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林田力:破産団体

破産制度とは裁判所が中心となって、債務者の財産を債権者全員に公平に分配することにより、債権者の公平な満足を確保し、債務者の債務を整理し、更正と再出発の機会を与える制度である。破産の申立ては債権者が申立てることも債務者自ら申立てることもできる。後者は自己破産と呼ばれる。個人の破産の場合、 圧倒的多数が自己破産である。1998年の自己破産件数は 10万3千件を超えた。これは2年前の1996年と比べ約2倍の数値である。
自己破産の場合、支払不能であることが破産原因となる。支払不能とは、弁済できない状態が継続的であることである。この支払不能には一律の基準がある訳ではなく、債務者の財産・信用・技能・年齢・職業・給与等を総合的に判断し認定される。自己破産手続の流れは以下の通り。地方裁判所に破産申立てをする、審尋を受ける(1〜2ヶ月後)、破産宣告が決定(審尋の数日後)、同裁判所に免責申立てをする(宣告後、1ヶ月以内)、審尋を受ける(免責申立ての2〜3ヶ月後)、免責が決定(審尋の1〜2ヶ月後)。
破産宣告の時点で家や土地等の財産がある場合と、めぼしい財産のない場合で手続きがかわってくる。前者は、破産管財人が選出され(通常は弁護士)、財産は競売にかけられ、現金化される。そのお金は債権者に分配される。後者は破産申立ての時点で、同時廃止の上申書を添付し、破産宣告の決定と同時に破産手続を終了(廃止)する。前者がその手続を終了し、免責手続へ移行するには数年かかる場合がありますが、後者は即移ることとなる。
免責は個人破産者にとって重要である。法人の場合、破産により法人は解散する為、それ以降債務の責を負わないが個人の場合は、債務の責任を免れる=免責をいう手続きを踏まないと、借金の支払を免除されない。免責には「不許可事由」がある。これに該当する場合、免責は認められません。自分の財産を隠したり、財産価値を故意に減少させた場合、浪費やギャンブルによって財産を減らしたり、過大な借金をつくった場合、返済不可能な状態なのに、新たに借金した場合、裁判所に虚偽の申告を行った場合、過去に免責を受け、10年を経過していない場合等である。尤もこれらの項目に該当している場合でも、免責が認められている例は多々ある(最後の不許可事由を除く)。
費用は裁判所により異なるが、破産及び同時廃止の申立ての場合、約3万円ほどになる。弁護士に依頼した場合、着手金と、手続終了後、弁護士報酬がかかる。

自己破産による不利益

破産という言葉からイメージされているほど、私生活に支障をきたすものは少ない。まず財産の管理処分権を喪失する。破産宣告時に所有していた不動産等のめぼしい財産は破産管財人により処分されるが、生活に必要な家財道具は一般に処分されない。
次に職業の制限がある。弁護士・司法書士・宅地建物取引業者・生命保険募集員・警備員等の職業に就けず、また現にその職にある場合は続けることができない。また会社の取締役や監査役、後見人や代理人にはなれない。更に破産管財人に対する説明義務、居住の制限等がある。即ち勝手な転居は認められない。
医師や建築士、地方公務員、学校教員等は資格に影響ありませんし、選挙権も制限されない。戸籍や住民票もそのままである。破産宣告は官報に掲載されますが、一般の方がそれを目にすることはほとんどない。また上記の不利益は免責が確定すると復権し、全てなくなる。

