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だまし売りNo

広島県警の押収品盗難事件で死亡警察官を書類送検か

広島県警広島中央署では2017年5月に特殊詐欺事件で押収された現金8572万円が盗難された。状況的に警察内部の犯罪だろう。犯行が可能な人物は限られている。犯人を特定できないことが尋常ではない。

警察ジャーナリストの飛松五男氏は以下のように指摘する。「盗まれた多額の現金は重要な証拠品です。警察では証拠物は厳重な管理下に置かれ、何重もの厳しいチェックを行うのが基本中の基本です。それが警備厳重な金庫から盗まれた。実に不可解極まりなく、証拠隠滅に等しい事態です」(「広島県警の押収金盗難、信頼失う異例事態/識者の目」日刊スポーツ2019年2月5日)

警察は事件発覚後に死亡した当時30代の警察官の男が関与した疑いが強まったとして書類送検に向けた調整を進めていると報道された(「警察署8572万円盗難事件 死亡警察官の書類送検に向け調整」RCC中国放送2019年2月21日)。この警察官は、事件が発覚する2か月前まで広島中央警察署に勤務し、押収された8572万円に関わる広域詐欺事件を担当。

捜査対象の一人として事情聴取や自宅の家宅捜索を受けていた。関与については否定していた。警察官は事件発覚後に休職していたが、2017年9月に広島市内の自宅で亡くなっていたのが発見された。遺書などはなく病死とみられる。何故今頃なのか。身内を庇っているとの疑いもあるし、死人に口無しで責任をなすりつけようとの疑いもある。外部の第三者が入って調査しなければ納得性は得られない。

この警察官は2017年春以降にギャンブルなどで抱えた数千万円の借金の一部を返済していたとする(「広島中央署の金庫から8500万円盗難 事件後死亡の男性警察官送検へ」毎日新聞2019年2月21日)。埼玉県警で急死した男性の遺族から約82万円をだまし取った草加署刑事課巡査も「スマホの課金ゲームやパチンコのやり過ぎで多額の借金があった」という(「人として最低…草加署巡査を免職 警察署内で遺族から現金詐取の疑い「ゲームやパチンコの借金返済に」」埼玉新聞2018年11月17日)。

盗まれた現金は犯罪財産を国が没収して被害者に給付する制度などに基づき、被害弁済に充当される可能性があったが、現在も見つかっていない。広島県警は職員らが現金を出し合って全額補填する前代未聞の方針を出した。補填することと説明責任を果たすことは別問題である。補填すれば真相は有耶無耶で良いとはならない。
警察による押収品の杜撰な管理は他にもある。埼玉県警では警察署で保管していた死亡小学生の遺品の腕時計を紛失した。しかも紛失の隠蔽工作までしていた疑いがある。事件を担当していた元男性警部補が紛失に気付いて腕時計の記載があった押収品目録交付書を遺族の母親から回収し、破棄した。さらに「腕時計」の記載を削除して改めて渡していた疑いがある。これも紛失だけでなく、着服の観点からも外部の第三者が調査する必要があるだろう。

警察の腐敗を描く映画『ポチの告白』コメントが『ぴあ』に掲載

警察の腐敗を暴く映画『ポチの告白』(高橋玄監督)に対する林田力のコメントが雑誌『ぴあ』2009年2月19日号37頁に掲載された。掲載されたコメントは以下である。「警察犯罪という問題の深さを知った。国民が誰もチェックできない仕組みは改善すべきではないのか。その他いろいろなテーマが盛り込まれていて、それらを上手くつなげる監督の力量に感服した」

