統一候補擁立の前提

林田力

1.13東京連絡会世話人会「1.13東京連絡会2014年東京都知事選の総括」は「2016年は政治的に大きな山場、これに向けて精力的な取り組みを検討していきたい」と記した(12頁)。この取り組みの具体化が今後の課題になる。本稿は、この肉付けを目指すものである。本稿は希望のまち東京in東部・第3回市民カフェ(2014年5月31日)の議論に負うところが大きいが、あくまで個人の見解である。

総括文書の「精力的な取り組み」は、原案では「国政選挙での統一候補擁立」という、より具体的な目標を記していた。総括文書は最終的に記載の表現に落ち着いたが、統一候補擁立は隠すものでも否定するものでもない。もともと起案者の私見として表明されていたものである。ただ、具体的な統一候補のイメージがまとまっていないために総括文書の記載は見送った。これは都民参加への模索連絡会夏季討論合宿のテーマになっており、本稿のテーマも統一候補擁立提案への肉付けである。

統一候補擁立のために何をするかという点について、管見は最初に市民側の意識改革を挙げる。本来ならば選挙は各人が最も優れていると考える候補者や政党を応援し、投票すれば良い。そのような建前論が悠長に見える政治情勢であるために最大公約数的な合意に基づく統一候補が期待される。ここまではコンセンサスを得ることは難しくない。

主張したい点は、その先である。最大公約数的な合意を基礎として統一候補を選出することは、各人にとって必ずしも最適でない候補が統一候補となることを意味する。そのような候補を自分達の候補として熱烈に支持し、献身的に応援する覚悟が市民側にあるかが問われる。たとえば自由主義者が共産主義者の候補者を統一候補として支持する、逆に共産主義者が自由主義者の候補者を支持することが成り立つかという問題である。自由主義者と共産主義者は極端な組み合わせとして挙げたものであるが、より近い存在である共産主義者と社会民主主義者に置き換えても日本の実情では楽観できない。

統一候補擁立は独創的なものではなく、様々なところで試みられている。しかし、そこでは他者に自分達の候補者を応援させる論理として使われる傾向があった。その種の論理は我田引水に映り、統一候補の必要性自体の否定という形の反発が返る。統一候補擁立には自分達が我慢するという発想が求められる。それは面白いものではなく、モチベーションは湧きにくい。故に「統一候補擁立は無理筋である」も一つの結論である。逆に我慢する覚悟のない統一候補擁立の動きは混乱要因にしかならない。

当然のことながら、個人レベルでは絶対に譲れない論点というものは存在する。他の政策では全て合致していても、当人が重視する一点で見解が対立するために支持できないという結論もある。個人の決断として尊重されるべきであるが、全ての人がそのように動くならば統一候補は成り立たない。それ故に最大公約数的な合意を基礎とする候補を自分達の候補と応援できる市民を増やすことが活動の第一歩になる。容易ならざる道ではあるが、それが進まなければならない道である。

4つの課題

以下では統一候補擁立の基礎となる最大公約数的な合意を何にするかを検討する。これは総括文書で「4つの課題」として提示されている。「脱原発・脱被曝・被害者完全救済」「市場原理主義との決別」「日本国憲法の継承発展」「新しい民主主義政治・制度の確立」である(11頁)。これらの世論形成・政治争点化を日常的に取り組むと掲げている。この「4つの課題」も起案者の私見として提示されたものであり、その妥当性が議論されるものである。管見は「4つの課題」を支持する。これは幅広い支持を得る結集軸であり、高いハードルを定めて支持を狭めるためのものではない。

第一の課題は「脱原発・脱被曝・被害者完全救済」である。脱原発は市民派の合意の大きな基礎になる。2014年東京都知事選挙では次点の宇都宮健児候補と3位の細川護煕候補の得票を合わせると、当選した舛添要一候補の得票に拮抗した。宇都宮候補と細川候補の政策の重なる部分は脱原発である。私は宇都宮氏を支持し、細川氏を批判した立場であり、都知事選挙が分裂して宇都宮氏が次点となったことに大きな意味を見出しているが、新たに市民派の統一を考えるならば脱原発から考えることは穏当である。

当然のことながら脱原発を公約に掲げることと、脱原発しか言わないことは異なる。後者に固執するならば2014年東京都知事選挙の分裂が繰り返される。「4つの課題」として複数の課題を掲げていることは脱原発至上主義の否定である。

「脱原発・脱被曝・被害者完全救済」には議論すべき論点が2点ある。一つは脱原発の意味についての対立である。脱原発を原発ゼロ・再稼動阻止と捉えるか、将来的に原発をなくしていく緩やかな発想と捉えるかの対立である。

脱原発運動にとって脱原発は前者である。脱原発運動からすれば条件付で再稼動を認める人物を脱原発派とは認めないだろう。再稼動を容認すれば橋下徹氏のように裏切り者扱いされる。また、2014年東京都知事選挙の宇都宮候補と細川候補も原発ゼロでは一致していた。ここからすると条件付再稼動容認論は後退になる。

他方で脱原発の言葉の由来からすれば、一切の再稼動を認めないというガチガチなものである必要はない。新自由主義の脱原発は電力自由化によって原発稼動で儲からない社会制度にすることで原発をなくしていく考えであり、再稼動を認めるか否かは決定的な問題ではない。国民の多くが脱原発であると言っても、それが脱原発運動の脱原発と重なる訳ではない。2014年東京都知事選挙の細川・小泉純一郎元首相も原発ゼロを唱えたが、脱原発運動と同じ主張になったことは細川候補が保守層に食い込めなかった一因である。

