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景住ネット全国集会「私たちは震災から何を学ぶのか」

市民団体「景観と住環境を考える全国ネットワーク」(景住ネット、日置雅晴代表)の全国集会「私たちは震災から何を学ぶのか 3・11後のまちづくりを考える」が2011年9月3日及び4日に千葉県の船橋中央公民館で開催された。景住ネットはマンション建設反対運動など建築紛争に携わってきた人々を中心とする全国組織であるが、個別の紛争事例は2日目に回し、初日は総論的な内容である。東日本大震災は被害の大きさから津波と原発事故が注目されがちの中で、仙台市内陸部の避難所の問題と千葉県湾岸部の液状化被害が報告された。
日置雅晴代表の代表挨拶「我々は何を目指すべきか」では、超高層マンションの問題も景観破壊だけではなく、様々な視点から見るべきと主張した。停電(エレベータ停止)や建て替え、周辺地域とのコミュニティーの断絶など問題が山積みであるとする。

五十嵐敬喜・前内閣官房参与が菅直人政権の原発対応を語る

基調講演は五十嵐敬喜・法政大学教授の「東日本大震災と『美しい都市』」である。前内閣官房参与でもある五十嵐氏は菅直人政権の震災・原発対応の裏話を披露した。
五十嵐氏は古くから菅直人前首相のブレーンと目されている人物である。弁護士として建築紛争で不当な建築によって権利を侵害される側の弁護活動に携わり、日照権という言葉を生み出した。また、都市政策論を専門とする研究者として、神奈川県真鶴町の「美の条例」制定を支援するなど、美しい都市創りを提言している。
五十嵐氏は8月30日の菅内閣総辞職に伴い、内閣官房参与を辞任した。そのために講演内容の一部を変更し、辞任後だから話せる菅内閣の裏話を語った。
3月9日に内閣官房参与に任命された五十嵐氏は11日の東日本大震災を首相官邸で経験した。ちょうど内閣官房参与としてのレクチャーを受けている最中であった。大きな揺れが襲ったが、秘書官から「ここは日本で一番頑丈な場所ですから、ご安心ください」と言われた。この11日は毛布一枚で官邸に宿泊したという。
福島第一原発事故対応については、菅首相(当時)の対応を擁護した。菅首相が東京電力に出向き、「撤退はあり得ない」と死守を迫ったという話は、怒鳴りつけるだけのイラ菅というネガティブな文脈で報道された。
これに対して五十嵐氏は、事前に東京電力が福島第一原発からの撤退を打診しており、それに対する死守命令であったと説明する。その上で「もし東京電力の撤退を許していたら、東北は全滅していたと考える。もっと菅前首相は評価されてもいいのではないか」と述べた。
笹森清内閣特別顧問によると菅首相は3月16日に「東日本が潰れることも想定しないといけない」と語ったとされる。不謹慎と批判された上記発言を首相官邸は公式に認めていないが、五十嵐氏の「東北は全滅していた」との言葉から官邸が深刻な危機感を抱いていたことが裏付けられた。
五十嵐氏は東日本大震災復興構想会議の検討部会専門委員に任命され、復興構想に携わることになる。復興会議の違和感として、被災3県の知事の主張がばらばらであることを挙げた。達増拓也・岩手県知事は復興のための増税に反対し、村井嘉浩・宮城県知事は復興には増税が必要と主張した。一方で佐藤雄平・福島県知事は原発事故処理の優先を訴えた。
菅首相が退任に追い込まれた要因としては、浜岡原発の停止などの脱原発的な政策に対する政権内の亀裂と分析した。これに関連して五十嵐氏は脱原発デモに万単位の参加者が集まる動きを評価しつつも、「脱原発デモが首相官邸に来たら政治が動いたのではないか」と指摘した。
退任を決意した菅首相は原発事故対応で2つの重要な意思決定を明らかにした。第一に原発周辺地域は長期間に渡って居住が困難になると判断し、立ち入り禁止措置を継続することである。第二に放射性廃棄物の中間処理施設を福島県内に建設することである。
これらは福島の県民感情からすれば受け入れがたい内容であり、実際に猛反発を受けた。それでも五十嵐氏は誰から伝えなければならなかった内容であったと述べる。菅首相としては野田佳彦新首相にパスすることもできたとして、菅首相を評価した。
講演の本題に入ると、五十嵐氏は建築規制の限界を指摘した。美しい都市を創るために建築規制があるが、「日本の建築不動産業者には貧困な業者が多く、脱法ばかりを考える」ため、「美しい都市の創り方を考えなければならない」と主張した。
さらに「これまで日本は美しい都市を壊してきた」と述べて、「被災地に半端なものができる危険がある」と懸念を表明した。また、「議会は仮設住宅や道路建設ばかりで、美しい都市という発想がない」と批判した。
最後に五十嵐氏は東北人の忍耐強さを称賛する一方で、「忍従するだけで声を上げない」とマイナス面も指摘した。そのために虐げられた人々が「黙って消えていくだけに終わってしまう可能性がある」という。「東日本大震災は日本全体を覆う開発優先の街づくりを転換させる可能性があるが、ここで変わらなければ中々変わらない」と希望と悲観で締めくくった。