破産団体

破産者は破産宣告と同時にその財産の管理処分権を奪われ、それは破産管財人に専属する(7)。破産管財人の管理処分権は自己の権利に基づくものではなく、何人かに帰属する権利を基礎として破産法がこの権利の管理処分権限を付与しているに過ぎない。破産者の財産は破産手続中に破産者から離脱し配当によって破産債権者に帰属する。従って破産手続中の権利の実態は破産者から債権者に移転する浮動的な所有権で、破産者と債権者により分有される。この浮動的持分の分属状態は狭義の共有のように分属可能ではなく、破産手続中破産目的のために一体として継続する。
この破産的清算目的のために破産者と破産債権者とが一つの団体を構成していると考えることができる。これを破産団体と称し、権利能力なき社団と位置づけられる。管理処分権はこの破産財団に帰属する。
しかし構成員個人の帰属意思なくして団体の成立を認めるのは個人主義の原則から望ましくなく、共同目的を志向する利害関係人というだけで同一の団体を構成するとみてよいか疑問である。旅客機にたまたま乗り合わせた乗客や乗務員は目的地への到着という共同目的を志向するかもしれないが団体ではない。しかも債権者間や債務者との間には抜き差しならぬ利害の対立があり、同じ団体に帰属しているとみるのは当事者の意識から乖離している。Otto Friedrich von Gierke (1841-1921)が「人類の歴史は団体結合の歴史である」「人と人たる所以は人と人との結合にあり」と言ったように個人主義の下でも団体的生活関係が消滅するわけではなく(森泉章・法人法入門(有斐閣1986)1)、構成員個々の帰属意思なくして団体を認める必要性も生じうるが、団体を持ち出さなくても説明できるならばそうするのが個人主義に合致しよう。破産手続においては破産者の財産という物に対する特殊な合有的結びつきは認められるとしてもそこから人的結合まで進めるのは飛躍ではないだろうか。
他方、破産者と破産債権者を破産的清算という共通の目的に統合する破産団体理論は倒産手続を共通に把握できるメリットがある。これは法定手続のみならず私的整理にも当てはまる。法定の破産手続は時間・費用がかかるため(更にほとんどが税金にもっていかれてしまうため)、倒産処理の多くが私的整理により行われるのが実情である。しかしそこでは整理屋の暗躍もあって不正が行われやすい。漫画「ナニワ金融道」にも私的整理において債務者と大口債権者が共謀して一般債権者の犠牲によって私利を図ろうとした話がある。
私的整理において裁判所は事後的に関与できるだけである。例えば特定の債権者による私的整理中の債務者に対する相殺が債権者間の衡平を害し権利濫用とされた例がある(東京地判H11.3.25判時1706-56大成ロテック事件、札幌地判H6.7.18判時1532-100)。構成員相互間の財産関係の公平・衡平な調整を目的とする破産団体という概念を精緻化することにより、私的整理においても公平なルールを定立することができるかもしれない。

破産団体の構造
破産団体は破産宣告によって成立し、破産手続中存続する。構成員相互間の財産関係の公平・衡平な調整を目的とし、破産者及び破産債権者によって構成される。破産団体の機関には破産管財人、破産裁判所、債権者集会、監査委員がある。管財人は破産手続の中心的処理である財産の管理、換価、配当を担当し、破産団体の代表機関である。破産者は破産者・債権者とは異なる法主体であり、破産宣告前に破産者と一定の法律関係を有していた者との関係でも新たに法律関係に立つ第三者になる。虚偽表示(民94(2))、詐欺(民96(3))、解除(民545(1))における善意・悪意は管財人について判断される(大判S8.12.19民集12-24-2882)。第三者たる破産団体と破産者から従前権利を取得した者との関係は物権変動における対抗要件の具備により決せられる。

破産財団
破産財団は破産債権者の共同の満足に充てるために独立の管理機構の下に管理せられる破産者の総財産である(鈴木宏・倒産法(評論社1989)70)。これには三種の異なった意義がある。

法定財団
法律の規定によって本来的に破産財団に属すべきものと定められている財産をいう。破産者が破産宣告の時に有する、差し押さえることの可能な全財産である(破6)。破産法7、53、54条の破産財団は法定財団を指す。

現有(現実、実在)財団
破産管財人が破産財団に所属する財産と認めて事実上専有し管理するものをいう。47条3・4号、69、87条の破産財団がこれである。宣告当初管財人により組成された破産財団を基本財団という。このようにしてできた現有財団が法定財団と一致しない場合、管財人は前者を後者に一致させる職務上の義務を負う。管財人や第三者による否認権、取戻権、別除権、相殺権の行使によって両者は一致していく。

配当財団
破産債権者への配当原資を指す。財団帰属の財産は最終的に換価され、財団債権(破47)が弁済されて、残された財産である。256、257条はこの意味である。配当財団は現有財団のうちに認められる現実的なもので観念的な法定財団と対置される。

破産財団の法律的性格
破産財団は破産債権に対する引当となる点で責任財産であり、破産者のその他の財産(自由財産)から分離せられて、専ら破産管財人によって管理される点で特別財産であり、破産債権者の共同の満足に供されるという目的のために独立の管理機構の下に置かれている点で目的財産である。

