ワンルームマンション問題と良構造・悪構造

ワンルームマンション規制政策が良構造か悪構造かを分析する。ワンルームマンション規制政策は悪構造に近い。

意思決定者は多数の周辺住民が存在するために多数である。但し、現行制度上は周辺住民のアクターとしての位置づけが不十分であり、土地所有者・事業主と行政だけの問題として処理されがちである。そのこと自体がワンルームマンション紛争を深刻にしている。

目標・価値は不明確・複数で、コンフリクトがある。まずワンルームマンション建設賛成と反対で事業者と住民は対立する。反対する住民の間にも建物の高さを問題とする人、ワンルーム住民のマナーの悪さを問題とする人など様々な価値がある。

尚、低所得の単身者にとってワンルームマンションが住まいの選択肢になるという考えがあるかもしれない。しかし、ワンルームマンションは健康で文化的な住生活を営むための最低居住面積水準ギリギリの住居であり、居住者の福祉にならない。加えて、ワンルームマンションの家賃は割高であり、低所得者にとって意味のある選択肢にならない。

代替案はワンルームマンション建設反対という点では明確である。世の中で反対運動が成功した事例は、この点に集中できたことが要因である。しかし、どのような建物ならば許容できるかとなると多数の代替案が存在し、無限定である。

結果や確率はワンルームマンションを建設するか建設しないという点では明確である。しかし、ワンルームマンションを建設したこと又は建設しないことが地域や周辺住民に与えるマイナス又はプラスの影響を定量化することは難しい。

以上の通り、ワンルームマンション問題は本質的に悪構造であるが、「ワンルームマンションは問題である」「ワンルームマンションを増やしてはならない」という共通認識があれば良構造に近付けることができる。その点で東京都豊島区のワンルームマンション税のような大胆な政策が生まれやすくなる。

ワンルームマンション課題の流れ

ワンルームマンション規制について取り上げる。ワンルームマンション規制は基本的に課題の流れが政策アジェンダに押し上げている。

各地でワンルームマンション建設が住環境を破壊している。住民反対運動が起き、陳情などが提起される。また、ワンルームマンションの増加は地域の世帯構成を歪める。ワンルームマンション税(狭小住戸集合住宅税)を創設した東京都豊島区は以下のように説明する。

「区内の最近の世帯構成は、全世帯のうち単身世帯が約56%という偏った状況になっています。また一方では、区内の住宅で30平方メートルに満たない集合住宅の占める割合は約40%にもなり、いずれも23区で最も高くなっています」

ワンルームマンションばかりになることは、子育てファミリーが住めない街となり、少子化にもつながる。少子化対策としてもワンルームマンション規制が求められる。

政策案からの流れとしては豊島区のワンルームマンション税の変更がある。豊島区は2004年にワンルームマンション税を創設し、29平米未満の住戸を課税対象とした。その後、住生活基本法に基づく住生活基本計画が2006年9月19日に閣議決定され、2人世帯の「最低居住面積水準」を30平米とした。これを受けて豊島区は2010年4月1日から課税対象面積を30平米未満に変更した。

政治の流れとして日本創成会議(増田寛也座長)の消滅可能性都市がある。豊島区は東京23区で唯一消滅可能性都市として名指しされた。これを受けて豊島区は消滅可能性都市緊急対策本部を設置して分析と対策を検討した。そこではファミリー向け住宅の不足が分析されており、ワンルームマンション偏重が問題として認識された。対策になるリノベーションまちづくり構想ではワンルームの数室を結合してファミリー向けサイズにするリノベーションもアイデアに出ている。

消滅可能性都市緊急対策本部による対策の立案は政治の流れになる。さらに出発点となった日本創成会議の増田寛也レポート自体が政治の流れとの見方もできる。日本創成会議は民間シンクタンクである日本生産性本部の会議であるが、座長の増田氏が建設官僚出身であるなど形式上は民間組織でも、純然たる民間の動きとは評価できない面がある。

ワンルームマンション規制アジェンダ

ワンルームマンション規制について取り上げる。ワンルームマンションの乱立が住環境を破壊するとして問題になり、多くの自治体でワンルームマンション規制条例が制定されている。多くの条例は住戸面積の下限設定や一定割合のファミリー向け住戸の義務付けであるが、東京都豊島区はワンルームマンション税を導入した。

ワンルームマンション問題は具体的なワンルームマンション建設計画に対する反対運動という公衆アジェンダで始まる。これは建設計画の見直しという明確で具体的な要求である。そこには日照阻害、圧迫感、ワンルーム住民による風俗や治安の悪化などの阻止という課題のリストがあり、アジェンダになっている。

ところが、この要求に現行制度は、ストレートに応えられる仕組みになっていない。制度として地区計画や高度規制などは存在する。しかし、それらは建設計画以前の問題であり、建設計画を見直すものではない。