東日本大震災の被害報告

仙台ネットの黒澤美智子氏は仙台市の被災状況を報告した。黒澤氏の報告対象は津波が襲わなかった内陸部であり、沿岸部の被害とは比べ物にならないが、首都圏にも通じる災害対策の問題点が浮き彫りになった。
黒澤氏は「震災直後の避難所には大勢の人が押しかけ、避難所がパンクした」と述べる。帰宅困難者は東京でも問題になったが、「仙台では停電で信号も街灯もビルの明かりもなく、夜間は真っ暗で東京以上に帰宅が危険であった」とする。また、「停電で機械式駐車場が止まり、車を出せなくなった人もいた」という。
駅が閉鎖されたために旅行者が近隣の避難所に避難したが、長期避難者の多くはマンション住民であった。マンション住民が非難する理由は「余震が怖い。エレベーターが止まっている。家具が散乱している。マンションそのものが地震の被害で危険」である。この状況に対して黒澤氏は「これほどマンションを建てるべきではなかった」と主張する。
仙台市は避難所に対して十分な職員を派遣できなかった。この点について仙台市は行政改革で職員が減り、いざという時の人員が足りなかったと説明する。代わりに地域住民が避難所を支えた。黒澤氏は以下のように訴える。
「マンション紛争では行政は不動産業者寄りで市民を排除し続けた。しかし、行政が機能不全に陥った時に避難所を支えたのも住民運動の仲間達である。行政は『自分達が機能できなくなった時に代わって動くのは市民』ということを認識して、真摯に市民と向き合ってほしい。」
最後に黒澤氏は義援金の支払いに対する仙台市の不合理を指摘した。「仙台市はマンション住民を被害の大きい階を基準に一括で判断する。『うちは何ともないが、全壊扱い』とされ、200万円の義援金を支払われるマンション住民も見聞きする」とした。
マンション住民が避難所に押しかえる問題は東京も対岸の火事ではない。集会後の懇親会では文京区の問題が指摘された。建物の被害は軽微であった都内でも、エレベーターが停止しているために避難所に避難したマンション住民がいた。文京区では町会が中心になって避難所の運営を運営するが、マンション住民には町会非加入者が多い。町会非加入のマンション住民のために町会が負担するという非合理が発生し、町会側から反発の声が上がっている。
千葉ネットの栗山正隆氏は浦安市を中心に千葉県の液状化被害を報告した。「安易な埋め立て造成を許可した国家」や「十分な説明をせずに販売した不動産業者」の存在を指摘し、液状化問題を人災と結論付ける。
住民の意識について「住民は不安を抱えているが、行動になっていない」とする。「市が液状化危険マップを発表し、自分の所有地が液状化危険地域として掲載されると、資産価値が下がると抗議する住民がいる。それが日本の住民のレベルである」とも述べた。そのために「景住ネットの運動が重要」と主張した。
楡井久・茨木大学教授は特別講演「震災の警告はなぜ市民に届かなかったのか」で液状化被害は予期されたものと主張した。楡井氏は「ヘチマドレーン工法」という安価な液状化対策工法の考案者である。液状化被害によって湾岸埋め立て地は危険というナイーブな思想が広まっているが、実際は土地造成の問題である。
楡井氏は「埋め立て地に山を作るべきであった」と主張した。「人口山でも透水層や難透水層を作れば地下流動系が再現されて環境創造になる」とする。山を作らすに全てを平坦な土地にしたところに街づくりの利益至上主義が表れているとする。
楡井氏は安易な絆重視の復興には批判的である。業界と官僚の癒着は大きい。絆と言いながら、縦割り社会が強化されている。環境規制も汚染処理の独占受注など金儲けに使われている。これを官邸は分かっていないとする。
一方、マスメディアで酷評された菅内閣には一定の評価を下した。菅内閣がバッシングされる理由は利権がムラ社会に回ってこないためである。
討論会は「住み続けられるまち・住居・暮らし方」と題し、日置氏がコーディネーターで、五十嵐氏、楡井氏、吉永明弘・千葉大学非常勤講師、齋藤伊久太郎・千葉大学地域観光創造センター特任研究員、建築家の木彬夫氏がパネラーとなった。
吉永氏は世代間倫理の重要性を指摘した。都市計画や原発で「意志決定をする人と被害を受ける人がずれている」と述べる。
木氏は「地域の復興には歴史と文化が重要で、顔の見える関係が大切」と述べる。「大きい町では、どこでなにが起きているか分からない。大きい街は不要。千人単位でいい」と語った。(林田力)