権利客体説
破産財団を法人とする規定は法文にないため、破産財団は権利の客体である。この場合の権利主体については破産者、破産債権者、破産管財人、破産団体とする見解が対立する。
しかし前者を採ると、破産者の扶助料は財団債権だから(破47(9))、破産者は財団債権者として財団に対する債権者になるとともに、破産財団の主体として財団債権に対する債務者となるという矛盾が生じる。破産者が不法行為によって財団に損害を与えた場合や、特定の財産が破産財団・自由財産の何れに帰属するかの破産者・管財人間の争いの場合も同一法主体が分裂してしまう。
破産財団を破産債権者の権利客体とする見解は財団を「破産質権」「破産差押権」たる債権者団体の有する共同担保権の対象とする。しかしこれは破産手続を通常の個別執行の延長線上に置くものでそれに対する批判があてはまる。
管理機構人格説は破産財団の権利主体を財産の管理機構としての破産管財人とし、これが有力説である(吉野正三郎・破産法30講(成文堂1991)124)。しかし破産管財人が権利主体となる実体法上の根拠が薄弱である。管財人は自分自身のために管理処分権を行使するわけではないだろう。
破産財団を破産管財人の受託財産とする見解もある(霜島甲一・倒産法体系(勁草書房1990)54)。債務者を信託者、債権者を受託者とし、破産法162条との調和等を根拠とする。
破産団体説は破産財団を破産団体に帰属する個々の財産の集合とする(宗田親彦・全訂破産法概説5版(法学書院1991)129)。

権利主体説
破産財団に法人格を認めて権利主体とする見解もある。破産財団は「黙示的・構成的法人」「見のがされた法人」「暗星的法人」等と呼ばれる。破産法が「破産財団ノ為」(72)、「破産財団ニ対シテハ」(8、9、70(1))等と定めているのは黙示的に財団を権利義務の帰属者と定めた趣旨とする。又、破産管財人の法律上の地位、否認権の主体、財団債権の性質等の問題も破産財団に法人格を認めることで合理的に説明できる。

法定財団の範囲
法定財団は破産宣告時に破産者に属する差押可能な日本国内にある財産により構成される。財産とは金銭的価値ある物又は権利である(e.g.動産、不動産、制限物権、債権、営業(商25)、知的財産権)。破産者の労働力・身体、人格権、身分法上の権利は含まれない。
一身専属権たる慰謝料請求権が破産財団に属するかが問題となる。これは差押可能性とオーバーラップする問題だが、財産性の問題とも位置づけられる(町村泰貴「破産財団の範囲」法セミ526(1998)59)。具体的な金額が当事者間において客観的に確定した時又は被害者が死亡した時に行使上の一身専属性を失い、請求権の行使の意思を明らかにした訴え提起行為だけではその管理処分権は破産者に専属する(名誉毀損につき、最判S58.10.6民集37-8-1041。生命侵害につき、名古屋高判H1.2.21判タ702-259)。

破産宣告時の財産
破産宣告の日時(141)において破産者に帰属するものに限られる。これを固定主義といい、膨張主義と対立する。固定主義は破産手続の迅速な終結、宣告後取得財産が宣告後の新債権者に対する弁済の引き当てとなり新債権者保護になる点、破産者の再起を促し勤労意欲を高める点、自己破産の申し立てを促すというメリットがある(加藤正治・破産法要論(有斐閣1934)50)。特に免責制度と相まって、破産債務者に宣告時の全財産を投げ出して新規まき直しを図れるという利点を与える(谷口安平「倒産処理法の道しるべ」法教2期5号(1974)259)。
しかし原因となった法律行為が宣告前にある停止条件若しくは始期付債権は、条件成就や期限が宣告後到来しても破産財団に属する。請求権の発生が将来の事実にかかっている場合も宣告前の法律関係を基礎とする場合は破産財団に属する(6(2))。将来の退職金債権の存在を明らかにしなかったため免責不許可とされた例がある(福岡高決S37.10.31金法324-6)。

差押可能な財産
債務者に対する最低生活の保障という社会的考慮から、債務者の財産のうち一定範囲のものについては差押の禁止又は制限が法定されている(民執131、国税徴収法75、労働基準法83(2))。仏像や礼拝のために必要な物、勲章、消防用器は宗教・名誉心の保護や特定の文化・政策的見地からそのような扱いとされる(谷口安平・現代倒産法入門2版(法律文化社1999)54)。
破産の場合も同様である。しかし債務者との間に譲渡禁止特約のある財産(e.g.裏書禁止手形)であっても、本来の性質上或いは法律上他人に帰属し得ないものでない限り、破産的清算の対象に組み入れられる。
法人破産については最低生活の保障を考慮する必要はないから、簡易生命保険法50条で差押禁止とする保険金還付請求権は破産法6条(3)の適用はなく、破産財団に帰属する(最判S60.11.15民集39-7-1487)。
強制執行では債務者たる農漁業者の経営上必要な物品は差押禁止物とされているが、破産的生産においては企業の解体は当然のことであり、又、破産財団の管理の一方法として破産者の営業の継続が認められているため(192(1))、農漁業者の破産の場合、その経営上必要な物品は財団から除外されない(6)。

