宇都宮けんじ

宇都宮健児『希望社会の実現』

林田力書評

宇都宮健児『希望社会の実現』(共栄書房、2014年)は2012年東京都知事選挙の立候補者であり、2014年東京都知事選挙に出馬を表明(刊行当時)した著者の書籍である。著者の公約である希望社会にするための提言、日弁連会長としての経験、2012年東京都知事選挙の経験、自叙伝などの内容がある。

著者は弁護士として多重債務問題に取り組み、グレーゾーン金利を撤廃させた。また、反貧困ネットワーク代表や派遣村名誉村長、ゼロゼロ物件被害対策弁護団長など苦しむ人々や虐げられた人々の側に立って活動してきた。このために貧困問題の記述が特に深い。

貧困問題は難しい。納税者は税金の受益者に対して不公平感を抱いている。税金の受益者の側も引け目を感じてしまう。これに対し、著者は社会保障を貧しい人だけ補助する政策ではなく、貧しい人であろうと中間層であろうと金持ちであろうと皆平等に受けられる制度を志向する(47頁)。

これは重要な指摘である。小泉構造改革で格差社会化する前の日本社会は一億総中流と言われていた。しかし、それは決して平等な社会ではなかった。公務員と民間労働者、正社員と事務職・アルバイトには格差があった。年金や健康保険でも制度的な格差があった。労働者派遣法成立以前から景気の調整弁となる社外工が存在した。今の格差社会の根は戦後に日本に既に存在していた。それ故に貧困問題の根本的な克服には、小泉構造改革を批判して過去を懐かしむのではなく、戦後社会そのものの根本的な批判も求められる。

ところが、日本の左翼は護憲に象徴されるように戦後の枠組みを守ることにばかり注力しているように見受けられる。「戦後レジームからの脱却」を唱える安倍晋三首相への強固な反発も、それによって説明できる。安倍首相の目指す脱却方向は支持できないとしても、戦後の枠組みを守るだけでは実際に苦しむ人々にとっては既得権益擁護の運動にしか見えなくなる。当の格差社会の犠牲者である若年層が左翼に魅力を感じず、右傾化してしまう要因である。

この点で著者の指摘は戦後の制度を守ることに安住しない新しさがある。著者は「イデオロギーや政治的立場を超えた連携・連帯が大切」と述べる(31頁)。著者にはイデオロギーを超えて支持できる要素があり、それを伸ばしていきたい。


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