首都圏交流サロンで各地の建築紛争を報告

景観と住環境を考える全国ネットワークが2011年8月8日に「マンション紛争・都市問題首都圏交流サロン」を東京都千代田区の富士見区民館で開催した。マンション建設反対運動など各地の建築紛争の当事者から報告がなされた。主な報告を紹介する。
千代田区神田猿楽町の住民からは37坪の敷地に12階建ての投資用ワンルームマンションの建設を報告した。住民側は景観破壊や日照被害を主張したが、不動産業者は経済性や採算性を理由に拒否した。工事被害の問題も未解決という。
さいたま市浦和区の住民はマンション建設による風害について報告した。「現行の風環境評価基準は成人を対象としたものであり、高齢者や子どもら風環境弱者配慮した基準に変更すべき」と訴えた。
浅草の住民は高さ約130メートルの超高層マンション「浅草タワー」の総合設計許可の取り消しを求めて東京都を訴えた訴訟を報告した。2010年10月15日に東京地裁で請求棄却され、東京高裁で控訴審が係属中である。
地裁判決でも浅草寺の景観は価値があるとしたが、浅草寺の原告適格を否定した。台東区都市計画マスタープランは建設地を「中・低層」と定めているが、地裁判決は超高層マンションをマスタープランに逸脱しないと判示した。「判決の問題点を訴えていきたい」と述べた。
川崎市中原区の住民は「プラウド元住吉III」の建築紛争を報告した。川崎市では10月1日から改正条例が施行され、マンション建設業者の提供公園の整備が厳格化される。「プラウド元住吉III」は施行の直前の駆け込み計画と批判する。敷地いっぱいに建物を配置した利益優先の計画を見直し、敷地外縁の歩道の整備と周辺建物への日照やプライバシーの配慮を訴える。
川崎市多摩区の住民は「プレシス読売ランド」の建築紛争を報告した。マンションの高さを10メートル以下(9.99メートル)にして、日影規制を逃れ、近隣の住宅の日照をゼロにする計画である。市議会にも請願を提出し、議員からは「これが人の住む環境と言えるのか」「憲法違反の建物」との発言が相次いだという。
世田谷区の住民は二子玉川ライズ(二子玉川東地区再開発)の問題を報告した。大型開発の見直しを掲げる保坂展人区長の就任による変化を述べた上で「二子玉川ライズは世田谷区財政の金食い虫になっており、税金の使い方・実態を明らかにする」と主張した。
意見交換では「人口が減少しているのにマンションが建設される矛盾」への問題意識が集中した。「開発は移動産業に過ぎない。どこかが開発で発展すれば別の場所が衰退するゼロサム・ゲームである。社会全体の発展にはならない」との発想が参加者の共感を得ていた。(林田力)

