ビルについては、それが十分か否かは議論があるとしても、一応の長周期地震動対策がなされる。この結果、長周期地震動を考慮せずに建設された既存の超高層マンションは見劣りすることになる。新耐震基準以前のマンションのような扱いとされ、資産価値が大きく下落する可能性がある。
対策では既存の超高層ビルも再検証するとしているが、これが分譲の超高層マンションでは機能しにくい。行政が検証主体であっても、建物所有者の協力が不可欠である。しかし、マンション管理組合では意思統一がしにくい。多数の区分所有者が存在する大規模マンションでは一層である。そして問題発覚による資産価値低下を恐れて行政の調査を拒否する区分所有者も少なくない。これは耐震強度偽装事件での調査でも見られたことである。
結果として既存の超高層マンションへの検証は不十分に終わり、長周期地震動に対する安全性は不透明さが残る。超高層マンションの中古市場は経済学で言うところのレモン市場化する可能性がある。

分譲被害者と賃貸被害者の連帯を

マンションだまし売りや欠陥住宅などの分譲被害者は、同じ不動産トラブルの被害者としてゼロゼロ物件や追い出し屋などの賃貸被害者と連帯を深めるべきである。現状では分譲被害者と賃貸被害者は分断されているが、分譲購入者の意識の低さが大きな問題である。
私は東急不動産(販売代理:東急リバブル)から不利益事実を隠して新築マンションをだまし売りされた(林田力『東急不動産だまし売り裁判 こうして勝った』ロゴス社、2009年)。この経験から分譲マンション購入時の消費者保護を強く主張している。幸いなことに管見に同意する方も増えているが、そのような方からも賃貸被害者に厳しい主張がなされることがある。「家賃を支払っていないことが悪い」という類の主張である。
それどころか賃借人は法律で過剰に保護されているとの不満もある。確かに賃借人保護は古くから法整備が進む一方で、分譲物件購入者の保護は置き去りにされている。それ故に賃借人の方が法的に厚く保護されているという不公平感を誤りと一蹴することはできない。
しかし、分譲における消費者保護も、賃貸における賃借人保護も、社会経済的弱者保護という点では同一目的にある。一方を厚くして他方を薄くするという関係にはない。分譲購入者の保護が弱い点は問題である。分譲購入者は強く保護されるべきであるが、それは賃借人保護を弱くすることには結びつかない。
社会的弱者を保護すべきというのは一つの価値判断である。必ずしも万人と共有できるものではない。企業寄りの立場ならば弱者保護の強化ではなく規制緩和という結論となる。弱者保護に反対する層の存在は理解できるが、興味深い点は分譲物件の消費者保護は強化する一方で、賃借人の保護を弱めるべきという価値判断が出てくることである。この種の言わばプチ・ブル的発想が日本の問題である。
格差社会において分譲購入者という存在自体が、ある意味勝ち組であることを自覚しなければならない。賃貸被害者にはアパートを追い出され、ネットカフェ難民となった人もいる。分譲購入者に共感力がなければ、真の社会的弱者から敵意を向けられる対象になり得てしまう。
実際、耐震強度偽装事件において疑惑の解明を積極的に主張した人々の中には、偽装マンションが次々と明らかになり、分譲マンション購入者の破滅を喜ぶ意識がなかったとは言えない。一方で耐震強度偽装事件が風化してしまった背景には、自分達のマンションの真相を知りたくもないという分譲マンション住人の保守性が影響している。
分譲購入者も賃借人も共に不動産業界の被害者として連帯する。そのようにならない点に不動産問題が大きく広がらない一因がある。