一つの妥協案として「絶対安全なもの以外は再稼動を認めない」がある。「絶対安全な原発はない」との立場からのものであるが、後の紛争の種になる。再稼動を推進する側は安全性を主張するためである。別の妥協案として「任期中は再稼動しない」「再稼動は住民投票で合意を得ることを条件とする」などが考えられる。

もう一つの論点は脱原発・脱被曝・被害者完全救済と3要素を並べたことの是非である。幅広い支持を集めることを目指すならば脱原発の一点に絞るべきとの主張が考えられる。脱原発以外に別の要素を加えるならば、それだけ合意のハードルが高くなる。

脱原発・脱被曝・被害者完全救済と3要素を並べることの積極的理由は、脱原発問題がエネルギー政策や電源選択だけの問題ではなく、生命や人権の問題であることを示すところにある。但し、左翼的な脱原発運動は逆にエネルギー政策、電源選択の視点が欠落する傾向がある。この点は国民一般の脱原発と乖離があるところであり、むしろ電力自由化・発送電分離などへの理解を深めるべきである。逆に新自由主義的脱原発を排除するハードルとして脱被爆を強調する傾向も一部には見られるが、それは統一候補擁立とは真逆の考え方である。

脱被曝を掲げることはマイナスとの主張も考えられる。放射脳カルトと同視される危険があるためである。この点では脱原発・脱被爆ではなく、脱原発・脱被曝・被害者完全救済としたことに意味がある。被害者完全救済を掲げることで、福島で復興に取り組む人々からも支持される脱原発になる。福島を差別する放射脳カルトと差別化できる。

第二の課題「市場原理主義との決別」は幅広い。TPP、消費税、労働・ブラック・貧困、国家戦略特区、規制緩和、社会保障・福祉、子育て支援、老人、公共の復権、農林水産政策、消費者行政などを想定する。ここでは市場原理主義の意味が論点になる。一つは市場原理主義を新自由主義とイコールなものとして、社会民主主義やソーシャル・リベラル、福祉国家思想を対置する。もう一つは市場原理主義を新自由主義思想と別物と捉え、新自由主義思想の信奉者も市民派に含める立場である。

後者にとって市場原理主義は富裕層が富を増やすために都合のいいところだけ新自由主義思想を利用するものである。郵政民営化に際して東急リバブルが郵政関連施設を評価額1000円で取得し、4900万円で転売したような国家利権による金儲けである。市場原理に忠実でもないため、市場原理主義という言葉も正しくないが、他に流布している用語がないために市場原理主義との言葉を用いる。これは新自由主義思想にも反する。

米国で話題の書籍トマ・ピケティ(Thomas Piketty)『21世紀の資本論』(Capital in the Twenty-First Century)の資本主義批判「資本収益率が国民経済の成長率を上回るため、富が一部に集中して、格差が拡大する」も政治権力が利潤配分の仕組みを利己的に決める社会制度が原因である。貧困と格差は市場の失敗というよりも政府の失敗が原因である。

マルクス主義の洗礼を受け、実務はケインズ経済で高度経済成長の一翼を担った人々に新自由主義の嫌悪感が強いことは想像に難くない。純粋な論理と言うよりは考えの癖、あるいは好みによって新自由主義を嫌悪している可能性は考慮しなければならない。その可能性があることを自問しつつ、なるべく教条的にならずに、どのような形が適当であるのか、機能的な側面から論じるように努力する必要がある。

第三の課題「日本国憲法の継承発展」は憲法を政策の中に具体的・明示的に活かす、徹底平和主義などを想定する。ここでの論点は既存の護憲運動との距離感である。一つは護憲運動そのものとする立場である。もう一つは護憲運動とは距離を置き、もう少し緩く考える立場である。

「日本国憲法の継承発展」というだけでは、集団的自衛権も憲法改正さえも否定することにはならない。憲法改正が日本国憲法の発展になるとの論者も包含できる言葉である。前者の立場に立つならば「日本国憲法の継承発展」以上の要素「解釈改憲反対」「憲法改正反対」などを盛り込みたいところである。後者の立場に立つならば逆に「日本国憲法の継承発展」のみという緩やかさが幅広い支持を得るために肯定できる。

第四の課題「新しい民主主義政治・制度の確立」は情報公開・公文書管理・特定秘密保護法廃止、常設型有権者直接投票制度(レファレンダム)、市民参加・分権・自治の具体的制度化(イニシアティブ、リコール制度、パブコメ、市民協議会・地域協議会等)、オンブズマン制度、NPO・NGO支援活用政策などを想定している。

ここでは理念としての共感をもって是とするか、具体的な制度の実現を求めるかが論点になる。現実に住民投票を公約に盛り込まなければ支持しないという動きもあった。そのような厳格なハードルは幅広い支持を集めようとする立場とは逆のものである。

この「新しい民主主義政治・制度の確立」は政治家や政党の支持を得る上で障害になる可能性がある。政治家を志すような人は現行制度の間接民主制を信奉しているところがあり、直接民主主義的制度への拒否感がある。それでも現在の間接民主制が問題ないと言えるものでないことは明らかであり、小手先の議会改革で解消するような生易しいものでもない。それ故に「新しい民主主義政治・制度の確立」の問題意識を共感する人を求めたいところである。それは職業政治家ではなく、市民の要求としてふさわしいものでもある。




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