景観市民ネット市民集会で住民運動が交流

2009年景観市民ネット市民集会が2009年12月12日に調布市市民プラザあくろすで開催された。景観市民ネット(石原一子・代表)は国立マンション訴訟に携わったメンバーが中心となって設立した市民団体である。マンション開発などによる景観破壊問題への対応を通して、市民参加のまちづくりへの寄与を目指す。集会では各地の市民運動の報告がなされた後、建築紛争に共通する制度的な問題が議論された。
最初に石原代表が挨拶した。これまでは日本はダメだという気持ちになるような話ばかりであったが、今年は鞆の浦の勝訴判決のように明るい報告が多い。決して諦めることなく、皆が思いを強くしなければならない。私たちの運動は脇役ではない。日本の国をどうするか、環境をどうするかと考えることが社会の主流となるようにしたいと述べた。
次に末吉氏から2009年の活動報告がなされた。景気悪化によるデベロッパーの倒産や計画断念があり、マンション建設の動きは停滞気味であった。一方で道路問題や再開発問題、基地跡地問題など公共事業に関わる紛争が目立ち始めた。また、紛争解決のために住民側が代替案を提示するケースが増えているとした。
続いて第1部「各地からの活動報告」として、全国8カ所から報告がなされた。
第1に松戸市関さんの森道路問題である。「関さんの森」は、関家に伝わる広大な屋敷林であるが、敷地に都市計画道路3・3・7号線を通す計画がある。敷地を分断する直線道路の計画であったが、自然や歴史的建造物の破壊を最小限とするために「関さんの森」敷地内で迂回ルートをとることで決着した。
第2に広島県福山市の鞆の浦景観訴訟である。鞆の浦は江戸時代からの本瓦屋根の町並みが残る港町である。江戸時代は朝鮮通信使の寄港地となり、使節の李邦彦が「日東第一形勝」(日本で1番美しい景色)と賞賛した地である。近時は映画『崖の上のポニョ』のモデルとしても有名になった。
この鞆の浦の埋め立て架橋事業の差し止めを求めた訴訟は広島地裁で住民側が勝訴した。景観利益を正面から認めた判決である。景観と住民の生活が対立軸として捉えられがちであるが、景観と生活が一体であるとの主張が認められた。
第3に調布市国分寺崖線都市計画道路問題である。これは国分寺崖線の緑地帯を切り裂く道路計画(調布3・4・10号線)に対する住民運動である。崖線の森が地域にもたらすメリットを具体的に列挙し、森を守ることは暮らしを守ることと主張した。パワーポイントで説明したが、道路を表示する際に車の騒音を効果音として使うなどプレゼンテーションにも工夫を凝らしていた。
第4に文京区湯立坂マンション問題である。これは野村不動産のマンション建設に対する住民運動で、重要文化財の銅(あかがね)御殿(旧磯野邸)を毀損・破壊する危険があるとする。具体的には建設工事中の振動による毀損(既に壁の破損が起きている)やビル風による土庇の損壊の危険などである。文化財保護のスタンスで関係各所に働きかけているとする。
第5に昭島市の立川基地跡地のまちづくり活動である。立川基地跡地に国際法務総合センターと称して医療刑務所や少年鑑別所を集約する計画がある。この計画について住民無視で進められ、建築・維持コストも莫大になると批判し、代案としてエコ住宅実験村などを擁するエコタウン構想を紹介した。
第6に世田谷区の二子玉川再開発問題である。これは東急電鉄や東急不動産が主要地権者になっている再開発事業に対する住民運動である。建設中の高層マンション「二子玉川ライズ タワー&レジデンス」による圧迫感を多数の写真で実証した。今まで高層建築がなかった場所であり、病気になりそうという住民の声も紹介した。また、工事中の再開発地域の人工地盤の写真も提示した。そこには周囲の民家よりも高いピラミッドのような土の山ができていた。理不尽なまち壊しが行われているとまとめた。
第7に世田谷区の芦花公園ゲーテッドマンション問題である。これはセコムホームライフのグローリオ蘆花公園に対する住民運動である。グローリオ蘆花公園は10棟363戸の巨大マンションで、敷地全体をフェンスセンサーで囲むゲーテッドマンションである。洪水時は敷地外に排水される仕組みになっており、自らの安全のために周辺地域を犠牲にする発想を批判した。
第8に渋谷区鴬谷マンション問題である。これは住友不動産のマンション建設に対する住民運動である。開発許可取消訴訟の審理打ち切りが不公正な訴訟指揮であるとして忌避申し立てしたが(参照「開発許可取消訴訟の審理打ち切りに抗議声明」)、却下されたために抗告した。開発許可の問題点について主張し続けるとした。
第2部「これからの景観市民運動を考えよう!」では大西副代表が建築紛争で住民運動が直面する問題を提起した。開発許可や総合設計、原告適格などが問題である。印象的なものは開発許可で、都市計画法の開発許可が法の趣旨に従って運用されていないと指摘した。
一例として東急不動産らの茨城県の高層マンション・ブランズシティ守谷を挙げる。既に保育所が不足気味の守谷に大規模マンションを建てれば一層不足することは明らかである。そのような問題は開発許可に際して考慮される。ところが現実には運用で開発許可不要とされ、都市計画法の許可を免れている実態がある(「ブランズシティ守谷の建築確認に審査請求」)。
集会を通じて、地域や事業者が異なっても建設紛争には共通点があることを改めて実感できた。
第1に業者による住民対策である。湯立坂マンション問題では近隣対策会社を追い払うことに多大なエネルギーを費やしたとする。また、グローリオ蘆花公園の問題では業者が早い段階から住民の間に入り込んでおり、住民が分断されたという。
第2に周辺地域を犠牲にする開発のあり方である。グローリオ蘆花公園の問題では水害を敷地外に転嫁すると批判していたが、二子玉川東地区再開発でも同じ批判がされている(「二子玉川再開発差止訴訟・住民側はあらためて「洪水被害」を主張」)。
但し、グローリオ蘆花公園は敷地面積約1.6ヘクタールに対して5300トン(1ヘクタールあたり約3300トン)の貯留施設を設置する。これに対し、二子玉川再開発第1期工事では約4.5ヘクタールの敷地に2900トン(1ヘクタール当たり約640トン)しかない(世田谷区議会定例会2008年6月13日における村田義則議員の一般質問)。紛争物件同士を比較することで二子玉川東地区再開発の異常性が浮き彫りになった。
紛争に直面する各地の住民運動が情報を共有することで、共通する問題点や異常性を認識することができる。それが住民運動の力になると考える。(林田力)