更新料廃止で賃貸住宅市場の充実を

賃貸住宅の契約更新時に支払う更新料を消費者契約法10条(消費者の利益を一方的に害する条項の無効)により無効とする判決が相次いでいる。これは消費者だけでなく、賃貸不動産業界にとっても福音である。不動産業界は旧来の陋習である更新料を積極的に廃止することで賃貸住宅市場を充実すべきである。
消費者にとって更新料は合理性に欠ける。建物に住むことと家賃の間には対価関係がある。ところが、更新料は契約を更新するための代金であり、そのようなものに金銭を支払うことは他の業種では考えられない。
一般の業種ならば長期契約者はサービス提供者にとっては有り難い存在である。割引してでも囲い込みたい上客である。建物を借り続ける場合に余計な金銭を支払わないところに不動産業界の異常さがある。更新料無効判決は不動産業界の悪弊を消滅させるチャンスである。
不動産賃貸業界にとっても長期契約者は上客である。賃貸ビジネスにとって一番避けたいことは空き部屋が出ることである。新たな住人を募集するためにはクリーニングやリフォームも必要である。現在では前の賃借人の敷金をクリーニングやリフォームに使うことは許されない。大家は長期契約者を大切にしなければならない。
更新料が無効になると、短期的には賃貸業者の収入が減るが、長期的には賃貸市場を拡大させることができる。日本は異常なほど持ち家信仰が肥大化しているが、賃貸と比較した分譲住宅の経済的合理性は不明確である。むしろ日本では分譲住宅や賃貸住宅そのものとは別の次元で格差があることが問題である。
分譲住宅購入者には住宅ローン減税や固定資産税減免など税制面で優遇されている。これに対し、高額な敷金・礼金、不合理な更新料、追い出し屋など賃貸住宅を取り巻く環境は貧困である。相対的に恵まれている筈の分譲購入者を制度的に優遇することは不公正である。この点で「民主党政策集INDEX2009」が以下を掲げたことは正当である。
「従来の持ち家取得への偏重を是正し、ライフスタイル・ライフステージに合った住宅政策への転換を図ります。」
更新料のような不合理な慣行が賃貸に存在するために分譲に魅力を感じてしまう面がある。そのため、賃貸業界から不合理な慣行を一掃することで分譲に逃げた消費者を呼び戻すことができる。大家側には狭い業界の論理から更新料無効判決に抵抗するのではなく、普遍的な経済原理から判決の一歩先の対応を期待する。

追い出し屋と占有者の仁義なき戦い

追い出し屋が社会問題になっている。2010年7月30日には東京地方裁判所で1カ月分の家賃滞納を理由にアパートから追い出したことを違法として、家賃集金代行会社に損害賠償を命じる判決が言い渡された。代行会社は家賃支払いが遅れた杉並区のアパートの玄関ドアを固定し、室内の荷物を撤去した。このケースのように物理的に居住できなくすることが追い出し屋の典型的な手法であるが、より不気味な事例もある。
東京都足立区に居住するA氏は緊急連絡先として伝えた実家に電話や内容証明郵便で退去を要求されたとする。実家への電話で不気味な点は最初に「A氏と事務所で知り合った」と自称する男性から電話がかかってきたことである。
男性は「このままでは事件が起きますよ」と警告した。この男性との電話が切れた直後に建物所有者から電話がかかり、「建物を不法占拠されて困っている」と説明した。立て続けの電話に応対したA氏の母親は「気持ちが動揺して震えが来た」と、その時の心情を記している。男性の直後に建物所有者が電話した経緯から、A氏は追い出し屋が建物所有者を動かしていると分析する。
また、内容証明郵便では「現在弁護士を立てて刑事事件告訴、民事裁判への準備中」とした上で、A氏の両親に対しても以下のように述べる。
「ご両親様はご子息の犯罪の数々を見てみぬ振りをし、資金提供をなさっておりますので、両名を犯罪の加担犯として刑事事件該当の犯罪者として刑事告訴する用意がございます。」
A氏は「加担犯」という刑法には存在しない講学上の用語が使われていることから、弁護士が書いたものではなく、難しそうな言葉を並べた脅しであると推測する。本人には脅しが通用しないために、両親を脅して追い出しを狙う卑劣さに憤る。
これに対し、建物所有者側はA氏が最初から不法占拠しており、賃貸借契約も存在せず、賃貸借トラブルとは次元の異なる問題であると主張する。巨漢のA氏に対し、建物所有者は女性であり、身の危険も感じている。それ故に男性に相談したという。

