ラグビー知的観戦のすすめ

廣瀬俊朗『ラグビー知的観戦のすすめ』(KADOKAWA、2019年)はラグビーの魅力を説明した書籍である。ラグビーの魅力は多様性とする。身体の大きな人間にも小さな人間にも、足が速い人間にも遅い人間にも、力が強い人間にもそれほど強くない人間にも、それぞれの個性を活かしたポジションがある。

ラグビーは他の球技と比べて手軽に行えないイメージがあり、様々な人々に向いているスポーツとの指摘は意外であった。女子ラグビーも成長していることは、ラグビーが多様性を包含するスポーツであることを実証することになるだろう。

ラグビーの多様性を示すものに代表選手の資格要件がある。サッカーやオリンピックの代表選手は国籍が要件である。ラグビーでは国籍に加えて地縁も要件になる。ある地に3年以上居住し、その地のラグビー協会が代表に選べば、外国人であっても代表になれる。世界帝国であった大英帝国に由来するが、グローバリゼーションの21世紀に合っている。

本書はラグビー選手にとって一番重要なものを品位とする。身体をぶつけ合い、相手にケガをさせてしまうこともあるスポーツだからこそ、フェアプレー精神が求められる。相手への攻撃になるタックルは相手からボールを奪い返すことが目的である。競技が異なるが、日本大学アメリカンフットボール部の悪質タックル事件の悪質さが浮き彫りになる。日大選手が、関学大側のボールを持っていない選手に背後からのタックルを繰り返した。報道が過熱したと言われたが、加熱しても足りないくらい異常な行為であった。

ラグビーは多様性を包含するため、ルールは複雑になるが、相手に怪我をさせるような卑怯なことはしてはならないという思想が根底にある。ラグビーではボールの争奪戦にはチームの真後ろからまっすぐに入らなければならず、相手が獲得したボールを妨害してはならない。後から来た選手が横から入ってボールを奪おうとするとオフサイドという反則になる。

私はオフサイドという反則をサッカー漫画『キャプテン翼』で知った。そこでは相手チームをわざとオフサイド状態にさせるという技巧的な手段で登場した。これは本来のルールの目的を無視した手口である。依存性薬物を合法ドラッグや脱法ハーブと称して販売するから問題ないという類の卑怯さと重なる。宅地建物取引法上の賃貸借契約ではない脱法ハウスとして、宅地建物取引業者の義務を免れることを正当化する貧困ビジネスの卑怯さとも重なる。オフサイドの趣旨は、そのようなものではない。

サッカーとラグビーは同じフットボールから分岐した。分岐した理由に激しい接触プレーに対する考え方の違いがある。サッカーは手でボールを扱うことを禁じ、激しい接触プレーが起こらないようにした。これに対してラグビーはフェアプレー精神を重んじることで、激しいタックルなどの接触プレーを認めた。

個々人に問題を起こさないようにするよりも、問題が起こらないように制度的な仕組みを作るという観点からサッカーがラグビーよりもメジャーなスポーツになったことは自然である。一方でラグビーの思想にも注目すべき点がある。ルールで全て規制するのではなく、徹底的に議論するという思想がある。試合中に選手が審判と話し合うことも珍しくない。



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