景観市民ネット2007年市民集会

景観市民ネット(石原一子・代表)の「2007年市民集会」が2007年12月15日、渋谷区初台区民会で開催された。各地の運動の報告がなされた後、景観と住環境を守る方策として都市計画法上の開発許可の違法性を主張することが提言された。
景観市民ネットは正式名称「手をつなごう!国立発・景観市民運動全国ネット」からうかがえる通り、国立マンション訴訟に携わったメンバーが中心となって設立した市民団体で、景観や環境についての市民運動にかかわる有志が手をつなぎ、景観や環境破壊に真正面から立ち向かえる大きな力としていくことを目的とする。2005年に設立され、今回が3回目の集会である。
市民集会は主催者挨拶で始まり、続いて景観市民ネットの活動報告と各地の活動報告を行い、最後は戸谷英世氏が開発許可について講演した。
石原代表の主催者挨拶では、今年の印象として京都市がようやく建築物の高さや屋外広告物を規制する新景観政策を始めたことが挙げられた。京都は太平洋戦争当時の交戦国アメリカでさえ、文化遺産の消失を惜しみ空爆を避けた。しかし日本人自らが戦後、どこにでもあるような街に変えてしまった。遅きに失した感があるが、これからは企業の論理ではなく住民の目線に変わっていかなければならないと訴えた。
続いて事務局の末吉正三氏から2007年の景観市民ネット活動報告がなされた。活動内容の中で注目すべき動きとして政策提言が目立っていることを挙げる。地方自治体で景観法を活用した動きがあることも背景とする。今後はウェブサイトでタイムリーな情報発信を行いたいと述べた。
次に各地の活動報告として全国7箇所から報告がなされた。
トップバッターは茨城県守谷市ひがし野地区で、山上氏が東急不動産らを建築主とする高層マンション「ブランズシティ守谷」の建築紛争を報告した。ブランズシティ守谷(30階建て)は低層一戸建てを中心とする、ひがし野の町並みを損なうと主張する。
住民の声に耳を傾けるどころか、十分な説明を行わずに工事を強行する東急不動産の非常識さを訴えた。東急不動産は工事協定を締結しようとせず、土日祝祭日も含め、午前7時半から午後7時まで工事を続けている。土日は休む住民が多いが、工事の騒音や振動で休むこともままならない。これには会場から驚きと同情の声が上がった。
2番手は大田区北千束の小田氏がマンション建設反対運動の課題を報告された。若年・中年男性の無関心が反対運動の障害の一つとした。この点では前述の守谷市の運動は若年層のメンバーが比較的多いと司会者の井上赫郎・事務局長に紹介されており、発展が期待できる。
3番手は目黒区青葉台の生越氏が目黒区の高さ制限と地域街づくり条例を活用した動きを報告した。マンション建設反対運動は反対の契機となったマンション建設だけで終わってしまう傾向にあるとした。しかし、それは非生産的であり、活動した人は別の地域の反対運動にノウハウを伝えていかなければならないと主張した。
4番手は板橋区常盤台の島田氏が、ときわ台景観ガイドラインについて報告した。これは東京都の「東京のしゃれた街並みづくり推進条例」に基づくガイドラインで、成立までの経緯を説明した。
5番手は松戸市幸谷の関氏が、「関さんの森」の保全活動について報告した。「関さんの森」は関家に伝わる2ヘクタールもの屋敷林である。「関さんの森」は地域住民に開放されてきたが、都市計画道路3・3・7号線が開通されると敷地が分断されてしまう。生態系にも悪影響が懸念されるとした。そのため、森を分断せず、敷地の外側を道路とする代替案を松戸市に提案し、交渉中とのことである。
6番手は広島県福山市鞆の浦で、中島氏が世界遺産登録と道路建設から守る活動について報告した。鞆の浦は江戸時代からの本瓦屋根の町並みが残る港町である。江戸時代は朝鮮通信使の寄港地となり、使節の李邦彦が「日東第一形勝」(日本で一番美しい景色)と賞賛した地である。しかし鞆の浦を東西に結ぶ県道のバイパスとして、港の一部を埋め立て、橋を架ける埋め立て架橋事業が計画されている。これが実現した場合、鞆の浦の景観は価値を失うと主張した。
7番手は港区六本木の佐藤氏が再開発等促進区域変更問題の紛争を報告した。建築紛争は他の地区の住民は被害が及ばないため無関心となる傾向がある。しかし誰でも突然、巻き込まれる可能性があり、市民運動による啓蒙と横の連携が大切と主張した。
最後に戸谷英世・特定非営利活動法人住宅生産性研究会理事長が「開発許可を問う」と題して講演を行った。戸谷氏は、マンション建設は建築基準法以前の土地利用の問題であると主張する。土地は私的に所有されるが、都市空間は社会的に利用されるものである。都市空間をどう作るか、という問題は都市計画法で規定する。具体的には一定規模の開発では行政から開発許可を得なければならない。
しかし開発許可の審査はフリーパスが現状であり、開発許可を取得しないで開発する例さえある。開発許可について、ほとんどの行政は違反をしているとまで言い切った。これが通ってきたのはマンション建設反対運動側も開発許可まで頭が回らなかったためである。
それは弁護士に騙されている面もある。建築紛争に詳しい弁護士でも都市計画法を知っているとは限らない。弁護士に任せてしまい、弁護士が知っている建築基準法のみを争点とした結果、敗訴してしまうことになる。国立マンション訴訟も開発許可で争えば反対運動側が勝利できたのではないかと主張した。
この後に質疑応答・意見交換を予定していたが、時間切れでお開きとなった。議論されなかったのは残念であるが、今後、各地の反対運動では都市計画法の開発許可についても積極的に争点化すると考えられる。既に前述のブランズシティ守谷の建築確認に対しては、開発許可を得ずに建築確認がなされたとして建築確認の取消しを求めて審査請求がなされている。
従来は市民側が法律を知らないために主張できることも主張せず、損をしていたということが多々あったのではないかと考えられる。市民が法律を武器とできるよう、法律を知らないことによって業者に好き勝手させないようにするために景観市民ネットのような市民運動が果たす役割は大きいと考える。(林田力)

