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林田 力 『東急不動産だまし売り裁判』著者

イノセンス 冤罪弁護士

『イノセンス 冤罪弁護士』は冤罪に立ち向かう弁護士を主人公としたテレビドラマ。無実にもかかわらず逮捕や起訴される冤罪の恐怖や自白強要の人質司法の実態を描く。日本テレビ系列で2019年1月19日から放送を開始した。第1話は実在の冤罪事件の下高井戸放火事件を下敷きにした。第1話の平均視聴率は8.3%。
冤罪を生み出す警察官や検察官は憎々しい。他人の気持ちを慮る、あるいは愛想というものを母親の胎内に置き忘れてきたかのような憎たらしい表情であった。冤罪を反省しない警察の体質は腐臭を放つヘドロのような暗闇である。物事には許容出来ないものが確かに存在する。
ドラマ『99.9 刑事専門弁護士』と設定が似ている。どうしても『99.9 刑事専門弁護士』と比較したくなる。『99.9』よりも重たい雰囲気である。重たいテーマであり、重たいドラマになることは当然である。むしろ、社会性とコメディを両立させた『99.9』が稀有である。『99.9』が冤罪ドラマ視聴者の裾野を広げたことで、重たいドラマも可能になったと見るべきだろう。
もっとも『イノセンス 冤罪弁護士』にもエンタメ要素は存在する。主人公の黒川拓弁護士(坂口健太郎)はコミュ症気味である。これは前に進むだけの明るいキャラクターよりも現代的である。真相にたどり着く時の閃きシーンは『99.9』の深山弁護士(松本潤)と似ている。
深山弁護士の完璧さよりも、黒川弁護士のようなコミュ症気味だけど有能の方がキャラクターとしては好きである。しかしながら、父親が冤罪被害者という深山弁護士と、反発しているとは言え、エリート検察官の家庭に育った黒川弁護士では背景の重さが違う。比較されることは俳優にとって酷だろう。
作中に登場する戦隊物ヒーローは、残業レッドや接待ピンクなどブラック企業を風刺している。社食イエローはオムライスばかりの社員食堂なのだろうか。
法律事務所に住んでいる点は『ブラックペアン』と重なる。『ブラックペアン』と重なる点では猫田看護師を演じた趣里が有能なパラリーガルを演じる。ここでも主人公を支えるが、黒川弁護士が火災の後始末をほっぽりだした点は怒っていた。
『イノセンス 冤罪弁護士』ではコメディが空回りしているところもある。黒川弁護士は同僚弁護士をイラつかせる。これは『99.9』と同じであるが、和倉楓弁護士(川口春奈)は主人公より能力がないのにキャンキャン叫ぶだけであり、ウザさしか感じない。『99.9』では深山弁護士にわざと相手を怒らせて楽しむようなところがあり、安心してみていられた。
和倉弁護士は役者が可哀想になるくらい、イメージが悪い。本当は前の勤務先でセクハラと戦い、上司から黒川弁護士の妨害を命じられた際に抵抗するなど骨のある設定がある。そこは今後活かせるだろうか。
『99.9』は法律事務所がバックアップしたが、『イノセンス 冤罪弁護士』は法律事務所の上層部が足を引っ張ろうとする。現実味は『イノセンス 冤罪弁護士』が上であるが、ドラマとして観る上では重苦しさがある。

『イノセンス 冤罪弁護士』第8話

『イノセンス 冤罪弁護士』第8話(2019年3月9日)は再審請求に取り組む。名張毒ぶどう酒事件が下敷きである。指宿林太郎検事(小市慢太郎)は法律事務所の所長を呼びつけて、最高裁が結論を出したものに再審請求することを非難する。しかし、そもそも再審である以上、最高裁の判断にNOを突きつけることである。それを脅しにする検事は制度を理解していない。

今回は非歴史的な日本社会の問題点が描かれる。世間は風化しても苦しんでいる人は苦しみ続けている。終わったことにして前に進もうとする日本人の悪い体質が出ている。日本社会は「お前が我慢すれば全て丸く収まる」と負担を特定人に押し付けがちである。

現実の名張毒ぶどう酒事件と同じく、司法制度としては救いのない結果になった。裁判所は前例主義の公務員感覚が濃厚で、前の判決を否定することを過度に恐れているのではないか。

世の中に裁判官個々の判断の誤りを訴えるしかないだろう。これまで個々の判決に対して不当判決であるとの批判や裁判所の組織への批判はなされてきた。しかし、裁判官個人の業績が批判の対象になることは乏しかった。制度批判の陰に隠れて、個々の責任者はヌクヌクしているという側面がある。

