放射脳カルト批判

林田力

放射脳カルト批判の是非を議論する上で押さえておくべき事実は、放射脳カルトと批判されるものに対する世間一般の反発である。脱原発に批判的な人々の話を聞いても、「電気が足りない」「電気料金が高くなる」などは、それほど重要でないことも多い。根源的には放射脳カルトへの反感がある。脱原発運動と放射脳カルトが同視されている。脱原発運動と放射脳カルトを同視することは誤りであるが、そのように映る側面は皆無ではない。放射脳カルトと同視されないようにすることが脱原発運動の支持を広げる上で必要である。

放射脳カルトへの市民社会への反感は仲間内だけの閉じた運動では認識しにくいものである。NHK広報局の公式Twitterアカウントは「ヘイトスピーチをまき散らすだけで、まるで何か世の中の役に立つことをやっている気になっているようなネット弁慶さんたちには、1度でいいから東北へ行ってボランティアでもしてきなよ、と言いたい。かなり本気で言いたい」と呟いた。放射脳カルトの市民社会からの遊離を突いている。脱原発運動が放射脳カルトに同調するならば、脱原発運動が市民社会から遊離していることになる。

私にとって放射脳カルト批判は本質的なものである。東急不動産消費者契約法違反訴訟原告として悪徳業者を戦った立場として、放射能危険デマによる悪徳商法・詐欺・貧困ビジネスが許せない。また、同じく東急不動産消費者契約法違反訴訟を契機として開発問題に取り組む立場として住み続けたいという住民の思いに寄り添いたいと考えている。それ故に「福島の農家は人殺し」などの暴言を吐き、復興を妨害する放射脳カルトは到底許容できない。

放射脳カルト批判をする上で「放射脳」という表現を使うべきか否か。言葉は個人の所有物ではなく、社会的なものである。既に放射脳という言葉が存在しており、その言葉を使うことが批判者の問題意識を受け止めることになる。放射脳という表現に悪意が込められていることは事実であり、そのような表現を用いるべきではないという考えは一つの見識である。

しかし、福島や東北・東日本へのヘイトスピーチをまき散らす放射脳カルトに批判する資格はない。「放射能汚染デマは許されるが、自分達を揶揄することは許されない」はダブルスタンダードである。安倍晋三首相や原子力ムラを中傷する言論をする人物が放射脳カルトの表現を批判することもダブルスタンダードである。ある者をボロ糞に中傷することはいいが、別の人には言ってはならないというダブルスタンダードは異なる立場の人から理解を得られることはない。

これに対して「強き(の悪)をくじき、弱き(の悪を見逃して)を助ける」ダブルスタンダードを正当化する議論はある。これは議論として一歩前進である。何故ならば放射脳カルトを悪とする共通理解に立っているためである。放射脳カルトが巨悪というよりも小悪であることは同意できる。放射脳カルトが問題視された時期は2011年から2012年にかけてである。北九州市などでの暴力的な被災地瓦礫受入阻止行動で市民をドン引きさせた。また、瓦礫焼却受入支持派の主催する脱原発デモへの不参加を呼びかけるなど、脱原発運動を亀裂させた。この時点では放射脳カルトは大きな問題であった。

この時期に比べると今や放射脳カルトは大きな問題ではない。放射脳カルトの洗脳から脱して市民生活に復帰した人々も増えている。それ故に放射脳カルト撲滅が喫緊の課題と主張するつもりはない。放射脳カルトが悪であることは市民の常識となっているからこそ、脱原発運動が放射脳カルトと同視されないことが重要になる。

その上で「強き(の悪)をくじき、弱き(の悪を見逃して)を助ける」をもてはやすメンタリティは克服されるべきである。「小悪を見逃して巨悪を追及しろ」という発想は「そのようなことよりもアメリカ帝国主義と日本独占資本との戦いが重要だ」という左翼教条主義と重なる。最近では東京都知事選挙における細川護煕候補の脱原発至上主義があった。それは現代の若年層が現実に直面する問題の軽視となる。若年層が左翼に期待せず、逆に左翼に反感を覚え、右傾化することも自然な流れである。

小悪は社会を構造的に見れば「小悪」と評価すべきものであるが、個々の被害者にとって被害が微温的なものであることを意味しない。典型例はDV(ドメスティック・バイオレンス)である。弱い者が更に弱い者を叩く場合の方が過酷になりやすいとさえ言える。ゼロゼロ物件や脱法ハウスなどの貧困ビジネスも経済界では小悪に分類されるだろうが、その反社会性が小さい訳ではない。小悪被害者への冷たさは左翼が市民的支持を得られない一因である。

また、「強き(の悪)をくじき」の「美学」は社会問題において何の免罪符にもならない在日韓国・朝鮮人にヘイトスピーチするネット右翼は主観的には弱い者イジメをしている訳ではない。在日特権という強大な敵と闘っている。安倍晋三首相も本人の主観的には「戦後レジーム」という強力な体制と闘っている。十五年戦争中の日本も主観的には弱い者いじめをしていた訳ではなく、強大なABCD包囲網と闘っていたとなる。

市民生活とかけ離れた構造論や本質論ではなく、ブラック企業や貧困ビジネス、脱法ハーブなど地に足ついた市民生活の脅威となるものを批判することが市民的支持を得るために必要ではないか。放射脳カルト批判も、その一つである。



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