さらにマンション建設反対運動は住環境を破壊する個別のマンションを何とかして欲しいというものであるのに対し、地域全体に規制をかけるアプローチはネズミ退治に地球破壊爆弾を持ち出すほどではないにしても大袈裟である。

住環境を破壊する大型高層マンションを規制することと一戸建ての壁に派手な色で塗っていいかは別次元の問題である。ところが、街づくりの問題として建築規制が議論されると同次元の問題とされがちである。このためにマンション建設反対では団結した住民も地区計画策定ではコンセンサスを得られないケースがある。

公衆アジェンダとして見た場合、建設反対運動は公衆アジェンダとしては被害住民が限定的であり、一般大衆が注目しにくいという弱点がある。これは東日本大震災のように多数の人々が同時に被害に遭うケースには強い同情心を示すが、異なる立場の人々の苦しみへの理解力や共感力が乏しい日本社会に問題があると考えるが、それは本稿の射程から外れる。

被害住民が限定的で、一般大衆が注目しにくいことから、マンション建設反対運動はメディア・アジェンダにもなりにくい。加えて不動産業者は有力な広告出稿者であり、その批判となるマンション建設反対運動は商業メディアでは取り上げられにくい。

このために街づくりの問題をより広く公衆アジェンダ化する試みとして、ヨーロッパの統一的な街並みのような美しさを価値に掲げる動きがある。神奈川県真鶴町では政策アジェンダに採用され、「まちづくり条例」に「美の基準」を導入した。

しかし、このアプローチは、一種の全体主義であり、万人が同意できるものではない。多様な価値観の存在する都市部では困難だろう。問題として美を街づくりの価値とすると既存の住宅よりも新築のマンションの方が綺麗という論理も生じ得るものであり、マンション建設反対運動の出発点とは乖離する。

マンション建設反対運動という公衆アジェンダに直面した政策アジェンダの動きであるが、最初は住民と事業者という民間同士の問題として政策アジェンダに取り上げようとしない傾向がある。調停や斡旋の仕組みを作る、事業者に住民との話し合いの場を持つように行政指導するなどがなされる。

これらは街づくりの問題に対する政治の責任回避という側面があるが、住民運動側にも事業者との話し合いという一手段の入口が目的化するケースがある。住民運動側には話し合いを求める以外に手段がないという窮余の策である。しかし、住民運動側に労働運動家的なメンタリティがあると、何も解決していないにもかかわらず、話し合ったことに達成感を抱いてしまうケースもある。

このため、ワンルーム規制条例によって悪質なワンルームマンションそのものの建築を規制することはストレートな解決策になる。問題は規制の基準が緩く、全てのワンルームマンションを規制できないことである。「寄宿舎(学生寮)」の名目で事実上のワンルームマンションを建設する脱法的な計画もある。条例を制定して終わりではなく、運用して不具合が確認されたら、改善していくPDCAが必要である。

基準を策定しても表面的に基準を満たしても問題のある建築計画を排除できないことから、公衆アジェンダには規制の範囲内ならば全て認める建築確認を改めて、地域と調和した建築計画を認める建築許可へのパラダイム転換を主張する声がある。しかし、これは許可という官僚の権限と裁量を増大させる制度設計であり、時代に逆行する面があり、広い意味での公衆アジェンダになりにくい。また、建築許可は行政が計画に確固としたお墨付きを与えることになり(現状の建築確認もそのようなものと誤解されているが)、事業者の立場を強める恐れがある。

政策アジェンダ主導としては豊島区のワンルームマンション税に注目する。ワンルームマンション税はワンルームマンション問題を背景にしている点では公衆アジェンダから政策アジェンダへの動きである。しかし、ワンルームマンションを認めて税をとることは、マンション建設反対運動の発想ではない。

行政がワンルームマンションによって発生する住民構成の偏りなどの弊害を填補するために生まれた施策であり、政策アジェンダ主導である。それがワンルームマンション抑制に有益な手法と認識され、公衆アジェンダ化する。これが他の自治体でも採用されれば自己補強的サイクルになるだろう。

さらに政策アジェンダ主導による可能性として憲法改正による環境権の追加である。この環境権が請求権という具体的な意味を持つ権利として定められるならば、自分の住環境が侵害されるから訴えるというマンション建設反対運動の武器になる。公衆アジェンダと政策アジェンダの麗しき一致が誰も想像していなかった憲法改正によって実現するかもしれない。

公共政策の基本構造

政策「戸建て住宅と面している場合の壁面等の後退距離を1メートル以上と定める」を取り上げる。この政策は私が江東区議会に「江東区マンション等の建設に関する条例を改正し、壁面後退距離の拡大を求める陳情」として提示したものである。