特許を受ける権利
「発明又は著作に係る物でまだ公表していないもの」は差押禁止動産である(民執131条12号、国税徴収法75(12)11号)。これにより未公表の発明に係る物(e.g.機械)の差押はできないが、発明自体は動産ではないためこの規定の対象外である(中山信弘・工業所有権法上(弘文堂1993)161)。特許を受ける権利は物ではなく、これに対する強制執行はその他の財産に対する強制執行になるが、肯定説と否定説が対立する。
肯定説は民執法上特に禁止されていないし、譲渡可能な財産である以上強制執行できるのは当然とする(萼優美・改訂工業所有権法解説(ぎょうせい1982)166、光石士郎・特許法詳説新版(ぎょうせい1976)195、滝野文三・新工業所有権法講義改訂増補版(中大出版部1969)30)。
否定説は強制執行により発明が公開されてしまう点、公示方法の欠如、民執131条12号からの類推を根拠とする(豊崎光衛・工業所有権法新版増補(有斐閣1980)140、織田季明=石川義雄・増訂新特許法注解(日本発明新聞社1972)148、兼子一=染野義信・特許・商標新装版(青林書院1955)25)。
差押方法を処分禁止命令(民執167)によるとしても命令に反する出願を禁じえないし、譲渡されると善意の取得者に対抗できない。特許庁を第三債務者とする登録査定禁止命令(民執145(3))には司法権による行政権の制約という難点がある(紋谷暢男・特許法50講4版(有斐閣1997)37(川口博也))。
特許を受ける権利の入質の禁止(特33(2))も差押禁止の根拠として挙げられるが、入質の禁止自体が立法論的に批判されている。発明者への融資拡大のためには少なくとも出願後の特許を受ける権利については質権を認めるべきである(羽柴隆「特許を受ける権利の質入について」小野木=齋藤還暦 抵当権の実行下(有斐閣1972)386)。

日本国内にある財産
日本法では破産宣告の効果は国内にしか及ばないため、破産財団に属するのは日本国内にある物に限る(3)。逆に外国でなされた破産宣告の効力は自国内に存する財産には及ばない(3(2))。
政策論としては属地主義、国際(普及)主義、折衷主義が対立する。国際主義はglobalizationに適合するが、内国利害関係人に外国手続への参加を強制することになる(民事訴訟法研究会「『倒産法制に関する改正検討事項』についての意見4」法学研究72-1(1999)152)。折衷主義は破産宣告の効果を外国動産にも及ぼさせるが、不動産には及ばさない。

自由財産
法定財団に属さない破産者の財産をいう。破産者は破産手続中であっても自由財産を自由に管理処分でき、訴訟上もこれに関する当事者適格を有する。具体的には破産宣告後に破産者が取得した新得財産、差押禁止財産、外国にある財産、管財人が特に破産者のために開放した財産である。自然人の破産手続において自由財産の中心となる新得財産の典型は、破産宣告後に破産者が労働によって得る給与である(佐藤鉄男・ゼミナール破産法(法学書院1998)38)。
自由財産は破産者の生活を保障して破産者に経済的更生の機会を与え、破産宣告後の新債権者に対する引き当てとなる。そこから個別執行の基準たる差押可能性を破産財団の範囲基準に転用するのは硬直的で、自由財産を破産者の経済的更生に必要な財産という点から再定義すべきとの批判がある(宮川知法・消費者更生の法理論(信山社1997)252)。固定主義が採用されるため自由財産について第2破産が起こりうるが、これは第1破産と別個の手続である。
破産者は自由財産により破産債権に対して任意弁済できるが、破産債権者は専ら破産財団にのみ権利行使できるにすぎず(16、228)、自由財産に強制執行できない。ただ破産債権確定手続で破産者が異議を述べなければ、免責(366-2)の場合を除き、破産手続終結後に債権表により強制執行できる。又、破産宣告後に破産債権者が破産者に債務を負担するとこの債権は自由財産に属する。従って破産者は相殺をなしうるが、破産債権者の相殺は債権取立て強制となるので禁止される(破16。櫻井孝一・演習ノート破産法改訂版(法学書院1996)43(河野正憲))。
商事留置権は破産財団に対しては特別先取特権に転化するが(93)、その後で当該留置権の目的物件が破産財団から放棄され自由財産となったとしても、商事留置権が回復することはない(東京高決H10.11.27判時1666-141)。さもなければ破産手続及びその権利関係を不安定にするばかりか破産手続の遂行にも支障を生じる結果となるためである。少なくとも一旦先取特権であることを前提とした行為が行われた場合に、それを後で覆すことは法定安定性をあまりに阻害する(山本和彦「判批」判評496(2000)32)。