『ポチの告白』は警察タブーに正面から切り込んだ社会派大作である。警察問題ジャーナリストの寺澤有氏がスーパーバイザー・原案協力・出演の3役をこなしている。
主な出演者は菅田俊、野村宏伸、川本淳市、井上晴美、井田國彦、出光元。配給会社はアルゴ・ピクチャーズである。東京の新宿K’s cinema(ケイズシネマ、東京都新宿区)で2009年1月24日に公開され、私は公開初日の初回上映を鑑賞した。
「ポチの告白」は真面目な警察官・竹田八生(菅田俊)が警察組織の中で悪徳に染まり、自滅していく過程を描く。数々の警察犯罪を取材してきた寺澤氏が内容を提供しただけあって、警察の腐敗の実態はウンザリするほどである。しかも、恐ろしいことに警察犯罪を糾弾できない仕組みになっている。司法機関や報道機関までも抱き込んだ警察による恐怖支配の体制が描かれている。
以下の文章を想起させる。「警察官にとっての法と秩序とは、個人的権力を大切にかかえこんでいるほとんどの人間と同様、彼にとって大切な個人的権力を生み出してくれる打ち出の小槌なのである。しかも彼の胸の中には常に、自分が奉仕している一般大衆に対する鬱屈な憤りがある。彼らは彼の被保護者であると同時に、彼の獲物なのだ。」(マリオ・プーヅォ著、一ノ瀬直二訳『ゴッドファーザー下巻』早川書房、2005年、45頁)
『ポチの告白』に登場する警察官は腐敗した悪人ばかりである。総務の女性職員さえ捜査協力費の虚偽請求に協力している。しかし、彼らが全て骨の髄まで悪人然としていないところが、逆に問題の根深さを感じさせる。最大の悪徳警官は刑事課長(後に署長)の三枝(出光元)であるが、その彼でさえ好々爺然としたところがある。自らの責任回避を最優先とする小役人でしかない。陰謀話の後に趣味の釣り自慢をするなど、自らの悪事について真剣に自覚しているかさえ疑わしい。公務員失格であることは当然であるが、悪人としても無責任である。
それは主人公の竹田にも当てはまる。彼の告白は宣伝コピー「日本を震撼させる、衝撃のラスト6分」のとおり、とても迫力がある。しかし結局のところ、「警察官は上司の命令には逆らえない」ということである。自分の行動によって被害を与えたことに対する内省の要素は乏しい。この無責任体質は政治家や行政、企業の不祥事にも共通する。
私は東急不動産(販売代理:東急リバブル)から不利益事実(隣地建て替え)を説明されずにマンションを購入したために裁判で売買代金を取り戻した経験がある(林田力『東急不動産だまし売り裁判 こうして勝った』ロゴス社、2009年)。このトラブルで記者が絶望したことは、一生に一度あるかないかの買い物で問題物件をだまし売りし、消費者の人生設計を狂わせかねない結果に対する東急不動産担当者の無関心さであった。東急不動産の体質を裁判で目の当たりにした私は、このような会社の物件には住んでいられないという思いを強くした。
本作品は警察を批判するだけでなく、警察支配を許している日本人も批判する。ポチに甘んじる一般日本人と対照的な存在が草間(川本淳市)である。最初は「木鐸」という言葉も知らない無学のチンピラ風の彼が独学で勉強し、日本外国特派員協会で警察犯罪を告発するまでになる。
過去を水に流すことが日本人の習性とされるが、執念深く声を上げていかなければ状況は変わらない。これは私自身が東急不動産のトラブルで声を上げた経験から実感をもって断言できることである。奇しくも草間は下の名前に因みリッキーと呼ばれ、林田力と同じである。その意味でも竹間には大いに感情移入できた。
「ポチの告白」は、ぴあ株式会社の「ぴあ満足度ランキング」では同日公開の映画の中で3位にランクインした。これは映画鑑賞後の観客に「ぴあ」の調査員が映画館の前で実施するアンケートをまとめたものである。
私もアンケートに応じ、そのコメントが雑誌「ぴあ」に掲載された。「ぴあ」の満足度調査では最初に映画の総合的な評価を100点満点中何点であるかを回答する。その上で感想を自由に述べる。次にストーリー、映像、演出、音楽、俳優の各項目を5段階で評価する。また、項目別の感想も自由に述べる。このように満足度調査では、映画のCMでよく使われるワンフレーズの感想とは異なり、詳細な回答が求められる。回答内容をうまくまとめたコメントが雑誌に掲載される。
「ぴあ」の調査で興味深い点は観客の年代である。「ポチの告白」観客は男性の50代以上と30代が多く、40代と20代以下は少ない。社会性の強い映画であるため、50代以上という年配の観客が多いことは理解できる。しかし、40代を飛ばして30代が多いことは一見すると不思議である。
2009年当時の30代はロストジェネレーションと呼ばれ、新卒採用時は就職氷河期で、ワーキングプアやネットカフェ難民という格差社会の矛盾を押し付けられた損な世代である。この不合理はバブル入社世代である40代と比べると、一層顕著になる。個人差はあるものの、世代的に見るならば30代の方が40代よりも社会矛盾への問題意識が強くなることも当然の成り行きである。それが「ポチの告白」の観客傾向に反映したと考える。
「ポチの告白」は警察犯罪という重いテーマや上映時間の長さ(3時間15分)がネックとなり上映に苦労した作品で、ようやく単館上映にこぎつけたという経緯がある。高橋監督は初日の舞台挨拶で、「映画を観られた皆さんで広めていって欲しい」と話した。多くの人が鑑賞し、日本社会について考えて欲しい映画である。私のコメントが、その一助になったならば喜びである。(林田力「映画「ポチの告白」が健闘」オーマイライフ2009年2月10日)




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