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熱海渚地区再開発にならって二子玉川ライズの中止を

二子玉川東地区再開発(二子玉川ライズ)は静岡県熱海市の熱海中央渚北地区市街地再開発に学び、計画を凍結すべきである。渚地区再開発は熱海市の財政難と市民の理解不十分を理由に、市長の判断で凍結された。二子玉川ライズと渚地区再開発の状況には重なる面も多く、二子玉川ライズの今後を考える上で参考になる。

熱海市は「東洋のナポリ」とも称される観光都市である。熱海駅前には足湯に浸かれる家康の足湯が整備されており、観光に力を入れていることが分かる。しかし、駅前のビルには東急リゾートなど企業広告の看板がデカデカと掲示され、景観という点では日本各地で観察できる醜い都市と変わらない。

広告の内容はホテルなど観光地らしいものが多いものの、それならば一層のこと観光地としての景観に配慮していないことが惜しまれる。海への道を歩いていくと、目立つ建物はリゾートマンションである。熱海は海と山が接する景勝地であるが、海からの眺望をリゾートマンションが遮ってしまう。

リゾートマンションだらけの景観
熱海市

再開発が持ち上がった渚地区は海(熱海港)に面した木造建物が密集する繁華街である。熱海中央渚北地区市街地再開発の計画対象地は糸川と渚中通り、国道135号線に囲まれた場所に位置している。面積は0.6ヘクタールである。地権者のうち、土地・建物所有権者は約50名である。最大の地権者は熱海市で、再開発地域に755平米の市営駐車場を所有している。

渚地区再開発は再開発ビル、再開発ビルと海岸を結ぶぺデストリアンデッキ、イベント利用できる多目的広場などを計画していた。再開発ビルは鉄骨鉄筋コンクリート造、15階建てと4階建てを併設し、最大高さは55メートル。延べ床面積は約2万6000平米である。

再開発ビルは商業施設、住宅、ホテルなどから構成される。建物は、大きく北側の高層ブロックと南側の低層ブロックに分けられる。北側には会員制ホテル約1万4000平米(約160室)を配置、南側には健康関連施設約500平米、商業施設約2000平米、住宅施設約1100平米(約18戸)、駐車場・駐輪場(約180台)などである(「熱海中央渚地区市街地再開発、19年度にも工事着手へ」建築ナビ2005年1月24日)。

総工費は約80億円とも約90億円ともされる。会員制ホテルの保留床販売などで捻出する方針である。補助金対象金額は18億円である。国が2分の1の9億円、静岡県は残りの3分の1の3億円、熱海市は3分の2の約6億円の補助金を支出することになる。市有地取得時の買収費は4億円強であり、合わせて10億円以上の市民負担になる。

再開発の経緯

1995年5月に「渚地区まちづくりを考える会」が発足。

1999年11月、「渚中央地区まちづくり協議会」が設立された。

2000年8月、基本計画が発表される。初川から糸川にまたがる、1ヘクタールの区域に高さ62米のビルを建設する計画。

2003年1月、熱海中央渚北地区市街地再開発準備組合設立総会が開催される。吉田耕之助氏を理事長に選出。再開発地域は0.6ヘクタールに縮小。2005年度内の都市計画決定取得を目指し、2006年度には本組合設立と権利変換計画認可取得、実施設計業務を行ない、2007年度から工事に着手、2008年度末までの完成を目指す。地権者(土地・建物所有者)54人(共同所有含む)中、準備組合加入者は39人である。

2005年1月、建物の高さが約55米になる。

2005年2月、地権者説明会が開催される。

2005年8月、市民対象説明会や借家人対象意見交換会が開催される。再開発ビルの高さは50メートルになる。

2005年9月、都市計画法上の説明会が開催される。出席者は地権者1名を含む僅か6名で、事前連絡が不十分ではないかと批判された。

2005年11月8日、都市計画法第16条第1項の規定による公聴会が市役所で開催される。賛否両論が噴出する。

2005年11月28日、住民団体「まちづくりを考える会」(長谷川政照代表)が熱海市役所を訪れ、助役に現状での事業計画中止を求める陳情を実施した。

地権者の反対理由

地権者は主に以下の理由で反対した。
・地権変更による敷地面積の減少

・ビル内に自社店舗が組み込まれた場合の内装費等の捻出が不可能

事業主の地権者には高齢者で、後継者のいない人が多い。借金返済不能に陥る。

・工事期間中は他の場所で2年間も営業しなければならないリスク

・コンサルタントへの不信感

その後は熱海市の補助金支出や、当初から再開発に開発に関与してきた大手ゼネコンとの不透明で巨額な金銭問題により、市民レベルでの反対運動が拡大した。

都市計画決定の見送り

斉藤栄・熱海市長は2007年7月3日、渚地区再開発の都市計画決定を見送ることを市議会で正式表明した(「熱海市長「見送る」 再開発ビル」朝日新聞2007年7月4日)。理由は以下の2点である。