環境行政訴訟の東京6原告団体が集結

東京で環境行政訴訟を行う6団体が集結し、東京環境行政訴訟原告団協議会を結成した。結成したのは以下の団体である。
・小田急高架と街づくりを見直す会
・まもれシモキタ!行政訴訟の会
・梅ヶ丘駅前けやきを守る会
・日赤・高層マンションから環境を守る会
・羽沢ガーデンの保全を願う会
・浜田山・三井グランド環境裁判原告団
協議会結成の背景には行政訴訟への期待と失望がある。違法な行政処分に対しては行政訴訟によって取消しを求めることができる。しかし、日本では原告適格で厳しく排除されたことなどが理由で行政訴訟により救済される例は少なかった。即ち行政事件訴訟法は行政訴訟を提起できるのは処分の取消しを求めることに「法律上の利益を有する者」に限定する。この「法律上の利益」が狭く解釈されていたことが問題であった。
即ち開発や公共事業で健康や生活面で被る周辺住民の不利益を反射的ないしは事実上のもので、法律上の利益には該当しないと解釈する傾向が強かった。このため、環境行政訴訟を起こしても、行政処分が違法であるか否か調べることもせずに却下されてしまう(門前払い)。
これに対し、2005年4月に行政事件訴訟法が改正され、法律上の利益について「当該処分又は裁決の根拠となる法令の規定の文言のみによることなく、当該法令の趣旨及び目的並びに当該処分において考慮されるべき利益の内容及び性質を考慮するものとする」とされた(第9条第2項)。
そして、同年12月7日に最高裁大法廷は小田急高架化訴訟において「騒音や振動で、健康や生活環境に著しい被害を直接受けるおそれがある者は原告適格がある」として原告適格を広く認める画期的な判決を出した。これは東京都世田谷区の小田急線高架化事業に反対する沿線住民が、都の都市計画事業を国が認可したのは違法として処分取り消しを求めた訴訟の判決である。
小田急事件最高裁大法廷判決は行政訴訟による救済を求める人々によって歓迎された。しかし、原告団協議会結成の契機となった浜田山・三井グランド環境裁判において失望を味わうことになる。三井グランド環境裁判は小田急事件最高裁判決後の環境裁判であり、小田急判決に則って判断されることが期待された。ところが、三井グランド環境裁判の関連事件として申し立てられた工事車両通行認定処分執行停止事件で裏切られることになった。
この事件は建設工事用の大型車両の通行により、原告住民らの生命、身体に危険が切迫しているため、通行認定処分の執行停止を申し立てたものである。この事件は関連事件として本体の裁判と同じ裁判官が担当したが、「周辺住民には処分を争う法律上の利益はなく、反射的利益があるに過ぎない」として申し立てを却下するものであった。小田急最高裁判決以前の論理に逆戻りしたことになる。しかも申し立て却下の決定申し立てから4ヵ月も経過した後の本体の訴訟の判決言い渡しの直前になされたものであった。これを原告側は「騙まし討ち」と受け止め、2007年9月29日に裁判官忌避の申し立てをした。
この三井グランド環境裁判の経緯は他の環境訴訟を行っている原告団体にも危機感を抱かせた。小田急訴訟最高裁判決で救済の道が開けたと期待したのに、実際は旧来の論理で門前払いされかねないためである。団結して対応していこうということで原告団協議会結成となった。