(1)本政策は政策の階層性「政策・施策・事業」の観点では施策に位置付けられる。政策は採光や通風、プライバシーの確保等の戸建て住宅の良好な住環境の保持である。また、都市の過密化の防止、防災に強い街づくりも政策になる。複数の政策を実現する施策になる。事業は壁面後退距離の周知、違反建築の阻止や是正になる。

(2)本政策を政策の構成要素「目的、対象、手段、権限、財源」の点から論じる。第一に目的は戸建て住宅の良好な住環境の保持、都市の過密化の防止、防災に強い街づくりである。

第二に対象は建築主である。マンション建築主にとって本政策は規制になるが、良好な住環境や防災に強い街づくりが実現することで住民は本政策の利益を享受できる。現代ではマンションの建築主と住民は分かれており、住民の利益を重視することに価値がある。

第三に手段は直接規制である。もともと壁面後退距離は直接規制さえている分野であり、その規制を強化するものであるため、直接規制が馴染む。但し、本政策を周知するための啓発的手段を組み合わせることは有効である。また、本政策は実現されても遡及効がなければ、既存の建築は既存不適格となる。既存不適格物件の健全化のための誘導や誘因も必要になる。

第四に権限は自治体の条例制定権限に基づく。既存の江東区マンション等の建設に関する条例の改正によって実現する。国法(民法)で規定されている分野であり、上乗せ条例になる。

第五に財源は規制するのみであり、特にない。啓発的手段を用いる場合は広報費を要する。本政策は自治体財政に正の効果を及ぼす。本政策によって良好な住環境を維持することで、それが固定資産税に反映される。また、本政策によって住環境悪化や災害被害の深刻化というマイナス影響を阻止することでコストを避けることができる。

政策問題と公共政策

(1)政策「戸建て住宅と面している場合の壁面等の後退距離を1メートル以上と定める」を提示する。この政策は私が江東区議会に「江東区マンション等の建設に関する条例を改正し、壁面後退距離の拡大を求める陳情」として提示したものである。この政策の表現形式は条例である。「江東区マンション等の建設に関する条例」第13条は壁面交代距離を「規則で定める距離以上」としており、規則の裁量が大きく、実質的な法規創造力を持たない規定になっている。

江東区マンション等の建設に関する条例施行規則第9条は「条例第13条の規則で定める距離は、50センチメートルとする」とする。この50センチメートルという距離は民法第234条第1項と同じである。周辺住宅への圧迫感の大きいマンションにおいては建築物一般とは異なる規制が求められる。そこで第13条の改正を求めている。

(2)全体性の観点からは、そもそも人口が減少し、空き家が減少する中で新築マンションが建築されるという矛盾がある。中古住宅の流通促進、リノベーション・リフォーム助成などでスクラップ・アンド・ビルドから既存建物の活用への誘導を進める必要がある。また、豊島区のワンルームマンション税のような新築マンション税による住宅新築の抑制も有効である。

相反性の観点では土地の有効活用という開発者の利益と対立する。しかし、本政策は「戸建て住宅と面している場合」に限定している。戸建て住宅と面している場所にマンションを建築することは、その時点で戸建て住宅側に有形無形の不利益を及ぼすものであり、バランスの取れた規制になる。

主観性の観点では戸建て住宅が壁面後退距離50センチメートルのところ、マンションを1メートルとするもので、機械的平等に反している点に不公平感を抱く向きがあるかもしれない。しかし、アリストテレスの時代より公平性の基準とは、等しからざるものは等しくなく取り扱うことである。戸建て住宅とマンションでは圧迫感が異なり、異なる扱いが公平である。

また、防災という価値からも壁面後退距離の拡大が支持される。マンションの壁面が落下して隣家に直撃する事故が起きている(「マンション外壁崩れ、隣家に直撃」朝日新聞2015年5月28日)。防災面からは主観性を満足できる。

最後に動態性の観点では、右肩上がりの経済成長から少子高齢化の時代に転換しており、土地の高度利用の要請は時代遅れになっている。壁面後退距離の拡大は動態性を踏まえた政策である。

公共政策

冒頭の「公共政策とは何か」に引っかかった。考えてみると公共政策とは不思議な言葉である。一般に政策の実施主体は公共セクター(中央政府、地方政府)であり、政策という言葉は既に公共的なものを含意している。勿論、営業政策などの言葉もあるが、それと区別するために公共政策という言葉を用いている訳ではないだろう。公共政策が単に政策を格式高く表現する言葉なのか、それとも政策の中で特に公共性の高いものを限定する意味なのか興味がある。

第二部は公共政策の立案過程を説明しているように見える。これが順序であると最後に「規範的判断」があることが興味深い。市民の政策論議では「貧困をなくしたい」などの目指すべき価値が最初に来ることが普通だからである。しかし、それは五五年体制下のような不毛なイデオロギー論争になってしまう可能性がある。「規範的判断」を後ろにもってくることは冷静な政策議論に資する可能性がある。

林田力

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