たとえば埼玉県北本市立北本中学校いじめ自殺裁判(平成19年(ワ)第2491号損害賠償請求事件)の東京地裁民事第31部判決は非常識と大きく批判された。同級生から「きもい」と悪口を言われ、下駄箱から靴を落とされ、「便器に顔をつけろ」と言われるなどの事実がありながら、判決は「一方的、継続的ではなく、自殺の原因になるようないじめがあったとは認められない」として自殺生徒遺族の訴えを棄却したためである。また、最高裁裏金訴訟の訴訟指揮も批判されている。しかし、北本いじめ裁判と最高裁裏金裁判の裁判官が重なることはあまり知られていない(舘内比佐志裁判長、後藤隆大裁判官)。

ドラマでは受刑者の人格が壊れる拘禁反応を取り上げる。日本は刑期が諸外国と比較して軽過ぎるとの声が強い。一方で受刑者の被る苦痛は地球で一、二を争うくらい上位である。拘束の度合いが桁違いである。

過剰拘束と侮辱が日本の監獄の特色である。不要な命令を繰り返し、受刑者を踏みつけて楽しむ。刑務所、少年院のどちらにも保護房と称する拷問がある。見張りの暴行も当然視されている。刑務所は移動のさいに手足を伸ばし、歩きかたまで命令する。罵声、怒鳴りは挨拶代わりである。海外では監獄にも最低限の道徳のようなものがあるが、日本にはない。見張りの優越感のためのペットが実態である。人質司法と並び、日本の人権後進国を示すものである。

AKB48元支配人の不適切Twitterが炎上

NGT48山口真帆さん暴行被害事件では山口さんの告発後、今村悦朗NGT48支配人(当時)は雲隠れし、説明責任を果たしていない。ところが、2019年3月に今村前支配人はAKB48の戸賀崎智信元支配人や 細井孝宏支配人と居酒屋で酒を飲んで談笑していた。戸賀崎支配人は飲み会の写真と共に「みんなぐたらない報道に惑わされないように(原文ママ)」とのTwitterを投稿した。これが無神経と批判されて炎上した。問題のTwitterは削除された。バカッター事件を笑えない。

AKB48を運営する株式会社AKSは2019年3月7日、今村悦朗氏の契約解除、細井孝宏氏の退任を発表した。発表は以下のように記載する。「NGT48に関する事案について第三者委員会にて調査中であるにも関わらず、立場ある人間が不適切な行動をしてしまったことを、会社として厳粛に受け止め、前NGT48劇場前支配人今村悦朗との契約を解除し、AKB48劇場支配人の細井孝宏氏の退任を発表いたします」

NGT48運営は事件に対し、コミュニケーション不足との的外れの反省の弁を出した。その運営関係者が飲みニュケーションで刺された。これはコミュニケーション至上主義に対する痛烈な皮肉になる。

そもそもAKBは地下アイドルから発展した。20世紀的な芸能界のスタイルとは異なるところが大きな魅力であった。その運営が不都合な事実を誤魔化す20世紀的な日本型組織であることを露呈したことは、21世紀のアイドルを応援していたファンには大きな失望である。20世紀的な日本型組織の悪癖を絶ち、21世紀に相応しい組織が求められる。

この事件は真相を早期に説明して公表した方が損害は少ないという警察不祥事や企業不祥事と共通する事例です。簡単に隠蔽できると甘い考えで嘘に嘘を重ねて反発を強める展開は東急不動産だまし売り裁判(東急不動産消費者契約法違反訴訟)と重なります。インターネット上では東急リバブル・東急不動産に対する批判が急増し、炎上事件として報道されました(「ウェブ炎上、<発言>する消費者の脅威-「モノ言う消費者」に怯える企業」週刊ダイヤモンド2007年11月17日号39頁)。

NGT48山口真帆さん暴行被害事件コミュニケーション不足は的外れ

https://www.hayariki.net/ngt48/

NGT48山口真帆さん暴行被害事件コミュニケーション不足は的外れ

NGT48山口真帆さんが暴行被害に遭った事件ではNGT48運営の不誠実さが目立つ。特に問題はNGT48運営がコミュニケーション不足を反省理由に挙げていることである。コミュニケーションは双方で成り立つ。コミュニケーション不足を問題とすると相手にも改善を求めるという責任転嫁ができてしまう。

また、コミュニケーション不足を原因とすると、コミュニケーション強化が対策になる。しかし、今回のような事態では、第一に優先すべきことは山口さんのケアである。運営が山口さんと直接コミュニケーションをとることは山口さんの負担になる。弁護士などの代理人を通じてでなければ話さないとなっても不思議ではない。

コミュニケーションがあろうとなかろうと暴行事件は問題である。その背後にNGT48関係者がいたならば不祥事である。コミュニケーションは無関係である。コミュニケーションで誤魔化すコミュニケーション至上主義は日本社会の悪癖である。

 

この事件は警察の対応も批判されている。埼玉県警の不祥事である桶川ストーカー殺人事件との共通性を指摘する声がある。

「桶川で起きた「ストーカー殺人事件」を持ち出すまでもなく、ストーカーに困って警察に相談したが、とりあってもらえず、無残に殺されてしまったケースはこれまでも多くあったではないか。」(元木昌彦「「NGT事件」なぜ秋元康は謝罪しないのか」プレジデントオンライン2019年1月22日)