シックハウス症候群で仲介手数料紛争=横浜

新築戸建て住宅の引渡し前のチェック中にシックハウス症候群になり、購入をキャンセルした消費者が不動産仲介業者から仲介手数料の支払いを請求され、神奈川簡易裁判所に提訴された。消費者側は「決済時に全額払う仲介手数料を、決済を行っていないに関わらず全額請求する無恥な仲介業者には憤りを覚える」と反発する。
消費者は2010年2月21日に仲介業者と共に神奈川県横浜市内の新築戸建てを内覧した。仲介業者との内覧は、この日のみという。この物件について、2月27日に重要事項説明及び契約締結を実施した。
その後、消費者は3月20日に引渡し前のチェックで建物に2時間ほど滞在した。その際、鼻や喉の痛み、酷い倦怠感を感じ、シックハウス症候群と思われる症状に3日以上悩まされた。消費者は不安な気持ちのまま悩みに悩み、このような家には住めないとの判断に至った。そして3月26日、やむなくキャンセルする旨を仲介業者に伝えた。後日、消費者は化学物質過敏症の診断を受けた。
仲介業者は24時間換気のスイッチを入れたと連絡し、ハウスクリーニングの影響が原因ではないかと説明した。しかし、キャンセルについては何らの対策を打ち出さなかった。契約履行の着手に入っているために違約金が400万円かかるとの売主の言い分を繰り返し、契約続行を要求した。問題の仲介業者は大手フランチャイズ加盟店で、消費者は本部の相談窓口にも相談したが、以下のような素っ気無い回答であった。
「契約は履行の着手が行われているため、売主が違約金発生と言うならば発生する。加盟店の行為について本部に責任はない。」
最後には「業者を選択したのは貴方の責任」とまで言われたという。
消費者は弁護士を代理人として契約解除を通知し、売主の弁護士と協議した。当初、売主側は3月23日に消費者の名義で表題登記が完了していることを根拠に履行の着手に入っているとし、手付け解除は認めないと主張した。これに対して消費者側は、表題登記は売主(建主)の義務であり、買主には無関係と反論し、最終的には5月末に手付け金放棄による契約解除が成立した。
問題は仲介業者であった。仲介業者から6月11日に事務所まで仲介手数料全額(約100万円)を持参するよう内容証明が届いた。しかし、消費者は以下のような仲介業者を許せなかった。
第一に体調不良を訴える消費者に「病気なんですって?」「私はなってないからよくわからない」とシックハウス症候群への無知を露呈した思いやりに欠ける発言である。
これは私にも経験がある。仲介業者の案内でリノベーション住宅を内覧したことがあったが、その住宅は新築住宅特有の化学物質の臭いが強烈であった。その旨を仲介業者に指摘すると、驚いたことに「私は、この臭いが好きです」と回答した。消費者への共感力に欠け、業者の基準を押し付けようとする業者から購入しなかったことは当然である。
第二に困惑している買主に対し「どうしたらいいですか?」と逆に尋ねてきた。消費者には回答しようがなく、不動産取引のプロとは思えない態度であった。
第三に手付け解除が出来ないなどと誤った法律知識で虚偽の説明をしたことである。
このため、弁護士とも相談した結果、内容証明郵便は無視し、その後の連絡を待つことにした。しばらく音沙汰がなかったが、8月28日に唐突に神奈川簡易裁判所から訴状が送達された。
消費者はトラブルがあっても、問題解決に尽力する常識的な仲介業者ならば、弁護士を頼む必要はなく、仲介業者の活動に報酬を支払うことに異論はないと主張する。また、問題があっても強引に契約を進める不動産業界や、分かりにくく高額な仲介手数料制度に大変な疑問を感じているとする。仲介業者にも確認したが、「ただ今、裁判中のため、お答えできません。」との回答であった。
消費者が手付け放棄での契約解除で売主と合意した点を消費者側の都合による解除と受け止めるならば、消費者の立場が弱くなる。裁判では物件の実際のシックハウスの程度や仲介手数料の発生条件についての売買契約の解釈が争点になると予想される。