協議会発足記念集会は2007年11月29日に弁護士会館2階 講堂で開催された。集会では最初に結成経過報告がなされ、続いて斎藤驍・弁護団長の基調報告がなされた。来賓挨拶では、福川裕一・千葉大学教授、石川幹子・慶応義塾大学教授、交告尚史・東京大学教授、稲垣道子氏が話した。
福川教授は、日本の都市計画ではル・コルビジェ流の「Towers in Space」という思想が未だに大手を振っているのが問題と指摘した。建物を高層化することでオープンスペースを増やすことで、都市の過密を下げる思想である。しかし、これは地域の社会関係を決定的に崩してしまうと批判され、欧米では公的な高層住宅を低層住宅へ立て替える事業さえ行われている。日本では未だに「Towers in Space」の思想でいることが問題と主張した。
石川教授からは「サラリーマン化してしまっていることが問題」と指摘された。サラリーマンでは目先の利益を追うことしかできず、環境への考慮という発想が出てこないとする。これは記者も東急リバブル東急不動産の不動産トラブルで強く感じていたことである。
交告教授は風邪で欠席した阿部泰隆・中央大学教授の代理で挨拶し、趣味の昆虫の話で会場を和ませた。
稲垣道子氏からは「手続きがおかしい。説明がおかしい。聞いても答えてくれない。人間性が踏みにじられている」と指摘された。これも記者が東急リバブル東急不動産の不動産トラブルで強く感じていたことであり、東急不動産と裁判を続けた原動力は東急不動産の不誠実な対応への怒りであった(林田力『東急不動産だまし売り裁判 こうして勝った』ロゴス社、2009年)。
最後に「官民一体となった違法行為を糾すため、共に手を携え、司法の扉をしっかりと開き、歩んでいきたい」とのアピール宣言を読み上げて発足記念集会は終了した。
協議会の発展を期待して三点ほど指摘したい。
第一に前述の通り、行政訴訟の原告適格を巡る専門的な論点が協議会結成の背景となっている。発足会でも専門家との協同を訴えており、専門家の助力が必要である。一方、専門的な論点であるが故に一般人には分かりにくい面がある。内輪の集まりならば分かりきっているかもしれないし、配布資料を読み通せば理解できるが、支持を広げるためには分かりやすい論点説明があった方が良いように感じる。
第二に原告団が裁判期日を「公判」と発言していたのは残念であった。公判は刑事訴訟の用語で、民事訴訟では口頭弁論である。行政訴訟も民事訴訟の一類型であり、口頭弁論が正しい。現実には刑事訴訟と民事訴訟の用語が混同されることはある。例えば東急不動産消費者契約法違反訴訟において東急不動産は民事訴訟であるのに控訴理由書ではなく、控訴趣意書を提出した。行政相手の訴訟ということで、「お上」意識が抜けられずに刑事訴訟の用語を用いたならば発想を転換する必要がある。
第三に「東京」環境行政訴訟原告団協議会と名乗っているが、構成団体の所在地は渋谷区・杉並区・世田谷区に限定されている。これら城西3区でしか紛争が起きていないのか、協議会結成の原動力となった人脈が3区の地縁に限定されていたのかの何れかであるが、恐らく後者であると推測する。協議会発足を機に東京全体、さらには全国へと広がっていくことを期待する。(林田力)

