日本と韓国の保守層の落差

林田力

民主主義フォーラムは2014年6月16日に「韓国社会運動の「いま」を知ろう〜市民の政治参加を考える」を東京都千代田区神田神保町の岩波セミナールームで開催した。この勉強会は韓国の社会運動を知り、日本の運動を考えることが眼目であるが、私は会場で質問したように日韓の保守層の落差という点も印象に残った。

講師の安周永(アン・ジュヨン)氏は日本と韓国が似ていながらも、韓国で新自由主義が強くなる背景を3点のスライドで説明した。韓国経済における輸出依存度の高さ、財閥の寡占、政府債務の対GDP割合の低さ(積極的財政出動の少なさ)である。前二者は、それなりに日本で知られている事実である。日本経済が韓国経済よりも優れている事実としてネット右翼などには心地良い話である。

これに対して3番目の政府債務の対GDP割合は韓国財政が日本財政よりも健全であることを示すものである。このスライドを見ると日本に対して絶望的な感覚を抱く。これも日本贔屓の立場からは「それだけ借金できる日本の信用力は素晴らしい」「韓国は借金したくてもできない」などと主張するだろう。

しかし、管見は政府債務の少なさに韓国保守層の矜持を見る。政府債務の対GDP割合の低さは財政出動による景気浮揚に対する消極性を意味する。これは財界が大型公共事業の受注など税金で儲けようとはしていないということである。これは素晴らしいことである。

韓国は日本以上に財閥の寡占が酷い。それ故に財閥側に意思があれば、政財の癒着による土建国家的な利益誘導を日本以上に露骨に推進できる素地はある。ところが、財閥が国内の寡占によって国際競争力を持ったために保守層は新自由主義を徹底する側になっている。これは伝統的な保守層が政官業の癒着で土建国家を支え、新自由主義的改革の抵抗勢力にもなる日本と決定的に異なる。

韓国の保守層が自助や自己責任を強調することは一応の筋が通る。自分達の力で効率や国際競争力を得て輸出産業を築いたと自負する人々が、弱者救済に膨大なリソースを費やす大きな政府に否定的になることは理解の範囲内である。勿論、その効率性や国際競争力は国内の財閥寡占状態の上で成り立つものであり、社会構造上の不公正の下での自由競争に過ぎないのではないかという問題はある。それでも日本に比べると新自由主義の筋は通している。

日本では伝統的な保守層が国家の利権で儲けている。経営の失敗も税金によって救済させる。新自由主義を気取る勢力も自分達は税金で儲けていながら、国民に自助や自己責任を押し付けるために新自由主義思想を持ち出す傾向がある。日本では自助努力という言葉が弱者を鞭打つための言葉として使われがちである。この点で日本の保守勢力は韓国以上に後進的である。

社会運動では新自由主義との対決が声高に叫ばれる傾向がある。それは保守層が新自由主義的な韓国では鮮明な対立軸になる。しかし、日本では新自由主義以前に土建国家支持の守旧派を問題視すべきでないか。この問題意識から会場では土建国家支持の守旧派をどう評価するかという点について質問した。

安氏は、日本は韓国に比べて難しいと答えた。一口に大きな政府と言っても、公共事業は政府の裁量が働き、利権が生まれる。これに対して福祉は個人に権利として給付するものである。ここに大きな差異がある。利権の受益者は日本の政治に深く根付いており、彼らを無視することはできない。どのように彼らと付き合うかは日本の社会運動の課題になると述べた。

確かに難しい問題である。たとえばTPP反対という点では土建国家支持の守旧派と結論が一致する。それ故に共闘すべきとなる。反対に脱原発では新自由主義者と共闘して、国家利権の原子力ムラと対峙することが有効である。

この問題を複雑にする要因は護憲平和の視点からの保守のグルーピングがある。護憲平和の視点では「穏健保守と共闘して、タカ派のウルトラ保守の戦前復活に対抗しよう」との論理になる。その穏健保守とは往々にして土建国家支持の守旧派と重なり、ウルトラ保守と新自由主義が重なりがちである。安氏が冒頭で指摘したように韓国と共に日本も経済政策よりも安全保障政策が対立軸として重視される傾向にある。

それ故に社会運動全体が穏健保守・土建国家支持の守旧派と手を組んで、ウルトラ保守・新自由主義と対抗するという傾向になりやすい。この結論はウルトラ保守も新自由主義も嫌いという左翼の心情には合致する。そのために歓迎されがちであるが、左翼と土建国家擁護の守旧派の共闘は、運動に属していないような市民からは旧体制派が既得権益擁護のために大同団結したという古臭いものに映るだろう。