住民の個人情報収集と悪口がマンション業者の仕事

住民の悪口だらけのマンション業者文書

マンション販売が好調と報道されている。しかし、長期的に見れば少子高齢化で住宅が余ることは確実であり、「買い時」と煽ることもマンション業者の戦略の一つである。そしてマンション建設の影には住環境悪化に苦しむ近隣住民が存在することも忘れてはならない。
実際、マンション業者にとって近隣住民対策は厄介な仕事である。近隣対策屋なる近隣対策を専門に行う業者が存在するほどである。その近隣対策の実態を示す文書を入手した。近隣住民の身辺(職業、血縁関係)を不気味なほど調べている上、住民に対する誹謗中傷表現に満ちている。マンション業者が近隣住民を攻略すべき障害としか見ていないことを示す文書である。
問題の文書は株式会社大京・東京支店が大京管理株式会社に2002年11月19日に送信したファックス文書「「LS小平」近隣関係」及び添付地図である。大京は大手マンションデベロッパーであり、大京管理は系列の管理会社で、その後、株式会社大京アステージに社名変更されている。LS小平は大京が分譲したマンション「ライオンズステージ小平」を指す。東京都小平市天神町で2002年に竣工した9階建ての分譲マンションである。
ファックス文書はライオンズステージ小平の近隣住民について住宅所在地を地図で示しながら説明する。先ずマンション東側の6軒の住民にそれぞれ補償費70万円〜120万円を支払ったと記述する。マンション建設で被害を受ける住民に金銭を支払う事例は少なくないが、具体的な金額が明かされる例は稀である。
続いて近隣住民の各々を説明し、注意点を述べているが、その内容に驚かされる。大別すると近隣住民に対する身辺調査と誹謗中傷表現の二点である。
第1に近隣住民の職業や血縁関係など、近隣対応に必要とは思えない範囲まで調査している。「イトーヨーカドーの労働委員会所属」「小平消防自動車運転手」などと、どこで入手したのか勤務先以上の情報を得ている。情報の入手自体も問題だが、入手した情報を近隣関係への配慮のために活かそうとする姿勢が微塵もないことにも驚かされる。
ファックス文書では「消防署勤務のため、昼寝て、夜間仕事の時もあり、工事中は、振動騒音等で、文句多かった」とある。夜勤のために昼間寝なければならない人にとって建設工事の騒音や振動は耐えがたく、苦情が出ることは自然である。しかし、マンション業者は苦情が出る背景まで調査していながら、文句が多いとしか受け取っていない。住民に配慮する姿勢も迷惑をかけたという反省も皆無である。
血縁調査についても詳しく調べている。「嫁の実母」「兄弟ですが、あまり仲良くないと感じました」などである。このような情報が近隣対策にとって何の役に立つのか理解に苦しむ。
私自身、東急不動産とのトラブルでは東急不動産の代理人弁護士に管理組合理事長をしていることや私自身の年収、家族構成について暴露された上、ブローカーに勤務先にまで圧力をかけられ、東急不動産の物件には住んでいられないと思ったものである(林田力『東急不動産だまし売り裁判 こうして勝った』ロゴス社、2009年)。
第2に近隣住民への誹謗中傷表現である。前述の6軒の住民を「この連中」と呼んでいる。しかも「性格異常者」「しつこい、うるさい、ばばあ」と罵倒表現のオンパレードである。苦情の多い住民のみならず、相対的に良好な関係を保てた住民に対しても「暗〜い感じの人」とネガティブな表現をしている。
ファックス文書では引越し・マンション関係の車両の路上駐車場所についても指示している。道路Aは路上駐車に対し、近隣住民から苦情が出たため、道路Bに駐車することを指示する。道路Bに駐車してもクレームはないとの予想するためである。
ここで注目すべきは大京にとって、路上駐車場所の判断基準が苦情の有無である点である。このファックスが出された2002年時点は路上駐車についての運用が現在と異なるため、「路上駐車を推奨するとはけしからん」という類の主張をするつもりはない。問題は「近隣住民に迷惑をかける場所では路上駐車をしない」ではなく、「苦情が出る場所での路上駐車を避ける」というマンション業者の発想である。
マンション建築紛争では業者寄りの立場から住民の所謂「ゴネ得」に対して厳しい視線が向けられることがある。しかし、住民の迷惑をかけないように自発的に配慮するという姿勢がなく、苦情が出るか否かで対応するようなマンション業者が相手では、住民としてもゴネることが正しい対策になる。
最後に本資料の出所について説明する。本資料は大京労働組合のウェブサイトに公開されたものである。大京労働組合では本資料の公開を公益通報と位置付け、近隣住民に対し、大京への抗議及び法的請求を推奨した。マンション建築紛争は全国各地で発生し、反対運動も組織化されてきているが、デベロッパー内部の実態は本件のような内部告発がなければ明らかになりにくい。大京労働組合の勇気ある内部告発に感謝したい。
大京労働組合による内部告発は近隣住民の利益になる。プライバシー侵害や侮辱的な発言は大京の行為であって、大京労働組合ではない。大京は近隣対策に不必要な情報までを収集し、第三者である大京管理にファックスという機密性を保持しにくい形で送付した。不必要な個人情報を収集することも、それを他社に流すことについても問題視する意識はない。大京労働組合が告発しなければ、この状況が永続することになる。
今回のファックス文書の性質上、書かれた内容は大京と大京管理の担当者間だけの秘密ではなく、関係者間で広く知れ渡ってしまうものである。ファックスを受け取った大京管理は管理組合からマンション管理を委託された管理会社の立場である。グループ企業内の情報共有とは性質が異なる。引継ぎ文書との見方もあるが、現場への引継ぎ文書ではなく、むしろメーカーによるユーザーへの引継ぎ文書に近いものである。要するに同一組織内の人間への引継ぎではなく、第三者への引継ぎである。
大京管理は管理組合に対して責任を負っており、管理組合に報告する義務がある。今回のファックス文書も管理組合に見せる義務があり、ライオンステージ小平の区分所有者全員が見ることができる立場にある。「知らぬは住民本人ばかりなり」という状況の可能性もある。その意味で、今回、大京労働組合がインターネットで告発したことは誰も知らなかった秘密を暴露したということとは相違する。
大京労働組合の告発がなければ何も変わらない状況であり、内部告発によって必要以上に個人情報を収集し、社外に送信する大京の問題点が明らかになった。これは住民の利益である。