第一に財政難の市が6億円を用意することが困難であることである。

第二に3568人の市民が見直しを求めて陳情するなど市民の理解が十分得られていないことである。

市議会には再開発計画の都市計画決定を求める推進請願(熱海中央渚北地区市街地再開発事業の都市計画決定に関する請願)と中止を求める請願(熱海中央渚北地区再開発事業を再考し中止を求める請願)が出されていたが、市議会は同日、推進の請願を賛成多数で可決した。橋本一実議員(民主党・市民クラブ)が財政難などを理由に反対討論したものの、採択された。中止を求める請願は不採択となった。斉藤市長は「議会の総意は深く受け止めなければならない」としたものの、「市の財政状況が十分把握されていないのではないか」と述べた。

その後も再開発問題は燻り続けている。斎藤市長は「防災上の観点からも、渚町の再開発は必要である」と発言している(熱海市議会9月定例会建設公営委員会、2010年9月28日)。市街地再開発準備組合には、平成20年度と21年度にそれぞれ、150万円の補助金が割り当てられている。議会では特定ゼネコンによるコンサルへの不透明な準備金の流れなども追及された。

2011年11月の熱海では、渚町再開発は忘れ去られた存在であった。観光協会に再開発について尋ねたものの、「知らない」との回答であった。再開発地域は狭い路地もある風情ある商店街である。飲み屋も多い歓楽街である。公共施設も入る再開発ビルへの入居が似合わない店も多い。飲み屋などの事業者にとってはメリットのない話であり、反対意見が出ることも納得できる。

注目すべきは、再開発準備組合理事長の企業と反対地権者の代表格の店舗が隣接していた。お隣同士で激しい対立を引き起こしており、地域コミュニティーを破壊する再開発の罪深さが浮き彫りになる。掲示板の貼り紙などからは商店街活動が活発に行われていることをうかがわせる。「再開発をしなければ街が寂れる」という再開発推進意見の誤りを裏付ける。

再開発地域の街並み
熱海市渚地区

二子玉川ライズとの比較

渚地区再開発の失敗は二子玉川ライズの参考になる点が多い。

第一に地権者本位の再開発ではないことである。渚地区再開発の最大の地権者は熱海市で、ゼネコンやコンサルの先行が問題になった。二子玉川ライズも東急グループが事業用地の85%以上を有している。

第二に自然環境の良さをアピールしながら、再開発で自然環境を破壊する矛盾である。渚地区再開発は観光の活性化を掲げたものの、計画は海からの景観を遮る巨大建築物であった。多摩川や国分寺崖線の自然環境をアピールする二子玉川ライズも、自然を破壊して高層ビルを建設する。大企業グループによる自然環境と住民生活の圧迫・破壊である。開発前の二子玉川再開発地域は以下のように説明されている。

「敷地全体はこんもりとした樹齢の高い樹木に覆われ、春は桜が満開になって、多摩堤通り土手上の桜と相まって、住民が自由に立ち入ることのできる自然豊かな散歩空間となっていた。住民や、町を訪れた人々は、敷地内で施設利用の他、森林浴や花見を楽しむなどして過ごし、多摩川をわたる風が吹き抜ける広い空が確保された自然豊かな空間であった。」(二子玉川ライズ住民訴訟控訴理由書)

第三に地権者の反対運動から住民反対運動への広がりである。渚地区再開発は市民の反対署名運動に発展した。二子玉川ライズの反対運動も儒環境を破壊される周辺住民から、補助金支出に異議を唱える世田谷区民や都民に広がっている。住民運動は全国各地に広がる自然や住環境破壊と同根の問題であるとして、全国の住民運動や有志・有識者とも協力関係を深めている。

賛否両論のあった渚地区再開発の中止は市長の政治的決断に負うところが大きい。議会では推進派が多数を占める中での中止である。保坂展人・世田谷区長の決断を期待したい。二子玉川ライズの建設工事が世田谷区玉川の自然環境と住環境に重大な影響を与えていることは明らかな事実であり、世田谷区は慎重な態度で臨むことが求められる。第1期事業の問題が解消するまで第2期事業の工事を延期することなどが必要である。

熱海サンビーチ

渚地区に隣接する海岸でも開発が進められている。この点でも都市計画公園とセットになった二子玉川ライズと類似する。熱海の海岸は都市開発のための埋め立てによって磯や砂浜が失われ、コンクリート護岸と消波ブロックの親水性に乏しい海岸線となっていた。これに対して熱海港コースタルリゾート構想が掲げられた。

1991年に人工砂浜の熱海サンビーチ、2004年3月にはサンビーチを照らす照明施設が完成した。サンビーチは「恋人の聖地」とされ、恋人が愛を誓う噴水のモニュメントもある。

熱海港海岸環境整備事業では親水公園を整備する。整備計画は北側から4工区に分ける。第1工区「スカイデッキ」は南欧コートダジュール、第2工区「レインボーデッキ」は北イタリアサンレモ・リヴィエラ海岸、第3工区「渚デッキ」は南イタリアナポリ、第4工区はギリシャエーゲ海をイメージする。2009年度までに第3工区が完了した。

噴水のモニュメント、港、砂浜
熱海の噴水
熱海港
熱海サンビーチ