従って日本では新自由主義批判一辺倒ではなく、土建国家支持の守旧派への問題意識も持つ必要がある。状況によっては新自由主義的な主張が改革派として進歩的意味を持つ。その上で社会運動の側が土建国家支持の守旧派と同じ旧体制の遺物とされないようにするためのアプローチとして、安氏が言及した「普遍的福祉」は魅力的である。福祉切り捨てに世論の支持がある背景として、特定人向けの優遇措置で自分達には無縁なものという意識がある。以下の指摘がある。

「官僚による行政施策は、必ずしも権利として誰もが必要な時に請求、享受できるものではなく、行政側の裁量によって恣意的に富の再分配が行われてきた。その結果、社会的弱者の怨嗟の的となってきた」(小林由紀夫「公共圏に関わる主要アクターの社会的責任」立教大学大学院21世紀社会デザイン研究科『21世紀社会デザイン研究』10号、2011年、119頁)

それ故に誰でも受益できる福祉制度という普遍性は対抗価値になる。福祉を貧困層など特定の人だけでなく、全ての国民のためのサービスと捉える視点は宇都宮健児氏とも共通する(宇都宮健児『希望社会の実現』共栄書房、2014年、47頁)。それが生活保護バッシングなど福祉攻撃への対抗論理になる。

最後に私のスタンスを説明する。私は東急不動産消費者契約法違反原告として所謂新自由主義と批判されているものを批判することにおいて人後に落ちるものではない。それは私にとっては根源的なものである。所謂新自由主義の嚆矢は中曽根内閣とされるが、その中曽根民活の尖兵が東急エージェンシーら東急グループであるためである(林田力『東急大井町線高架下立ち退き』「東急グループはハイエナ資本主義の尖兵」)。

但し、それを新自由主義思想の産物と批判することには躊躇がある。むしろ自分達に都合の良い部分だけ新自由主義思想を利用する欺瞞性こそ批判できる。郵政民営化では東急リバブルが郵政関連施設を僅か評価額1000円で取得するなどの「かんぽの宿問題」が起きた(林田力「【かんぽの宿問題】東急リバブル転売にみる民営化の問題」ツカサネット新聞2009年2月6日)。これは日本の新自由主義改革というものが利権の分配に過ぎないものであることを雄弁に物語る。

求めるものは理不尽な権力に脅かされることのない、平和な暮らしである。避けるべきは一握りのエリートが国を統治し、その他大勢は従うだけの社会である。それは左翼的な公共の重視・市場の否定からも生まれ得るし、政府が市場よりも上手にやれるとの過信を戒める新自由主義思想からも批判されるものである。


韓国社会運動の「いま」を知ろう

民主主義フォーラムは2014年6月16日に「韓国社会運動の「いま」を知ろう〜市民の政治参加を考える」を東京都千代田区神田神保町の岩波セミナールームで開催した。最初に熊谷伸一郎氏が民主主義フォーラムの由来を説明した。民主主義フォーラムは前々回の東京都知事選挙が出発点である。選挙後も、つながりを活かして話し合いを重ねた。秘密保護法反対の集会を開催した。選挙に取り組んで痛感したことは、普段から何をしているかが問われたということである。選挙になって集まって政策を考えるというような形では厳しい。

経団連という団体がある。企業も業界や地域の利害対立がある。輸出産業と、北海道の食品メーカーでは貿易自由化について考えが異なる。それを調整することで財界は政治的な発言力を有している。この経団連の市民版のネットワークができないか。韓国と日本は共通点が多い。そこで韓国の社会運動を取り上げた。

続いて常葉大学教員の安周永(アン・ジュヨン)氏の話である。安氏は先ず韓国と日本が社会的に共通していると述べた。両国とも社会保障は脆弱である。企業規模によって待遇の格差が深刻である。企業別労働組合も日本と韓国の特徴である。少子高齢化に対応できない。社会的連帯が欠如している。政党の対立軸が経済問題よりも安全保障が主になっている。日本も韓国も社会運動の基盤と環境が弱い。

一方で韓国の特徴としては、全国統一で地方選挙が行われることである。このため、国政への評価の意味合いがある。政党の戦いが熾烈である。無所属の候補はほぼ当選不可能と言っていい。

また、韓国は日本以上に新自由主義的な経済構造になっている。韓国は対外経済依存度が高い。財閥の影響力が非常に高い。韓国では長期債務は日本に比べて小さい。これは景気浮揚策としての財政政策が行われていないことを意味する。つなり、韓国では自由化の圧力が非常に高い。進歩系と言っても民営化を推進するなど右寄りである。左派政党は長らく不在であった。地域主義の影響力が大きいため、進歩的な政党にも保守的な政治家はいる。