私は桶川ストーカー殺人事件の書評でストーカー規制を強化すればよいというものではなく、半グレの見方をするような警察が問題と指摘した。この事件でも該当する。

『イノセンス 冤罪弁護士』第7話

『イノセンス 冤罪弁護士』第7話(2019年3月2日)は「青梅のカサノバ」が登場する。紀州のドンファンが下敷きだろう。今回はイノセンスでもなければ、冤罪でもないというタイトルと異なる話となった。

黒川拓弁護士(坂口健太郎)は真実を追求することで冤罪を明らかにしてきた。これは『99.9 刑事専門弁護士』の深山大翔弁護士と同じである。黒川弁護士や深山弁護士の関心は専ら事実である。それによって見込み捜査で冤罪を作り上げる警察や検察から無罪を勝ち取った。

これに対して従来のステレオタイプでは、熱心な刑事事件の弁護人の関心は人権であった。「知りたいのは事実」と人権擁護が両立するとは限らない。『デスノート』のLや『相棒』の杉下右京のように違法捜査など手段を選ばずに事実を明らかにするキャラクターも事実重視である。捜査側ではなく、被疑者・被告人側で事実重視のヒーローを生み出したことは新しい。

今回は、「知りたいのは事実」と弁護活動が対立するパターンである。黒川真(草刈正雄)は「本当のことを知りたいという動機で成り立つ弁護活動はない」と黒川弁護士を批判する。違法捜査など手段を選ばずに事実を明らかにしようとする発想を根本的に批判するためには、やはり正しい手続きや被疑者・被告人の防御権の思想が必要である。

ドラマは被告人が最後に優等生的な態度になり、無理やり物語をまとめた感がある。日本国憲法第38条第3項の「何人も、自己に不利益な唯一の証拠が本人の自白である場合には、有罪とされ、又は刑罰を科せられない」との関係はどうなるのだろうか。但し、情状弁護の中で青梅のカサノバの悪徳商法ぶりを明らかにすることになるので、その点では意味のある告白であった。

イノセンスでもなければ冤罪でもない話であったが、警察や検察の冤罪製造機は相変わらずである。警察の証言の獲得の仕方は誘導的であった。また、監視カメラが検察の主張を崩すために使われる。監視カメラの映像を弁護人が平等にアクセスできることが必要である。

『イノセンス 冤罪弁護士』第6話

『イノセンス 冤罪弁護士』第6話(2019年2月23日)は銃殺事件の弁護と子どもの誘拐事件が並行して進む。冤罪事件の解決というよりもエンタメ要素が強い。シリアス話も刑事ドラマ的な内容である。第1話の冒頭にあった誰でも人質司法の被害者になるという啓発色がなくなった。一般視聴者迎合の視聴率テコ入れだろうか。

それでも日本の刑事司法の問題の描写はある。検察官が弁護人に対し、情状酌量が無難と弁護方針を押し付けようとしている。これは越権であるが、この種の不透明なやり取りが存在することを示している。但し、多くの視聴者にとっては東京地方検察庁には指宿林太郎(小市慢太郎)検事しか存在しないのかという点が気になるところである。

穂香(趣里)の息子の晴斗は和倉楓弁護士(川口春奈)にプロポーズする。『クレヨンしんちゃん』の野原しんのすけのような四歳児である。黒川拓弁護士(坂口健太郎)はコミュ症気味のイメージがあったが、子どもにはコミュニケーション能力が高い。ベースにも造詣がある。

樽前裕也(須賀健太)は人間の屑である。須賀健太は『今日から俺は!!』ではヤンキー高校生であった。それが大人になったような存在である。冤罪被害者があらゆる意味で聖人君子ではなく、そうであっても冤罪は許されないというドラマの描き方は正当である。しかし、今回は、あまりにあからさまに屑過ぎて現実味が乏しい。実際の人間の屑は、もっと卑怯で狡猾なところがある。被害者と加害者を逆転させるような狡さを持っている。

また、親の財力で揉み消しをしながら、息子の悪事と人間性を露見させて終わっている。親の事業も悪徳商法であり、それも明らかになるという展開の方がドラマチックではないだろうか。別府所長は裕也の悪事が冤罪ではないとの理由で弁護活動を断るが、それは弁護士の存在意義として問題がある。

次回予告には「青梅のカサノバ」が出ていた。紀州のドンファンが下敷きか。黒川真(草刈正雄)は「本当のことを知りたいという動機で成り立つ弁護活動はない」と批判する。『99.9 刑事専門弁護士』では真実を知ることが冤罪を明らかにすることであった。『99.9 刑事専門弁護士』よりも深い問題を突くのか注目される。




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