若年層右傾化の背景と限界

林田力

日本社会、特に若年層の右傾化が大きな問題になっている。ここではネット右翼など若年層の右傾化の背景を分析し、その問題点を論じる。

右傾化の脅威は一時期ほど強調されなくなった。それは行動する保守の行き詰まりが原因である。在日特権を許さない市民の会(在特会)らの幹部は京都朝鮮第一初級学校や徳島県教組への威力業務妨害容疑で逮捕された。主権回復を目指す会では内紛が勃発し、解散会議が開催された。行動する保守は左派市民運動の手法を取り入れて伸張したが、過激化や内ゲバという極左の悪しき習性も伝染してしまった。

一方で尖閣諸島沖での海上保安庁巡視船と中国漁船の衝突事件では、幅広い層に嫌中感情と管直人政権の弱腰への反感が見られる。一部の突出した勢力は叩かれたものの、右傾化自体は国民に浸透している。それ故に右傾化の背景を分析することは今日でも意味がある。

若年層が右傾化する背景は格差社会化である。ネットカフェ難民や内定取り消し、ニート、派遣切り、ワーキングプアなど若者を取り巻く環境は厳しい。若者は貯金することも結婚することもできなくなった。ルサンチマンが鬱積した若者を中心とする人々が、自らの卑小な自尊心の代わりに民族的自尊心で代償するようになった。この分析は既に指摘されている内容であるが、実は半分しか回答になっていない。

現代日本の若者が虐げられ、搾取されていること、そして虐げられた人々が政治意識を高めることまでは説明できる。しかし、政治意識に目覚めた結果、右傾化すること、弱者(たとえば差別に苦しむ在日韓国・朝鮮人)に冷酷になれることは当然の帰結ではない。

不当に支配されている人間は、支配者に怒りと憎しみを抱く。戦後日本の支配体制は一貫して右の側であった。社会に不満があるならば左傾化が自然である。また、虐げられた人々が他の弱者の一層の不幸を望むことは、人間の浅ましい側面であるとしても、真面目に問題意識を持つ人の態度ではない。

それにもかかわらず、右傾化してしまう心理状態は以下のように説明できる。本来ならば支配者に反抗するところであるが、自分に自信を持てない人間は反抗できない。ひたすら耐えながら恨みを蓄積させていくしかない。鬱積した怨恨を抱きながら、支配の重圧に甘んじなければならない人間の心は奇妙に変化する。

現状に耐えかねて、支配者に同化しようとする。そして自分が支配者になったと勘違いすることで、支配されている状態を忘れ、自分を慰める。これがマイノリティーである在日韓国・朝鮮人や社会的弱者のために闘う労働組合を攻撃する心理的背景である。

結論として右傾化した人々が社会に不満を抱いた出発点は正しいものの、その後に歪みが生じてしまった。これでは真の問題解決を遠ざけるだけである。その限界が浮き彫りになる論文として、論座2007年1月号に掲載された赤木智弘「「丸山眞男」をひっぱたきたい 31歳フリーター。希望は、戦争。」がある。

賛否は別として、この論文は右傾化した若年層の心理を説明するものとして大きな話題になった。格差社会の日本で貧困から抜け出せないフリーターの著者が「国民全員が苦しむ平等」である戦争にしか希望を見出せないと主張した。

赤木氏は戦時中に徴兵され陸軍二等兵となった丸山眞男が中学にも進学していない一等兵に執拗にイジメられたエピソードを紹介する。そこから以下のように主張した。

「戦争とは、現状をひっくり返して、「丸山眞男」の横っ面をひっぱたける立場にたてるかもしれないという、まさに希望の光なのだ。」

この論文は戦前の軍国主義への反省をベースとする言論界には大きな衝撃を与え、強い批判もなされた。しかし、非正規労働者の置かれた悲惨な状況への認識の欠けた批判は、たとえ建前論としては正しくても赤木氏には単なる綺麗事にしか映らない。そして非正規労働者の置かれた状況が改善されていない現在でも本論文は依然として力を持っている。

私も赤木氏と同世代であり、「社会の歪みをポストバブル世代に押しつけ、経済成長世代にのみ都合のいい社会」との不満は直感的に理解できる。私自身も東急不動産(販売代理:東急リバブル)から不利益事実を隠して新築マンションをだまし売りされ、社会の矛盾を嫌というほど味わった(林田力『東急不動産だまし売り裁判 こうして勝った』ロゴス社、2009年)。

それ故に虐げられた人々の気持ちには大いに共感する。若年層を中心とするプレカリアートは矛盾が恒常化する絶望的な状況に置かれている。これが認識の出発点である。それ故に戦争にでもならなければ丸山眞男のようなエリートを殴るチャンスはないと考える。そして現状を破壊する出来事の発生に希望を抱く。

問題はインテリを殴る程度の希望で良いのかという点である。現体制に不満を抱いているならば、何故、体制の頂点に君臨する人物を殴りたいとは思わないのか。たとえば「天皇をひっぱたきたい」とは考えないのか。インテリを殴ることは代償行為にしかならない。

そして「天皇をひっぱたきたい」ならば戦争ではなく、革命を希望しなければならない。戦争は日常を破壊するとしても、現体制を守ることが目的である。戦争に組み込まれることは現体制の歯車になることである。

生きる意味すら見出せない悲惨な人生では現体制の歯車になった方が、まだ自尊心を満足させられるかもしれない。しかし、それは現体制に虐げられた者の希望として、あまりに卑小である。国家そのものとまで称されたフランス国王が死刑になったフランス革命のように革命こそが逆転の希望を抱けるものである。