その中で朴元淳(パク・ウォンスン)氏がソウル市長に当選した背景として、格差の深化がある。世論調査では成長よりも分配が重要との意見が増えている。

社会運動側も変化した。福祉国家ソサエティという福祉を要求する団体が設立された。労働組合の福祉への取り組みがなされた。医療保険を統合した。労働と福祉のネットワークの結合。政党も受け入れざるを得ない。

朴候補の擁立には市民の積極的な参加があった。民主党と候補者擁立をめぐって対立したが、予備選挙で一本化した。市民が参加して巨大な政党の力を抑えることができた。

朴市長誕生後の動向として政党の対立軸が左にシフトした。民主党は民主統合党になり、市民団体と労働組合が参加した。普遍的福祉を提示するようになった。生産のための福祉から権利としての福祉を主張する。保守政党もハンナラ党からセヌリ党になり、労働規制強化などを主張するようになった。

地方統一選挙では実は野党は後退している。政権への不満はあるが、野党に期待はできないという感覚を示している。

日本への示唆として、日本には参与連帯のような総合的な団体がないことがある。政府の出す情報を検証できる強力な団体の存在は有益である。一方で大組織になったために穏健化しているとの批判もある。運動にも課題はある。労働運動の組織率が低下している。一方で保守的市民団体が活発に活動している。

社会運動の役割は大きい。どのようなビジョンを提示するか。協力政党とは緊張関係が必要である。

個人ではなく、政策集団が注目される政治を期待する。負けても次につなげる戦いにしなければならない。2014年東京都知事選挙では細川護煕候補への一本化を主張する人々がいたが、もし一本化したら負けても勝っても大変だった。勝っても細川さんが期待通りに動いてくれるとは限らない。保守系の票もあって当選した候補者は、当選しても保守票への配慮から大胆に政治を変えることはできない。支持を広げることが大切である。社会運動の役割は大きい。

続いて質疑応答である。「韓国で環境団体に携わっている。韓国の進歩政党は復活できるのか。それとも二大政党になるのか」

回答「進歩政党が衰退しているといっても社会運動は衰退していない。どのように左に政治の対立軸を動かすか」

質問「大統領選挙での世代間の得票の違いについて」

回答「世代で見事に差が出た。高齢になるほど朴支持が増え、若いほど文支持が多い。若い人はインターネットで情報入手する傾向がある。マスメディアは政権寄りの内容が多い」

質問「教育監(教育長に相当)が選挙で選ばれるようになった時期は」

回答「2008年からである」

林田力「韓国では新自由主義が強くなる構造が理解できた。一方、日本では配布資料の論文44頁にあるように『公共事業からの利益を享受していた族議員、地方の建設業者および住民が、自由主義的改革への潜在的反対勢力になる』という状況である。このような国家の利権によって利益を得る保守勢力が幅を利かせている結果が、スライド7枚目の日本政府の膨大な借金である。財政の健全性という点では韓国の保守勢力はまともと言える。運動の世界では新自由主義を敵視する傾向が強いが、それよりも国家利権で利益を得る勢力が問題ではないか。この点についての評価をお聞きしたい」

回答「日本の運動は非常に難しい。一口に大きな政府と言っても、当然異なる。公共事業は裁量で実施するために利権が生まれる。これに対して福祉は直接給付する。日本政治には利権で利益を得る人達が古くから根付いている。彼らを無視することはできない。どう付き合うかは課題である」

質問「若い世代は『政治の話をするな』と教え込まれてきた。このような状況から、どのようにして意識を変えていけるか」

回答「韓国でも『政治の話をするな』はある。日本と異なる点としては、活動の場が与えられていることである」

質問「韓国の人々の意識について」

韓国「韓国は権威主義的政権が続いた。韓国軍の軍事指揮権はアメリカが持っている。このために韓国軍が市民を弾圧したならば、アメリカが容認していると受け止めた。このために韓国では反権威主義が反米と結びつく。また、北朝鮮はアメリカの支援を受けずに独自路線を歩んでいるために親北朝鮮と結び付く」

質問「日本には共産党を排除する意識がある。それについてどう思うか」

回答「何も知らない人から見ると、共産党と社民党が共闘しないことは不思議である。韓国でも派閥の対立はある。路線の対立は解決可能であるが、人のしがらみは解決が難しい」

質問「リーダーについてどう考えるか」

回答「リーダーに頼るよりも、リーダーが生まれるような環境を作ることが大切である」

最後に宇都宮健児元日弁連会長が「日本で足りなかったことは、このような議論である。韓国に行って運動の交流をしたい」と述べた。




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