マンション建設反対運動連携の第一歩

建築紛争当事者の交流会・戦略会議

「市民による都市改革〜2007年的状況から2008年への展望」が2007年11月24日、東京都千代田区の神保町区民館で開催された。耐震強度偽装問題やマンション建設紛争について興味深い議論がなされた。
これは市民や地方議員、都市計画や法律の専門家から構成される「耐震偽装から日本を立て直す会」が主催した交流会・戦略会議である。事務局によると電子メールでの案内しかできなかったとのことだが、遠く福岡から来た方も含め、大勢のマンション建築紛争に取り組む市民、地方議員、建築家らが集まった。
本交流会は各地で個別に行われているマンション建設反対運動を連帯させ、抜本的な都市改につながる運動に発展させるためのシナリオを描くことを趣旨とする。マンション建築紛争が各地に広がる中で、個別に反対運動を行っているだけでは限界があるという問題意識が出発点である。
ある日突然、地域の景観を破壊するマンション建設計画が持ち上がり、マンション建設反対運動が組織されるが、誰もが初めての経験であり、いわば素人集団である。対して業者は経験面でも物的人的リソースも豊富である。加えて近隣対策屋と呼ばれる住民折衝を専門に請け負う業者まで登場している。そして何らかの妥協がなされるか、マンションが建設されてしまうと多くの場合、反対運動は解消してしまう。その結果、反対運動で得たノウハウは他の反対運動で活かされない。このような状況に対する危機感が背景にある。
話し合われたテーマは大きく二つある。「構造偽装問題」と「中高層マンション問題」である。
第1部の構造偽装問題では、上村千鶴子氏と日置雅晴弁護士が報告した。最初に上村氏は構造偽装問題の現在の状況について報告した。姉歯秀次元建築士による構造計算書偽装物件のうち、水平保有耐力0.5以上の分譲マンションでは2007年10月30日現在、改修工事がなされているものは1件(グランドステージ東陽町)しかないと説明した。それ以外は計画策定中となっているが、取り残されてしまっている状態である。
また近時の建築着工減少については、住宅の契約率も下落し在庫が残っている状況から生産調整時期にあるとし、建築業界から悪玉視されているような建築基準法改正の悪影響によるとは限らないのではないかと指摘した。
会場からは福岡でサムシングの偽装問題にとりくむ幸田雅弘弁護士が「地方の非姉歯物件はもっと酷い状況」と指摘した。非姉歯物件は偽装の追及自体が停滞しているが、マンション名公表による資産価値低下を恐れる管理組合・購入者自身が調査に消極的であることも一因となっている。マンション住民自身が問題解決の足枷になっている状況である。これは次のテーマ「中高層マンション問題」で「景観を破壊する高層マンションでも購入者がいるから企業が建てるのではないか」という消費者に対する問題意識と共通する。
日置弁護士は建築基準法改正の評価と課題について報告した。確認検査機関が違法な建築確認を出したとしても処分の対象にならない点が問題として指摘された。
第2部の中高層マンション問題では幸田弁護士、稲垣道子氏、野口和雄氏、五十嵐敬喜・法政大教授が発表した。最初に福岡から来た幸田弁護士が福岡市の状況について報告した。福岡でマンション紛争と戦う10数団体が連携し、「福岡・住環境を守る会」を発足した。訴訟では従来の日照権やプライバシー権に加え、風害や圧迫感についても被侵害利益として主張していきたいと説明した。
稲垣氏は建築紛争を紹介し、建築紛争の構図について説明した。地域で守られるべき価値が共有されているか否かが建築紛争の帰趨に大きな影響を与えると主張した。
野口氏は各自治体の対応について類型別に整理された。様々な制度があるものの、努力義務にとどまる限り、不動産業者は無視して建設を進めてしまう現実がある。不動産業者が従うような実効性のある規制が課題である。現状で最も実効的なものとして真鶴町まちづくり条例(美の条例)を挙げた。ここでは基準に合致しない建物は公聴会、議会の議決を経て水道契約を拒否することで、事実上の着工拒否が可能になる。
五十嵐教授からは真鶴町まちづくり条例が優れているとの主張がなされた。水道供給の制限は思い切った規制であるが、議会の議決等の適正手続きを踏んでいる。真鶴町の条例は1993年に可決されたが、今でもこれが一番良いということは日本の都市政策の停滞を物語っているとの辛辣な指摘もなされた。
最後に「2008年への展望」と題して今後のシナリオが検討されたが、残念ながら時間切れで議論が尽くされなかった。住環境を破壊するマンション建設を止めさせられる実効性ある法規制が必要という点で共通の認識が得られたと思われるが、それを実現するための具体的な方策については今後の課題となった。特に市民に何ができるか、何をすべきであるかという点は未解決である。
また、第一部で構造偽装問題を取り上げ、偽装物件購入者が置き去りにされていると指摘されたにもかかわらず、偽装物件購入者にとっての解決策が出なかった点も残念である。そもそも偽装物件購入者の視点に立っていないのかもしれないが、偽装物件の購入者をはじめとする欠陥住宅の被害者とも連携すれば、不動産業者の手口を知るという意味でノウハウの蓄積にもつながると思われる。
課題は残ったものの建築反対運動を一過性のもので終わらせてはならないという熱意が感じられる交流会であった。日本のまちづくりに期待が持てるようになった一日であった。
筆を置く前に記者が本交流会に参加した経緯を説明する。記者は消費者契約法により売買契約を取り消したマンションの売買返還を求めて東急不動産株式会社と長らく裁判を続けていた。裁判の争点の一つが、マンション建設時に東急不動産のために働いていた近隣対策屋と近隣住民との折衝内容であった。近隣住民と近隣対策屋のトラブルはマンション建設反対運動で問題となっており、記者は近隣対策屋について情報を得るためにマンション建設反対運動を行っている方々と情報交換を行っていた。そのような中で参加を勧誘され、出席した次第である。(林田力)