天皇ではなく丸山眞男を殴りたいとする赤木氏自身には論理の一貫性がある。赤木氏の怒りの矛先は権力者ではない。「貧困労働層を足蹴にしながら自身の生活を保持しているにもかかわらず、さも弱者のように権利や金銭を御上に要求する、多数の安定労働層」に向けられている(「けっきょく、「自己責任」ですか 続「『丸山眞男』をひっぱたきたい」「応答」を読んで」論座2007年6月号)。

何故ならば「金持ちや権力者が恵まれているのは、血筋や家柄という固有属性を持っているからであり、彼らが戦争で死んだとしても、その利権は、固有属性を持たない私には絶対に回ってこない」からである。ここには血筋や家柄は覆すことができないという諦めがある。日常を根本的に覆す戦争を望みながらも、格差社会の前提を受け入れてしまっている。

ここにネット右翼の限界がある。体制の根幹に位置する巨悪には目をつぶり、自分達と近い立場を攻撃することで満足する。「自分達はフリーターなのに、在日コリアンが自営業者であるのは許せない」的な発想である。そこにとどまっている限り、ネット右翼は体制に利用されるだけで、社会を変革する真面目な運動にはなりえない。

このように若年層の右傾化は問題であるが、新たな動きも出てきた。それは世代間格差・世代間不公正に目を向け出した点である。

民族差別を助長すると批判されたものの、ネット右翼からは支持された『マンガ嫌韓流』(晋遊舎)の著者・山野車輪氏が『「若者奴隷」時代』(晋遊舎)を2010年3月15日に慣行した。同書は世代間格差をテーマにしたもので、若者が高齢者に搾取されていると訴える。

多くの若年層が貧困に苦しめられているが、それらは若年層の責任ではない。元凶は異常なまでの高齢者への優遇であると同書は主張する。『マンガ嫌韓流』で韓国・朝鮮人に向けられていた憎悪のターゲットを高齢者に移したような書籍である。

予め断っておくが、私は『マンガ嫌韓流』を支持しない。反対に『マンガ嫌韓流』を支持する層(ネット右翼)が広がっている現状を憂慮している。しかし、『マンガ嫌韓流』の著者が高齢者批判を展開したことは若年層右傾化の方向性を理解する鍵になるため、ここで取り上げる。

私は若年層の右傾化の背景を格差社会化による若年層の貧困と分析した。非正規雇用の拡大など若年層が割りを食っていることは事実である。その意味で若年層が世代間格差に目を向けることは正当である。この点の認識が左派には決定的に欠けていた。これは左派が社会に不満を抱く若年層を取り込めず、若年層が右傾化した外部要因でもある。

私は右派でも左派でもない。私が社会性を強めた契機は東急不動産との新築マンション購入トラブルであった。右派であるか左派であるかは問題外であった。搶ャ平氏は「黒い猫でも、白い猫でも、鼠を捕るのが良い猫」と発言したが、私も東急不動産だまし売り裁判の助けになるならば党派やイデオロギーは問題にならなかった。

しかし、新築マンションだまし売りに苦しむ私に共感してくれた存在は決まって左派であった。日本には実際に苦しんでいる人々の受け皿になりうるものは左派系の団体や運動ばかりという現実がある(林田力「主権回復を目指す会が在特会を批判」PJニュース2010年8月21日)。

私が左派に見えるならば、苦しむ人に冷たい日本の右派の偏狭さが原因である。この偏狭さは、草の根保守が教会を地盤とする米国などと決定的に異なる点である。

そのような私でも左派の体質に疑問を感じることがあった。平等を重視する一方で、世代間差別には無自覚な点である。その一例として私が呼びかけ人に名を連ねるメーリングリスト「CML(市民のML)」で若い女性議員を「ちゃん」付けで呼ばれた件がある。

「ちゃん」付けした当人は「自分の子どもくらいの世代の女性議員に「ちゃん」付けすることは親しみを込めてのもので、差別的意図はない」と主張した。一方で、当人は発言者に差別的意図がなくても差別の構造を生み出す発言は問題であると他者の発言を批判していた。この点の矛盾を指摘したが、問題意識が通じたかは疑わしい。

このような体質がある限り、若者から広汎な支持を得ることは難しい。世代間差別に無自覚な左派の体質への絶望と反感が、社会に不満を持つ若者を右傾化させた側面がある。前述のとおり、私はマンション購入トラブルを出発点にしているため、その助けになる限りにおいて右派とも積極的に情報交換している。彼らは左派に「団塊世代の懐古趣味」というステレオタイプなイメージを抱いている。左派のイデオロギー以前に世代間ギャップへの抵抗感が強かった。その意味で右傾化と世代間差別批判はマッチする。

私も世代間差別について問題意識を有している。それでも私が右傾化しなかった理由は新築マンションをだまし売りした不動産会社という明確な敵を認識していたためである。正しい敵を認識していたために、「在日特権」のような虚構に矛先を向けることもなかった。

世代間差別は韓国・朝鮮人差別に比べれば取り組む価値のある問題である。しかし、十羽一からげな高齢者批判は、世代間差別を生み出した制度的・構造的要因を放置してしまう。また、高齢者の中にも社会的弱者は多数存在するが、そのような層を叩いて卑小な自尊心を満足させるならば、韓国・朝鮮人差別と同じ病理に陥る。

現在日本は多くの矛盾を抱えており、若者は怒って当然である。むしろ大人しすぎるくらいである。しかし、間違った方向に怒ることは矛盾に責任のない他者(在日韓国・朝鮮人など)を傷つけ、本来の矛盾を温存させてしまうことになる。その意味で社会性に目覚めた若年層が右傾化する現状は社会にとって大きな損失である。



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